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海上防災対策

1目標

 海上保安庁では、地震等の自然災害発生時における人命の保護や海洋への油・有害液体物質流出事故、原子力災害等の人為的災害による被害を最小限にくい止めることを目標としています。
 このために、海上保安庁では、
(1) 自然災害発生時の災害応急対策を迅速・的確に実施する体制の確立
(2) ナホトカ号流出油災害と同規模の大規模油流出事故が発生した場合に、必要な船艇・資機材を迅速に動員できる体制の確立
(3) 有害液体物質流出事故に対する防除体制の確立
(4) 原子力災害対策として、防災基本計画に定められた海上保安庁の担当する業務を的確に実施できる体制の確立
(5) タンカー等の大規模火災に対応できる消防体制の確立
(6) 気象・海象情報収集体制の強化
を図ることとしています。

2目標の達成

 平成13年度は、次の施策を実施し、体制の確立を図りました。
(1)  自然災害発生時の災害応急対策を迅速・的確に実施するとともに、関係機関との合同訓練を実施し、連携の強化を図りました。
 また、平成12年6月に発生した三宅島噴火災害においては、平成13年9月20日まで三宅島近海に巡視船を派遣して、緊急時の防災関係者等の島外避難などの安全対策等を実施したほか、気象庁の三宅島観測業務に引き続いて協力を行うなど、関係機関と連携し災害応急対策を実施しました。
(2)  油流出事故発生時における災害応急対策を迅速・的確に実施するため、関係機関と合同訓練を実施し、連携の強化を図りました。
 特に、官民合同の調整・防除機関として、全国に設置されている排出油の防除に関する協議会メンバーとの間では、関係機関相互の連絡の緊密化、資機材等の備蓄整備及び海上防災訓練を実施しました。
(3)  原子力災害対策として、防災基本計画に定められた海上保安庁の担当する業務を的確に実施できる体制を確立するため、関係職員に対する研修、資機材の整備及びマニュアル整備のための専門家を交えた調査研究を実施したほか、関係機関との合同訓練に参加しました。
原子力災害対策訓練にて放射線測定を行っている様子
原子力災害対策訓練にて放射線測定を行っている様子
(4)  関係機関との合同訓練等により、消防能力の向上を図りました。
 大型化したタンカー等の大規模火災に対応できる消防体制を確立するため、老朽化した消防艇1隻の代替として、平成14年3月、15万トンタンカー火災に対応可能な35メートル型巡視艇(消防型)1隻が就役しました。
(5)  流出油の漂流・拡散を最小限に食い止めるには、漂流予測の精度を向上させることも重要です。そのため、新たに巡視船4隻に対して船舶観測データ集積・伝送システム*1を搭載しました。また、海上保安庁の海況データベースに気象庁の海上風データを取り込むなど、気象海象情報の収集体制の強化を図りました。

【東京湾における漂流予測例】
【東京湾における漂流予測例】
※上の図は東京湾の木更津沖で流出した油が、時間とともに拡散していく様子をシミュレートしたものです。

*1 油流出事故などの海難事故現場に急行した巡視船から、現場海域の気象海象情報を人工衛星を利用してリアルタイムに伝送するシステム

3油排出事故の発生状況

 平成13年に海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故は206件発生しました。この油排出事故を船種別に見ると、タンカーは11件で全体の5%を占めています。

防除措置が講じられた油排事故件数
防除措置が講じられた油排事故件数

4船舶火災の発生状況

 平成13年は、船舶火災が110件発生しました。この船舶火災を船種別に見ると、漁船が66件と依然として多く、全体の60%を占めています。

船舶の火災事故件数

 海上保安庁では、全国各地の海上保安部署に消防船艇を始めとする消防能力を有する巡視船艇を配備し、消火や延焼の防止のための措置等を講じています。

5目標に向けた取組み

(1) 排出油防除対策の強化
 海上保安庁では、排出油防除のための排出油防除資機材の充実、事故発生時における原因者等防除措置の実施者への指導及び助言を行います。さらに、原因者側の対応が不十分な場合には海上保安庁自らが排出油の防除等を行い、被害を最小限にする措置を図ります。
 また、平成7年のOPRC条約*1発効に際し、関係省庁が密接に連携して事故に対応するために設置された「油汚染事件に対する準備及び対応に関する関係省庁連絡会議」(事務局 海上保安庁)等を通じて、関係機関が一体となって油流出事故に対処していくよう引き続き連携強化に努めます。

(2)サハリン沖油田プロジェクトへの対応
 平成11年7月から原油の生産が開始されているサハリン東方沖にて平成13年10月30日に新たな油田の商業化が宣言されたことから、引き続き合同机上訓練、実動訓練等を通じた関係機関との連携強化等、サハリン沖油田における大規模油流出事故に対応できる体制の強化を図ります。

(3)多国間協力体制の構築
 大規模な油流出事故が発生した場合、その影響は一国のみにとどまらず複数の国に及ぶことがあり、被害を最小限にするためには、隣国同士が協力して事故対応にあたる必要があります。
 このため、日本、韓国、中国及びロシアの四カ国は、日本海及び黄海における海洋環境保全を目的とした北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)を採択しました。この計画では、海洋汚染緊急時対応に関する沿岸国の協力体制の整備、海洋汚染の準備及び対応に関する情報交換、地域緊急時計画及び了解覚書の策定等が行われています。
 海上保安庁は関係省庁と連携の上、これらの取り組みに積極的に参画し、この海域において油流出事故が発生した際に関係国が協力して円滑な対応を行うための体制構築に努めます。

(4)消防体制の強化
 老朽化した消防艇の35メートル型巡視艇(消防型)への代替整備を図ります。
 また、原油、LNG*2等の危険物を積載した大型タンカーに対して、海上交通安全法指定航路通航時の消防能力を有した船舶の配備の指示及び荷役中における一定の消防能力の確保についての指導等海上消防体制の確保を引き続き行います。
 なお、平成15年から計画されているLNGの内航輸送については、国内初の船舶による二次輸送であり、ふくそう海域である瀬戸内海の航行が予定されていることから、火災が発生した場合に備え、その主要な航路となる部署の職員に対し消防研修を行うこととしています。

(5)原子力災害対策の強化
 原子力災害発生時には、救助・救急活動、モニタリングの支援等を行うこととしており、これらの業務を的確に実施するため、専門機関における研修の実施、放射線測定器等の整備、原子力防災マニュアルの作成、関係行政機関や事業者との連携の強化等を行います。

(6)自然災害への対応
 我が国は、太平洋プレートやユーラシアプレート等が複雑に接する地域に位置していることから、地震や火山活動が活発です。また、気象的にも梅雨前線や秋雨前線の停滞、あるいは、夏季から秋季にかけて襲来する台風の進路上に位置するなど、自然災害が発生しやすい地理的条件を有しています。
 海上保安庁では、これら自然災害が発生した場合、巡視船艇・航空機による被害状況調査や救助活動等の災害応急対策を迅速・的確に行います。
 また、平成14年4月に中央防災会議で東海地震の地震防災対策強化地域の見直しが行われたことから、海上保安庁の東海地震防災対策の見直しを行います。
 さらに、次のような資料を整備し、防災関係機関に提供します。
1) 住民の避難及び支援物資の搬入等のために防災情報を網羅した「沿岸防災情報図」
2) 火山噴火活動の総合的な基礎情報をデータベース化した「海域火山基礎情報図」
3) 当庁が保有する詳細な海底地形データを基に津波のシミュレーションをした「津波防災情報図」


【海域火山基礎情報図】

【災害対策に必要な防災情報を網羅】【各機関の連携による住民の救出】

【津波防災情報の例】
【津波防災情報の例】


*1OPRC 条約(International Convention on Oil Pollution Preparedness,Response and Co- operation,1990 )油による汚染に関わる準備、対応及び協力に関する国際条約
大規模油流出事故に対応するための国際協力体制の確立等を目的とした国際条約である。

*2LNG(Liquefied Natural Gas )液化天然ガス
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