海上保安 最前線   韓国大型トロール漁船、捕捉!

巡視艇なつぐも船長 御澤兼三

 巡視艇「なつぐも」は、はるか南西諸島に停滞する台風の影響による波に翻弄されながら、対馬南西の戦場に向け、全速力で航走っていた。「なつぐも」乗組員10名は体を突き上げる波の衝撃に耐えながら、頭の中で厳原海上保安部からの指令を各々反芻していた。
 壱岐島西方海域において、ヘリコプターMH908が韓国スタントロール漁船の操業を現認、該船は網を現場に残して逃走、貴船は他の巡視船艇と協力し該船の捕捉に当たれ!
 「なつぐも」が現場に到着すると「ドーン!ドーン!」と警告弾が炸裂する音が聞こえる。先着した巡視艇「あさぐも」がスタントロール漁船に停船命令をかけているが、スタントロール漁船は悠然と韓国領海向け航走っていく。
 後続の巡視艇「むらくも」「やえぐも」も現場に到着し、さらに、大型巡視船「げんかい」も現場に到着した。

 是が非でもスタントロール漁船を捕捉したい――そのためには強行接舷による捕捉しかない――が、現場は3メートルを越える高波。強行接舷で捕捉要員を飛び込ませることが出来るだろうか。失敗して海に落としてしまったら―― 不安が頭をよぎる・・・

 乗組員全員を船橋に集め指示――
  「該船を強行接舷のうえ捕捉する」
皆が、緊張と興奮の面持ちでうなずいた――
強行接舷する旨、厳原保安部に連絡する。
 「二隻で挟め」
現場を信頼してくれた保安部からの指示だった。

 素早く交信がかわされ「なつぐも」「むらくも」の2隻で挟撃捕捉することが決まった。
  「よし、いくぞ!」
 波しぶきが機銃を抱く船首甲板で待機する捕捉要員たちを容赦なく襲う。
 100メートル、50メートル、スタントロール漁船からは「なつぐも」の接近を妨害するための放水、さらにはトロ箱(魚を入れる箱)まで飛んでくる。
 30メートル、15メートル。先に仕掛けた「むらくも」の接舷を避けようとスタントロール漁船が舵を右に大きく取った――
  「今だ! 行くぞ!」
 「なつぐも」の高速エンジンが黒煙を噴き出し、スタントロール漁船に猛然と襲いかかる―― そして、挿す。
接舷による鈍い金属音。「なつぐも」は波に翻弄されながらも、捕捉要員が乗り移るまで逃がしてなるかと、獲物の首に喰らいつくように、必死に逃げるスタントロール漁船に張り付く。
 一人、二人、命がけで飛び込む――
  「いけ!いけ!」
怒号が飛びかうなか、捕捉要員全員が飛び込み船橋に突入していく――
 一瞬の静寂―― そして、漁船は沈黙した。
  「完全制圧 EZ漁業法違反の現行犯で船長を逮捕人員異常なし」
捕捉班長の声が無線機から響く――

なつぐも 御澤船長
なつぐも 御澤船長

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