治安を維持するために

密航・密輸対策

1目標

 密航・密輸事犯の取締りの目標は、摘発水準の向上です。
 海上保安庁では、海上ルートによる密航・密輸を水際で阻止するために、巡視船艇・航空機をより効果的に活用しながら、国内外の関係取締機関との連携強化等各種対策に取組み、摘発水準の向上に努めています。
 最近の密航・密輸事犯には、これまでのような国内の暴力団組織の介入に加え、海外の犯罪組織が関与し、その手口もますます巧妙・多様化しており、これらを水際で阻止するためには、関係取締機関はもとより、国民の皆さんから密航・密輸に関する情報を入手することが必要不可欠となっています。
 このことから、検挙した件数だけではなく、内外の関係取締機関との連携や密航・密輸に関する情報の入手状況等を考慮して「摘発水準の向上」を総合的に判断します。
 平成9年から平成13年の摘発件数の平均は、18件となっていますが、薬物・銃器事犯の摘発水準を向上させるために、海上保安庁では平成14年から平成18年の平均を22件以上とすることを一つの目標として、その達成に向け取り組んでいきます。

2目標の達成

《密航事犯について》
 平成13年においては、海上保安庁及び警察により、船舶を利用した集団密航事件*1を41件検挙しました。そのうち33件(80%)は警察との合同捜査により事案を解明したもので、前年の合同捜査率(8/19件、42%)を大きく上回っています。このことからも、関係機関との連携が図られ、難度の高い密航事犯の摘発に結びついたと考えられます。
 摘発の代表例としては、平成13年10月に発生した千葉県九十九里浜の片貝漁港沖での大量集団密航事件が挙げられます。これは、中国公安部から海上保安庁に密航情報の第一報が入り、海上保安庁、警察及び中国公安部の治安機関が連携して、日中合わせて計107名にのぼる密航関係者を逮捕したもの(トピックス「初の日中連携作戦―密航請負組織等を一網打尽―」を参照)です。
《密輸事犯について》
 摘発件数は残念ながら減少していますが、警察及び税関と連携して、外国船舶から大量の覚せい剤を押収した事例(事例1参照)や、密輸事件としては初めて海上保安庁の緊急通報用電話番号「118番」への通報がきっかけとなり自動車の不正輸出事件を摘発した事例(事例2参照)などがあります。
[事例1]
 平成14年1月、海上保安庁、警察及び税関の合同捜査本部は、中国公安部と協力して密輸容疑船を発見しました。同船の捜査を実施したところ、ポリ袋に入った覚せい剤約150kgを発見・押収し、乗組員7名を覚せい剤取締法違反で逮捕しました。
[事例2]
 小樽海上保安部は、平成13年10月、民間人からの118番通報をもとに、ロシアに向け航行中であったロシア籍貨物船(187トン、ロシア人11名乗組)を洋上にて捕捉し、その後、警察及び税関と合同で、小樽港において同船の立入検査を実施したところ、同船には自動車が3台積載されており、それらの車体番号を照会した結果、全て税関の輸出許可を受けていないものであることが判明しました。このため、同船船長を関税法違反(無許可輸出)で逮捕しました。

*1 「特集1 の 集団密航者の水際での阻止状況」のグラフを参照

3事犯の分析

《密航事犯について》
 平成12年に激減した集団密航事犯は、平成13年に入り再び増加傾向に転じ、平成13年には海上保安庁及び警察が船舶を利用した集団密航事件を41件摘発し、密航者415名、手引き者等101名の計516名を検挙しました。これは、前年に比べると件数で22件増、密航者で316名増、手引き者等で57名増となっています。
 密航者の国籍別内訳は、中国人が345名と全体の83%で最も多く、次いでイラン人24名となっており、依然として中国からの密航者が高い割合を占めています。
集団密航者の国籍別検挙状況

 船舶を利用した集団密航事件の検挙数が増加した理由としては、次のことが考えられます。
  • 中国人の集団密航に関しては、日中間には依然として所得格差があり、密航者の我が国への密航熱は冷めていないこと。
  • 蛇頭等の密航請負組織が我が国及び周辺国に存在し、我が国の暴力団等と連携し資金源としての密航ビジネスを活発化したこと。
  • 退去強制処分を受けた密航者が抱えた借金返済等のため、リピーター(反復密航者)として再来しているのが目立つようになってきていること。
  • 中国人の密航については、密航料の値下がりと費用の後払い(成功報酬)制度が定着し、費用面では密航がより容易になってきていること。(密航料は、平成9、10年当時1人300万円前後であったが、最近では、1人100万〜150万円程度の場合も見られる。)
  • 韓国経済の不振により、韓国国内に不法在留する外国人が日本への密航を企図していること。
  • 米国での同時多発テロ事件以降、偽造旅券等の使用による航空機を利用した不法入国に対する取締りが強化され、再度、船舶を利用する手口に変更してきていること。
  • 国際組織犯罪である集団密航事犯に対する内外取締り機関の連携協力体制が強化され、摘発成果が上がっていること。
 平成13年における密航手段の特徴としては、コンテナ密航の多発が挙げられます。平成13年中に海上保安庁及び警察が検挙したコンテナ密航は12件、密航者104名で、過去最高となりました。
 また、同年中における密航ルートの特徴としては、韓国からの数名から十数名規模による小口の集団密航事件が増加し、同ルートを使ったイラン人の密航者が急増しました。

コンテナ密航検挙状況

コンテナ密航検挙状況2

《密輸事犯について》
 平成13年に海上保安庁が薬物の押収に関与した件数は、10件(前年と同じ)で、コカイン、ヘロインといった麻薬類を除き、押収量は減少しました。また、銃器等の押収に関与した件数は、5件(前年6件)でけん銃については20丁、実包318発を押収しました。その他には、関税法違反(自動車の無許可輸出)事件を1件検挙しました。

●薬物事犯の摘発状況
薬物事犯の摘発状況
(注)海上保安庁が単独又は他機関と合同で薬物を押収した件数

●銃器事犯の摘発状況
銃器事犯の摘発状況
(注)海上保安庁が単独又は他機関と合同で銃器等を押収した件数

【最近の主な薬物・銃器事犯摘発の状況】
最近の主な薬物・銃器事犯摘発の状況

 平成13年に海上保安庁が摘発に関与した密輸事犯の特徴としては、ロシア籍貨物船又はロシア人船員に係るものの増加等が挙げられます。
 海上保安庁が摘発に関与した薬物・銃器等の密輸事犯においては、従来からロシア籍貨物船又はロシア人船員が関与したものが全体の多くを占めていますが、特に平成13年は、10件(薬物5件、銃器4件、その他1件)の摘発があり、これは、全体の摘発件数の約6割を占め、平成12年の約3割から大きく増加しました。

●海上保安庁が摘発に関与したロシア関連の密輸事件(平成13年)
海上保安庁が摘発に関与したロシア関連の密輸事件

4目標に向けた取組み

 海上保安庁は、中国、韓国及びロシアの海上警備機関との間において、従来から、連携強化を図ってきましたが、平成11年には韓国との間で、平成12年にはロシアとの間で長官級による覚書を締結し、連絡窓口を設定するなど、連携の強化に取り組んできました。平成13年においては、これらに続き、中国との間においても、長官級による覚書を締結し、連携の強化が図られました。
 また、海上保安庁では、情報収集・分析体制及び機動的かつ広域的な捜査活動体制の強化を図ることとしており、平成13年4月、本庁、第一管区海上保安本部(小樽市)、第五管区海上保安本部(神戸市)に、密航・密輸の取締り及び海賊対策に関する業務を一元的に所掌する「国際刑事課」を新設しました。さらに、平成14年4月には第三管区海上保安本部(横浜市)及び第七管区海上保安本部(北九州市)に「国際刑事課」を、第三管区海上保安本部に国際組織犯罪を取り締まる「国際組織犯罪対策基地」を設置しました。
 海上保安庁では、組織的・計画的に行われ、ますます巧妙・多様化、悪質化する密航・密輸事犯を水際で阻止するため、これまでの取組みを継続実施するほか、国際組織犯罪対策基地を活用し、今後も内外の関係機関との情報交換・連携協力を強化し、国際的な組織犯罪に対しての取締りを積極的に推進していきます。
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