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本編
安心できる暮らしと環境を守るために海洋環境保全対策4 今後の取組み(1)環境保全対策海上保安庁では目標を達成するために、 ○国民のモラルに訴えかけ、海洋汚染を未然に防止することを目的とした「指導・啓発活動」 ○国民への汚染に関する情報提供を目的とした「海洋汚染調査」 ○各種法令違反を摘発し、原状回復を図る「監視取締り」 という手法を組み合わせて用い、環境保全対策に取り組んでいます。 (1)指導・啓発活動海を職場とする海事・漁業関係者に対し、船や職場に訪問して、不注意による油などの排出を防止するための技術的な指導、廃棄物の適性処理、油等の違法排出を防止するための関係法令の周知などを行っています。 一般市民の方、特に次世代を担う小学校などの子供たちに対しては、海岸漂着ゴミ分類調査、現役海上保安官が作成した環境紙芝居の上演、環境教室、図画コンクールを通じ、幼い頃から海をきれいにする気持ちを持ってもらえるように、国民一人一人のモラルに訴えかける活動を行っています。 海上保安庁では、海上漂着ゴミの目視調査の結果や海岸漂着ゴミの分類調査結果をまとめ、「ゴミマップ」として公表することにより、海洋環境の保全の大切さを理解してもらえるように努力しています。 訪船指導の状況 環境紙芝居上演 漂着ゴミを分類調査する子供たち (2)海洋汚染調査我が国周辺海域、閉鎖性の高い海域や海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律で定められた廃棄物排出海域(A海域)において定期的に海水や海底堆積物を採取し、石油、PCB*1、重金属等の調査を行っています。 また、平成13年度からは、閉鎖性の高い海域において海底堆積物を採取し、環境ホルモンの可能性の高い有機スズ化合物の調査を行っています。 海底堆積物の採取の様子 さらに、大規模油流出事故が発生した際に緊急調査を実施するなど、変化する海洋環境問題に積極的に対応しています。 調査結果は、報告書として関係機関に送付するとともに、インターネットで公開するなど、国民の海洋環境保全に対する関心を高め海洋汚染の防止に役立てています。 (3)監視取締りア 法令違反の取締り状況 海上保安庁では、海洋環境保全に関する各種法令違反の監視取締りを行っています。特に毎年6月と11月には「海洋環境保全推進週間」を設定するとともに、全国で「海上環境事犯一斉取締り」を行っており、悪質な事犯については徹底的な取締りを行っています。 とりわけ、廃船・廃棄物の不法投棄、臨海工場からの汚水の不法排出について取締りを強化しています。 イ 廃船対策の推進 海上保安庁は、毎年、約千隻の廃船の不法投棄を確認していますが、その約7割弱を占めるFRP船については、数年後には毎年1万隻を超える廃船が発生するとの予測もあります。 FRP廃船の処理については、技術的にも施設的にも解決すべき多くの問題がありますが、問題が解決されないままに、廃船は更に増加し、また不法投棄が増加することが懸念されています。これらの廃船については、マリーナ等の保管施設が不十分、FRP船体の再資源化技術が未開発などの多くの問題があり、廃船の不法投棄が跡を絶たない状況となっています。 効果的な指導を実施するためには、廃船の所有者を特定する必要がありますが、その手がかりとなる船舶検査済票を故意に剥がしたり、船名を消したりすることにより、所有者の割り出しが困難な場合が少なくありません。こうした場合であっても所有者の割り出しができるようにするため、各種手法を用い、早期に廃船所有者を特定し、指導等を強化することで、廃船の適正処理を促進することとしています。 ウ 廃棄物対策の推進 廃棄物の最終処分場のひっ迫や家電リサイクル法の施行等により、廃棄物の海洋への不法投棄の増加が危惧されており、海上保安庁では巡視船艇・航空機を効果的に運用し、廃棄物の不法投棄事犯の取締りを実施しています。しかし、干潮時においても海面下となるような場所に廃棄物が不法投棄された場合には、発見が困難であり、潜在化することが少なからずありました。そのため、こうした潜在化した廃棄物の不法投棄事犯をこれまで以上に積極的に探し出し、廃棄物の不法投棄事犯を根絶するために、平成12年度末に水中テレビカメラシステムを導入し、効果的な監視取締りを実施しています。平成14年中には、湾内に大量に投棄された養殖筏用鉄枠等の投棄状況を明らかにするなどの成果をあげています。 また、深刻な社会問題となっている廃棄物の不法投棄問題に対応するため、平成12年度から設けられた産業廃棄物不法処理防止連絡協議会に引き続き参画し、地方自治体、警察との間で相互に情報交換しながら、廃棄物の不法投棄防止対策について連携を強化します。 エ 臨海工場に対する監視取締りの強化 臨海工場からの不法排出された汚水には、人体に有害な物質が含まれていることもあり、水産資源、ひいては国民の健康が脅かされる恐れがあるため監視取締りを行なっています。昨年、工場で使用する有害な物質を含む原材料のずさんな管理により、高濃度の有害物質を含む汚水を長期間にわたって大量に排出していた事件があったことから、臨海工場に対する監視を強化していきます。 また、ダイオキシン類の監視取締りについては、平成14年に実施した排水調査の結果、基準値を超えるダイオキシン類を含む排出水を排出している臨海工場はありませんでしたが、経過措置適用施設から高濃度の排出水が認められており、引き続き排水調査を行い監視取締りに努めます。 水中テレビカメラ 水中テレビカメラによる調査 海中で発見されたオートバイ (2)関係省庁、自治体と連携した施策(1)東京湾再生プロジェクトの推進東京湾は、後背地に大きな人口集積を有する閉鎖性水域であり、湾内へ流入する窒素・リン等による富栄養化*2のため慢性的に赤潮が発生し、また、有機汚濁により貧酸素水塊*3が生じ、水産動植物に大きな影響を与えるなど、多くの問題が発生しています。 このように水質改善が遅れている東京湾を世界都市「東京」にふさわしい魅力のある水辺に再生するため、海上保安庁及び関係省庁、自治体による「東京湾再生推進会議」が平成14年2月に設置されました。 会議では、「快適に水遊びができ、多くの生物が生息する、親しみやすく美しい海を取り戻し、首都圏にふさわしい「東京湾」を創出する」という大きな目標を掲げ、関係機関が連携し、各種環境改善施策を的確かつ効率的に行うこととし、平成15年3月に「東京湾再生のための行動計画」を取りまとめました。 その一環として海上保安庁では、平成14年度に千葉灯標を利用して、表層から底層までの海水の流れ、水温、溶存酸素量などを連続的に測定し、そのデータをリアルタイムで伝送するモニタリングポストを設置して観測を実施しています。また、平成15年度には、人工衛星を利用して東京湾における赤潮等の監視・調査を面的かつ継続的に実施することとしています。これらのデータと地方自治体等が実施する汚染調査のデータを統合し解析することにより、汚染源の解明が促進され、関係省庁による各種施策の展開に寄与することになります。 また、海上保安庁では、東京湾再生プロジェクトの一環として、東京湾の環境に関する情報を広く収集し、インターネットで公表しています。 (URL http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/index.htm) 【東京湾再生プロジェクト】 (2)放置外国船舶に対する取組み海上保安庁としては、外交ルート等を通じ船舶所有者に対し、早期撤去のために必要な措置を講じています。他方、海域を管理している地方公共団体等に対しても、船体の状況や船舶所有者等に関する情報提供を行うなど、船体撤去に向けた協力を行っています。平成14年12月に国土交通省内で立ち上げられた「座礁・放置船舶に関する検討会」に海上保安庁も参画し、根本的な解決方法の検討を行っています。 (3)スカイパトロールの強化各管区海上保安本部において、警察、消防、自治体などの関係機関の航空機と連携し、陸上あるいは海上からでは目の届きにくい湾内の入江等の空からの監視を強化していきます。 出動式 関係機関のヘリコプター (3)地球温暖化などの地球環境問題への取組み地球温暖化は、各種の環境問題の中でも地球レベルの大きな問題です。地球表面の7割を占める海洋の状況は、地球温暖化と深く関連していると考えられており、海上保安庁は、そのメカニズムを解明するために、太平洋沿岸国が実施しているWESTPAC(西太平洋海域共同調査)に参加しています。この共同調査では、本州南方から赤道付近までの水温、塩分、海流、海洋汚染などのモニタリング観測を行っています。また、地球温暖化によって生じる可能性がある海面上昇の実態把握などのために、日本全国29カ所と南極昭和基地での潮位観測を行ったり、日本全国5カ所で地球重心からの海面の高さの計測を行っています。 また、気候変動の予測精度向上を目的とする「高度海洋監視システムの構築(アルゴ計画)」に参加し、野島埼と八丈島に海洋短波レーダーを設置して、黒潮のリアルタイム監視を行っています。 このデータはインターネット等を利用して常時情報提供しています。 (URL http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/hfradar/kairyu_inform.cgi?) 海洋短波レーダーによる表層流観測 *1 PCB(Poly Chlorinated Biphenyl) PCB(ポリ塩化ビフェニール)はビフェニールの水素が塩素で置換されたものの総称。環境ホルモンの一種であり、生物に取り込まれると排出されにくいため、様々な中毒症状を引き起こします。我が国及び欧米の先進諸国ではPCBの生産・使用は禁止されています。
*2 富栄養化 水中に含まれる窒素やリンなど栄養塩の濃度が高まった結果、それらをとりこみ成長する植物プランクトン等の生物の活動が活発化し、異常増殖を起こす現象。富栄養化が進行すると、赤潮やアオコの発生、異臭(カビ臭など)などの水質障害や、酸素濃度低下による魚介類の死滅、水域の水質値の悪化などを引き起こす。富栄養化は自然界の作用と人間活動に起因するものがあり、後者では特に都市部における生活排水の排出に因るところが大きい。 *3 貧酸素水塊 海水中の酸素濃度が非常に少ない状態。海底に有機物が堆積すると、微生物などにより有機物が分解され水中の酸素を消費するため、海底に貧酸素水塊が形成される。これが海面に上昇すると青潮と呼ばれる現象となり、大きな漁業被害をもたらすことがある。 |