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海の安全を確保するために海上交通の安全確保
海上交通の安全確保の目標としては、ふくそう海域における航路を閉塞するような大規模海難の発生数*1を0.1に維持することです。海上保安庁では、社会、経済に大きな影響を与えるような大規模海難の阻止に努めています。
*1ふくそう海域における航路を閉塞するような大規模海難の発生数とは、海上交通安全法適用水域(当該水域周辺の港則法適用港も含む)及び関門港において、一般船舶(全長50m以上)が通常航行する航路を閉塞または閉塞する恐れがある大規模海難の単位時間(10年)における発生件数を1年当たりに換算した数値である。 平成13年度における大規模海難の発生数はゼロであり、0.1に維持するという目標は達成されました。 達成された要因の一つとして、航路における船舶交通の安全かつ能率的な運航を確保するため、東京湾、瀬戸内海等のふくそう海域において海上交通センターの適切な運用を行っていることが挙げられます。 海上交通センターは、海上交通に関する情報を常時把握・分析し、航行船舶に対して、きめ細かな情報提供を行うとともに、海上交通安全法及び港則法に基づき、巨大船等が航路を安全に航行できるように、航法指導等の航路しょう戒を行う巡視船艇と連携しながら航行管制を行っています。 平成13年度には、海上交通センターからの情報提供等により、大規模海難を未然に阻止するといった緊急事態回避事例が20件ありました。 【来島海峡航路 緊急事態回避事例】
(1)海上ハイウェイネットワークの構築 海上保安庁では、ふくそう海域における大規模海難を阻止するために、関係省庁と連携して、新しい海上交通体系の構築などのソフト施策と、湾内航行のボトルネックを解消する国際幹線航路の整備等のハード施策とを有機的に組み合わせることにより、船舶航行の安全性と海上輸送の効率性を両立させた海上交通環境として海上ハイウェイネットワークを構築していきます。 特に、東京湾では、入湾から着岸まで湾内ノンストップ航行を実現させ、安全性の向上や航行時間の短縮を図るために、AIS*1の導入(トピックス「AIS導入に向け、ITを活用した航行援助システムに関する専門家会議開催 」参照)や東京湾口航路整備事業*2に併せ、新しい交通体系の構築やAISによる船舶の動静把握、航行管制等に活用する管制制御システムの高度化、大型原油タンカー等の危険物積載船の事故発生時の詳細な影響評価(リスクアセスメント)について、平成13年度は、現状の把握・整理、今後の方向性について調査・検討を行いました。平成14年度も、引き続き新しい通航方式及び管制システムの提案、シミュレーションによる評価・検討をしていきます。 【海上ハイウェイネットワークの構築】 一方、SOLAS条約*3の改正により、一定の船舶について、AISの搭載が平成14年7月から平成20年7月にかけて段階的に義務化されることから、AISを活用した次世代型航行支援システムの整備に向け、海上交通センター、灯台等にAISを装備し、新しい情報技術を導入した次世代海上交通センター、サイバー灯台へと進化させ、船舶の運航支援の高度化と管制の効率化を推進していきます。 平成13年度には、海外から専門家を招待してAISシンポジウムを開催し、AISに関する世界と日本の現状及び動向について意見交換会を行いました。平成14年度は、AISの導入に向け実施設計を行い、平成15年度には、東京湾等において本格的運用に向けた整備に取りかかることとしております。 平成15年度以降は、太平洋側のふくそう海域や海難の多発している海域(ふくそうベルト海域)に次世代海上交通センターとサイバー灯台を整備(フェーズ1)し、次に特定港などの重要海域に整備(フェーズ2)し、最終的には全国的に整備していくことを考えています(フェーズ3)。 【AIS搭載船舶による動静の把握状況】(イメージ) 【次世代海上交通センター及びサイバー灯台のサービスエリア】 次世代海上交通センターとサイバー灯台を整備することにより船舶交通の安全性が向上するのみならず、船舶による物流が飛躍的に効率化することが期待されます。 例えば、海上を移動する船舶の位置をリアルタイムで把握することが可能となることから、合理的な海陸複合物流の実現と物流コストの低減が期待されます。また、船舶運航の定時性が確保され、海上輸送効率が向上し、モーダルシフトの展開や運送時間の減少につながることから、二酸化炭素の排出量削減など環境への効果も期待されます。 (2)航路標識の整備 陸上で車、人などが安全に通行できるよう道路交通標識が設置されていますが、海上にも船が安全に航行できるように航路標識が設置されています。 陸上に道路があるように海上にも航路(船の通る道)があります。陸上では白線を引いたり、舗装することで道路だと一目でわかりますが、海上には白線はありません。航行船舶がこの航路からはみ出すことにより、浅瀬に乗り上げるなどの重大な事故につながることがあります。 このため航路側端を明示している航路標識を「見える」から「見やすい・わかりやすい」へと高機能化を図るため、同期点滅、光力増大等の視認性の向上、航路を道路のようにラインで明示できるようにレーザー技術を利用した航路標識の開発整備を行っています。 また、地球温暖化問題や産業廃棄物の処理問題に対処するため、CO2排出量の削減と使い捨て電池使用ゼロを目標に、太陽光発電、風力発電及び波力発電といったクリーンエネルギーの導入を促進しています。具体的には、平成13年度末現在、航路標識全体数の約43%にこのクリーンエネルギーを導入しています。 今後とも環境の変化に対応しながら、安心して暮らせる社会を構築するためにも、海上交通の安全確保を使命として航路標識の整備を推進していきます。 レーザー技術を利用した航路標識 航路標識の高機能化 (3) 海難防止思想の普及・啓発 平成13年の海難の発生原因を見ると、運航の過誤や機関取扱不良といった人為的要因に起因するものが約7割を占めています。 この人為的要因による事故例を掲げると次のようなものがあります。
なお、プレジャーボートの事故防止に向けた新たなアプローチとして検討している海道の旅(マリンロード)構想については、「◇ マリンレジャーの安全推進 3.目標に向けた取り組み 」 のページを参照してください。 *1 AIS (Universal Ship-borne Automatic Identification System) 自動船舶識別システム 船舶が自船の情報(船名、船舶の大きさ、船舶の種類、位置、針路、速力等)を周囲の船舶や陸上局に継続的に発信し、他船から同様の動静情報を自動的に取得するシステム。 *2東京湾口航路整備事業 国際幹線航路の整備として、東京湾において国土交通省港湾局が行っている、第3海堡(東京湾防衛の要塞として大正10年に完成したが現在は暗礁となっている。)の撤去及び現在水深17mの中ノ瀬航路を23mまで浚渫する工事等で平成12年12月から実施されており、平成19年に完成予定の事業 *3SOLAS 条約(International Convention for the Safety of Life at Sea,1974)1974年の海上における人命の安全のための国際条約 タイタニック号沈没事故を契機に、それまで各国がそれぞれの国内法によって規定していた船舶の安全性確保について国際的に取り決めた条約。船舶が備えるべき設備や構造についして規定されている。 |