海上保安レポート2003
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特集

1 国境を守る海上保安庁


 四面を海に囲まれた島国である我が国にとって、「海」は世界各地への日本の「玄関」であり、古代より外国との間で、人、もの、文化の交流が海を通じて行われてきました。21世紀の現在も石油をはじめとする多くの資源の輸入、工業製品の輸出など、国民の生活、経済活動は海上輸送に多くを依存しています。

 一方で、この「海」は、薬物・銃器の密輸、密航といった国内の治安を脅かす国際犯罪の入口になっているという側面を有しています。このような海を介した国際犯罪の発生を未然に防止するためには、海上における取締りが非常に重要です。

 特に、一昨年12月に発生した九州南西海域における工作船事件の工作船をはじめとする不審船・工作船は、薬物の密輸入、不法出入国、さらには日本人の拉致といった重大犯罪に関与している疑いが濃く、海の治安機関として海上保安庁がこのような問題に的確に対処していくことが要求されています。

 また、この「海」は、水産資源という海の恵みを我々にもたらしてくれるほか、海底には石油や天然ガスなどの地下資源を有している可能性も秘めています。

 こうした我が国周辺の海に存在する資源を、外国が自由に採捕、採掘したり開発したりすることはできません。国際法上、海には領土と同じように主権が及ぶ「領海」のほか、沿岸国がその天然資源の探査、開発などに主権的権利を有し、かつ、海洋の科学的調査などに管轄権が認められる「排他的経済水域(EEZ)」などの特別な海域が設定されています。

 国連海洋法条約では、沿岸などの領海基線から12海里(約22km)を超えない範囲で領海を、そして200海里(約370km)を超えない範囲で排他的経済水域を定めることができる旨規定されています。我が国の場合もこの条約に従い、「領海及び接続水域に関する法律」において、領海の幅を津軽海峡など特定海域を除き12海里とし、さらに「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」において、領海基線から200海里又は中間線*1までの海域を排他的経済水域と定めています。この領海に排他的経済水域を加えた海域の面積は、実に国土の約12倍の447万平方キロメートルに及んでいます。

 四面を海に囲まれた我が国においては、この領海の限界線が、まさに我が国の「国境線」となります。

 一方、我が国は地理的に周辺諸国と近接しており、相対国との基線間の距離が400海里に満たないため、排他的経済水域の限界線が相対国との国家権益の接線ともいうべき「境界線」となりますが、未だロシア、中国、韓国との間においては、この境界線は確定していません。

 また、我が国の場合、外国に不法占拠されている北方四島及び竹島、中国等が領有権を主張する尖閣諸島の問題も抱えています。

 このような中、我が国の権益を確保するためには、我が国の平和、秩序及び安全を害する外国からの諸活動に対して、領海における主権を確保する「領海警備」を的確に実施していくことに加え、「国境線」の外側に広がる排他的経済水域において、外国船舶による不法な天然資源の採捕(採掘)や海洋の科学的調査等に対し、監視取締りを行い、排他的経済水域における我が国の権益を確保するという毅然とした態度を対外的に示していかなければなりません。

 こうした、諸外国と対峙する領海警備を含む我が国の権益保護のための警察活動は、国際関係を視野においた政府の方針に従って、慎重に対処していく必要があります。

 歴史的に見ると、国境付近における軍事力の対峙が、そのまま国家間の軍事衝突や紛争にまでエスカレートした例が少なからずあります。

 このため、近代国家においては、このような周辺国との摩擦を極力避けるため、例えば米国の沿岸警備隊、ロシアの国境警備隊、韓国の海洋警察庁、フィリピンの沿岸警備隊といったように、軍事機関とは別の機関が、領海警備などの任務に当たっています。我が国において、その任務を担っているのが、私たち「海上保安庁」なのです。

 海の警察機関である海上保安庁は、海上における外国船舶によるトラブルを各国の海上警備機関と連携して防止し、また解決していくことにより、軍事衝突への発展を未然に防止するという役割も担っているのです。

 このように、海上保安庁は国内への犯罪の流入を阻止し、治安を確保することにより、我が国の主権を確保する、さらには排他的経済水域において我が国の権益を確保するという業務に取り組んでいるのです。

 それでは、これから領海や排他的経済水域において海上保安庁が行っている活動を具体的に紹介しましょう。

1 不審船・工作船への対応

1 過去の不審船・工作船事案とその対応

 海上保安庁がこれまでに確認した不審船・工作船は、昭和38年に1隻確認したのを皮切りに平成13年12月の九州南西海域における工作船1隻を含め21隻です。

 これら21隻は、海上保安庁の巡視船艇・航空機がしょう戒中に発見したものと海上自衛隊及び漁業関係者からの通報により発動した巡視船艇・航空機が確認したものですが、九州南西海域における工作船以外の不審船・工作船は巡視船艇・航空機の停船命令に応じず逃走したものがほとんどです。

 平成11年3月23日に発生した能登半島沖不審船事案においては、巡視船艇・航空機により追跡し、巡視船による威嚇射撃を実施するなどでき得る限りの措置を実施しましたが、巡視船艇の速力・航続距離、装備が十分でなかったために、停船させることはできませんでした。このため、政府が一丸となって不審船事案に対応するとの認識のもと、関係省庁において検討が行われ、同年6月に「能登半島沖不審船事案における教訓・反省事項について」が取りまとめられました。

 これに基づき海上保安庁と防衛庁では、両者の連携強化を図るため、不審船に係る「共同対処マニュアル」を策定し、情報連絡体制の強化や海上保安庁と海上自衛隊との連携訓練を行っています。また、不審船の監視体制・対応能力を強化するため、不審船を捕捉するのに十分な速力・航続距離、武器等を有する高速特殊警備船3隻を日本海側に配備し、夜間監視能力を強化したヘリコプター2機を整備しました。また、既存の巡視船やヘリコプターの防弾対策などを施し、対応能力の強化を図っています。

 さらに、平成13年11月には、領海内において、繰り返し停船を命じても応じず、なお抵抗又は逃亡する船舶に対し、海上保安庁長官が一定の要件に該当すると認めた場合には、停船させる目的で行う射撃について、人に危害を与えたとしても違法性が阻却されるよう海上保安庁法の改正を行い、法的枠組みの強化も行いました。

 平成13年12月の九州南西海域における工作船事件においては、防衛庁からの第1報入手後直ちに巡視船艇・航空機を発動し、23時間にわたり工作船を追跡し、巡視船から上空・海面への威嚇射撃及び威嚇のための船体射撃を行いました。しかしながら、工作船は逃走を続け、巡視船に対して自動小銃及びロケットランチャーによる攻撃を加えたため、正当防衛のための射撃を行うなど適切に対応しました。その後、工作船は自爆用爆発物によるものと思われる爆発を起こして沈没しました。(詳細は、特集1「九州南西海域における工作船事件について」を参照して下さい。)

 今後は、九州南西海域における工作船事件の検証結果を踏まえて、次のような方針により対応していきます。

2 今後の対処方針

 不審船・工作船は、薬物の密輸入、不法出入国などの重大犯罪に関与している疑いが濃い船舶であると考えられます。その行動目的や行動実態を解明するためには、不審船・工作船を停船させ、立入検査を実施するとともに、証拠の収集、犯人の逮捕など犯罪捜査を的確に実施することが必要です。このため、海上の警察機関である海上保安庁が第一義的に対処することとなっています。

 不審船・工作船は、相当の武器を保有しているとの考え方に基づき、これまで海上保安庁では、それに対する装備や運用体制の整備を進めてきました。今回の工作船の引揚げにより、携行型地対空ミサイル(有効射程約5,000m)、ロケットランチャー(有効射程約500m)、82ミリ無反動砲(有効射程約1,000m)及び14.5ミリ2連装機銃(有効射程約2,000m)といった威力の大きな武器を確認しました。このため、遠距離からでも正確な射撃のできる40ミリ機関砲(FCS*2)を有した高速力の大型巡視船などを整備することにより、不審船・工作船を安全かつ確実にだ捕することとしています。

海上保安庁長官が認める要件
(1) 外国船舶と思料される船舶が我が国領海内で無害通航でない航行(国際法に違反する航行)を行っている。
(2) 放置すれば将来繰り返し行われる蓋然性がある。
(3) 我が国領域内における重大凶悪犯罪の準備のためとの疑いを払拭できない。
(4) 当該船舶を停船させて立入検査をしなければ将来の重大凶悪犯罪の予防ができない。
海上保安庁法 第20条 第2項
*1 中間線 いずれの点をとっても、我が国の基線上の最も近い点からの距離と、我が国の海岸と向かい合っている外国の海岸に係るその外国の領海の幅を測定するための基線上の最も近い点からの距離とが等しい線のこと。

*2 FCS(Firing Control System)射撃管制機能 遠距離の精密射撃を行うため弾丸が飛翔する大気の状態(気温、気圧、湿度)による弾道の変化及びその他射撃に必要なデータを精密に演算し、正確な射撃計算をするシステム
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