|
1.不審船対策(1)過去の不審船事案海上保安庁がこれまで確認した不審船は、平成13年12月の九州南西海域における不審船1隻を含めて21隻です。過去の主な不審船事案には次のものがあげられます。
昭和60年宮崎沖で発見された不審船
(2)不審船事案への対策の強化平成11年3月の能登半島沖不審船事案を踏まえ、今後とも政府が一丸となって不審船事案に対応するという認識のもと、内閣官房を中心に関係省庁において検討がなされた結果、同年6月、関係閣僚会議において、「能登半島沖不審船事案における教訓・反省事項について」が了承されました。その中で、「不審船への対応は警察機関たる海上保安庁が第一に対処し、海上保安庁では対応することが不可能若しくは著しく困難と認められる場合には、海上警備行動により自衛隊が対処するとの現行法の枠組みの下、必要な措置を検討」することを基本的な考え方として、具体的には次のような内容がまとめられました。
これを踏まえ海上保安庁では、不審船を捕捉するために十分な高速性能及び航続距離を有し、目標を自動的に追尾する機能を有した20ミリ機関砲を装備し、防御機能を強化した高速特殊警備船3隻を日本海側に配備しました。また、既存の高速小型巡視船の配属替や、20ミリ機関砲の整備、防御機能の強化を実施しました。 日本海側に配備された高速特殊警備船3隻 さらに、夜間の監視能力を強化したヘリコプター2機を整備し、ヘリコプターに防弾装備を施すなど監視体制及び対応能力の強化を図ってきました。 夜間監視能力強化・防弾装備を施したヘリコプター また、海上自衛隊との連携強化を図るため、防衛庁と海上保安庁との間で、不審船に係る「共同対処マニュアル」を平成11年12月に作成し、海上自衛隊と連携訓練を行っています。 巡視船と護衛船との合同訓練 (3)法律の整備「能登半島沖不審船事案における教訓・反省事項について」において、「不審船を停船させ、立入検査を行うという目的を十分達成するとの観点から、危害射撃の在り方を中心に法的な整理を含め検討」することとされ、これを受けて関係省庁において検討がなされました。不審船は、我が国領域内における重大凶悪な犯罪への関与が疑われています。こうした犯罪を未然に防止するためには、海上保安官による的確な立入検査の実施が極めて重要であり、その実効性の確保が不可欠となります。 これまでの海上保安庁法では、海上保安官等の武器の使用については、警察官職務執行法の規定が準用され、犯人の逃走の防止又は公務の執行に対する抵抗の抑止等のため必要なときは武器使用が認められるものの、人に危害を与えることが許容されるのは、(1)正当防衛・緊急避難、(2)重大凶悪犯罪の既遂犯及び(3)逮捕状等の執行の場合に限定されていました。 不審船は、単に逃走を続けるだけで、その外観等からだけでは船内でどのような活動が行われているか必ずしも確認できないため、この(1)〜(3)の要件を満たすとは言えず、不審船を停船させるための船体に向けた射撃は、人に危害を及ぼす可能性が否定できないことから、事実上行えませんでした。 このため、海上保安庁では、平成13年11月に、繰り返し停船を命じても応じず、なお抵抗又は逃亡しようとする船舶に対し、海上保安庁長官が一定の要件に該当すると認めた場合には、停船させる目的で行う射撃について、人に危害を与えたとしても違法性が阻却されるよう、海上保安庁法を改正しました。 なお、次で述べる九州南西海域不審船事案では、不審船が確認されたのが我が国領海外の排他的経済水域でしたので、この改正規定は適用されませんでした。 海上保安庁長官が認める要件
1) 外国船舶と思料される船舶が我が国領海内で無害通航でない航行(国際法に違反する航行)を行っている。
2) 放置すれば将来繰り返し行われる蓋然性がある。 3) 我が国領域内における重大凶悪犯罪の準備のためとの疑いを払拭できない。 4) 当該船舶を停船させて立入検査をしなければ将来の重大凶悪犯罪の予防ができない。 (4)九州南西海域不審船事案と今後の取組み九州南西海域で起きた不審船事案では、トピックスで紹介したとおり、海上保安庁は、防衛庁からの第1報入手後、直ちに巡視船艇・航空機を動員して23時間にわたって不審船を追跡し、巡視船から上空・海面への威嚇射撃及び威嚇のための船体射撃を行いました。しかしながら、同船は逃走を続け、巡視船に対し自動小銃及びロケットランチャーのようなものによる攻撃を加えたため、巡視船から正当防衛のための射撃を行いました。その際不審船からの攻撃により、対応にあたっていた巡視船「あまみ」「きりしま」「いなさ」が多数の銃弾を受けるとともに、巡視船「あまみ」の乗組員3名が腕などを負傷しました。その後、同船は爆発(原因不明)・沈没しました。沈没後、海上保安庁は、巡視船艇・航空機により、付近海域において不審船の乗組員の捜索を行い、2遺体を揚収したほか、北朝鮮の製品と思われる煙草のパッケージや菓子袋など、多数の漂流物を揚収しました。 九州南西海域不審船事案航路図(平成13年12月22日) 逃走を続ける不審船
【自航式水中カメラによる不審船船体調査の結果】 船首部の「長漁3705」の表記
現在、海上保安庁は、鹿児島の第十管区海上保安本部に捜査本部を設置し、漁業法違反及び海上保安官に対する殺人未遂容疑で捜査を進めています。捜査機関としては不審船の国籍特定はもとより、不審船の活動内容を明らかにし、犯罪目的の解明等のためには、不審船を引揚げて船内を詳細に調査することが必要不可欠であると考えています。 2月25日から3月1日までの5日間にわたり、測量船「海洋」搭載のサイドスキャンソナーを用いた調査により沈没位置付近にエコーを認め、巡視船「いず」搭載の自航式水中カメラを用いた調査により、沈没した不審船の外観、「長漁3705」との船名表記等を確認しました。 今後、これらの調査結果を踏まえ、4月中旬以降に潜水士及び潜水艇により沈没している船体の外観調査等を実施し、引揚げが物理的に可能かどうかなど船体の状況をより詳しく調査することにしています。 なお、現場は我が国が事実上中国の排他的経済水域として扱っている海域であることもあり、引き揚げについては、中国と調整しつつ適切に対応することにしています。 一方、今回の事案では、不審船からの攻撃で海上保安官3名が負傷したこと、政府内部の連絡のあり方等について問題があったのではないかと指摘を受けたことなどを勘案し、内閣官房が中心となって、海上保安庁を含む関係省庁間で、今回の事案の検証作業を行いました。 この検証の結果については、平成14年4月にとりまとめられたところですが、この中で、特に海上保安庁に関係する点としては、
また、検証の結果の中では、今後、政府としての武装不審船に対する対応要領を策定することとなっています。 海上保安庁では、この検証結果を踏まえ、できる限り速やかに、職員の安全確保と海上保安庁の不審船対応能力の強化を図り、今後の不審船事案対策に万全を期すことにしています。 内閣総理大臣へ報告する四船長 国土交通大臣から表彰を受ける四船長 *1 EEZ (Exclusive Economic Zone )排他的経済水域 領海に接続する水域であって基線から200 海里までをいう。この水域では以下の主権的権利が認められている。 (1)天然資源の開発等に係る主権的権利 (2)人工島、設備・構築物の設置・利用に係る管轄権 (3)海洋の科学的調査に係る管轄権 (4)海洋環境の保護及び保全に係る管轄権 |