3.国際組織犯罪への対応

1)国際組織犯罪の現状と課題

 中国人を中心とする我が国への不法入国事犯は、平成11年後半から減少傾向にありましたが、平成13年から再び増加傾向に転じ、予断を許さない状況が続いています*1。特に増加が著しい中国人の密航の背後には、いわゆる「蛇頭」と呼ばれる「密航請負組織」があります。この組織は、日本の暴力団等と国境を越えて共謀し、密航者の勧誘、搬送、日本での密航者の受入れなどを国際的、計画的、組織的に行っています。我が国に不法滞在する外国人の中には、密航によるものが相当数いると考えられており、最近社会問題化しているピッキング用具の使用による窃盗事件も、大半が不法に滞在する外国人によるものといわれています。
 また、薬物や銃器の密輸については、これまでは国内の暴力団組織が関与するケースが大部分を占めていましたが、最近はこれに加え、国際的な犯罪組織が国内における受取り側として関与する事件が発生しています。国連薬物統制計画(UNDCP)の報告によると、全世界で薬物の不正取引による収益は約4,000億ドル(約54兆円)ともいわれているように、密輸は巨大な利益を生み出すものです。この利益を求めて、いわゆる国際犯罪組織がそのネットワークを利用して大規模な密輸を敢行しており、我が国は政府を挙げてこの種の犯罪の撲滅に取り組んでいます。
 海上保安庁においても、国境を越えて組織的に行われる密航や薬物・銃器の密輸といった国際組織犯罪を摘発するため、全力を挙げています。
 これらの国際組織犯罪を効果的に摘発するためには、国際犯罪組織の動きを事前に察知するための情報入手が極めて重要です。また、事件発生時には、実行犯だけでなく背後に控える国際犯罪組織をも一網打尽にすることこそが、国際組織犯罪の撲滅につながるものですので、そのために必要な体制を構築、強化することが課題であると考えて取り組んでいます。

集団密航者の水際での阻止状況(警察検挙分を含む)

*1 巻末資料第4 「不法入国者検挙件数の推移」を参照
*2「集団密航」とは、平成9年5月10日以前(入管法改正前)については、5人以上で船を仕立てて密航してきたもの及び10人以上で貨物船に潜伏して密航してきたもの、それ以降は2人以上で密航してきたものをいう。


2)国際組織犯罪撲滅への取組みと成果

 巧妙な国際組織犯罪に的確に対応するには、何よりも、事前に情報を入手することが重要です。そのためには各国との国際的な協力関係を早急に構築・発展させることが必要不可欠と考えています。そこで、海上保安庁では、米国、ロシア、韓国、中国、カナダの海上警備機関に呼びかけて長官級の会合を開催し、国際犯罪組織に対する地域レベルでの多国間の協力関係を築くとともに、ロシア、韓国、中国の海上警備機関との間では、二国間の協力関係を構築しています。

大量集団密航を水際阻止!!
〜初の日中治安機関の連携による密航摘発事例〜

 平成13年10月11日、海上保安庁は、中国公安部から『近々船舶による日本向けの大量集団密航が敢行される。』との情報を得たことから、直ちに警察庁へ情報提供し、中国側を含め三機関で共同捜査体制を立ち上げるとともに、航空機による容疑船の捜索を開始しました。
 13日午後4時頃、当庁航空機が八丈島南西海上を日本向け北上中の中国漁船らしき不審な船舶を発見し、監視を続けていたところ、14日午後6時頃、同船は、千葉県野島埼東方の公海上で房総半島方面から接近してきた小型船と会合したので、密航者の受渡しを行ったものと考えられました。しばらくして2隻は各々来た方向へ向けて航走を開始し、密航者を受け取ったと思われる同小型船は領海に達したので、海上保安庁、警察及び中国公安部の日中三機関は、事前の打ち合わせ通り密航者及び関係者を入管法違反容疑で一斉検挙に踏み切りました。洋上においては、巡視船艇・航空機により、同日午後8時頃千葉県片貝漁港沖合で同小型船を、同日午後11時頃千葉県野島埼南東で不審な船舶をそれぞれ捕捉し、16日までにこの2隻の乗組員8名と同小型船の中に潜んでいた中国人集団密航者91名(うち女性29名)を入管法違反容疑で逮捕しました。
 また、警察は、本年2月14日までに、海上保安庁との共同捜査において隠れ家を準備していた者など計4名の受入者を随時入管法違反容疑で逮捕しました。
 さらに、中国公安部は中国国内で本件関与者4名を逮捕しています。
 中国公安部から海上保安庁へ入った1本の国際電話に端を発した今回の密航摘発は、日中の3つの治安機関が、密航を阻止するため、連携協力して共同オペレーションを行い、国際的な犯罪組織関係者とともに大量の集団密航者の摘発に成功した初の事例となりました。

密航者が乗船している小型船を制圧する海上保安官(千葉県片貝漁港沖)
密航者が乗船している小型船を制圧する海上保安官(千葉県片貝漁港沖)

巡視船に先導されて千葉港へ向かう密航者の運搬船
巡視船に先導されて千葉港へ向かう密航者の運搬船

大量密航者の受け取りに使用された小型船(左から2番目)
大量密航者の受け取りに使用された小型船(左から2番目)


3)今後の展望

 国際組織犯罪の摘発水準の向上を図るため、海上保安庁では、平成14年4月、「国際組織犯罪対策基地」を設置しました。今後、この組織を中心に本庁、管区はもとより、国内外の関係機関と密接に連携しつつ、情報収集・分析及び機動的かつ広域的な捜査活動の強化を図っていきます。

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