海上保安レポート 2008

●はじめに


特集1 海上保安庁 激動の10年

特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み〜新たな海洋立国の実現に向けて〜

1.体制を充実させて

2.海洋調査により海を拓く

2.大規模海難ゼロに向けて

特集3 海上保安庁のあゆみ


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


目指すは海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


海上保安制度創設60周年記念 特集1 海上保安庁 激動の10年 > 1998年
1998年(平成10年)
海上保安庁の動き
 インドネシア危機による在留邦人輸送に備えた巡視船の派遣、北朝鮮ミサイル「テポドン」発射事案に際しての巡視船等の現場配備等、混迷する世界情勢を如実に反映した事案に対応するとともに、貨物船に設けた隠し部屋への潜伏など一層悪質・巧妙化する集団密航を全国で相次いで摘発しました。海上保安庁が社会経済・国際情勢に直結して対応しなければならない業務が増加するとともに、事件・事故についても、まさに国際化・多様化して、日本だけでは完結しがたい事案も加わり、より高度で国際的な対応を求められるようになりました。
 このほか、第40次南極観測隊の越冬隊員として初めて女性海上保安官が選ばれました。また、世界に先駆けて電子海図を更新するための電子水路通報を発行しました。
社会の動き
 完全失業率が「日本列島総不況」と表現されるほど過去最悪水準で推移する中、小渕内閣が発足しました。海外では、インドとパキスタンが核実験を実施、また北朝鮮が日本列島を飛び越えて三陸沖に着弾させた弾道ミサイル「テポドン」事案が発生するなど、世界中に緊張が走りました。
1998年(平成10年)の出来事
初めてインドネシアへ派遣された巡視船 「みずほ」及び「えちご」
▲初めてインドネシアへ派遣された巡視船
「みずほ」及び「えちご」
インドネシア危機 在留邦人救出への対応
 5月19日、インドネシア国内における不安定な政治情勢に起因し、政府一体となって同国在留邦人の救出対策が進められました。外務大臣からの協力要請により、邦人救出に万全を期するため、海上保安庁は、初めてヘリコプター搭載型巡視船「みずほ」及び「えちご」を同国方面に向け派遣しました。その後、現地情勢が安定を取り戻したことによる撤収要請を受け、同月26日、待機中のシンガポール港を出港し、6月1日那覇港に入港しました。
尖閣諸島をめぐる領海警備
 6月24日、香港及び台湾の抗議船等6隻が、尖閣諸島領海付近に接近し、このうち香港の抗議船「釣魚台」号と降下したゴムボートが、領海内に侵入したため、海上保安庁は巡視船艇等により領海外に退去させました。
 その後、「釣魚台」号は遭難信号を発信し、乗組員等が他の抗議船に移乗したことから、海上保安官が調査した結果、機関室内を人為的に浸水させていたことが判りました。海上保安官による応急的な浸水防止措置等を施しましたが、「釣魚台」号は荒天等により魚釣島付近海域で沈没しました。
香港の抗議船を阻止する巡視船艇 船内調査を実施する海上保安官
▲香港の抗議船を阻止する巡視船艇 ▲船内調査を実施する海上保安官
集団密航のコンテナ
▲集団密航のコンテナ
相次ぐ集団密航事犯への対応
 海上保安庁が摘発した不法入国者は、平成8年に481人、同9年に605人、同10年に331人となっており、不法入国事犯は、依然として深刻な情勢にありました。
 特に平成10年は、平成8年から同9年にかけて急増した仕立船による集団密航については減少したものの、船内に隠し部屋を設けて潜伏する事犯、偽造の船員手帳により船員になりすまして不法に入国する事犯が増加し、ますます悪質・巧妙化しました。8月21日には、神奈川県川崎港に入港したパナマ籍貨物船の隠し部屋に潜伏していた中国人密航者98名及び中国人偽装船員4名を発見、出入国管理及び難民認定法違反(不法入国)で逮捕、また、同船インドネシア人乗組員10名及び上記偽装船員4名(不法入国で逮捕済)を同法違反(集団密航助長)で逮捕しました。
▲隠し部屋の状況
▲隠し部屋の状況
世界に先駆けて「電子水路通報」を発行
 9月25日、航海用電子海図(ENC)の内容を電子海図表示システム(ECDIS)上で更新するための情報として、CD-ROMに収録した電子水路通報を世界に先駆けて発行しました。これまでのENCの更新は、更新情報を手作業でECDISに入力していましたが、電子水路通報の発行により、ENCの表示内容を自動的に更新することが可能となりました。
▲航海用電子海図(ENC)の表示例
▲航海用電子海図(ENC)の表示例
北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応
 8月31日、北朝鮮が何ら通告・警告なしに日本の上空を飛び越える弾道ミサイルの発射を行いました。ミサイルの一部は、日本海の中部及び三陸沖の太平洋に落下したものと推定され、海上保安庁では、ミサイルの発射の情報を受け、直ちに巡視船・航空機を落下予想海域に向わせるとともに、航行船舶の被害の確認等関連情報の収集を行いました。
 その後、9月には、国際海事機関及び国際水路機関に、北朝鮮に対し国際海事機関総会決議(航行警報業務に関する勧告)の遵守について、適切な指導を行うよう要請を行い、両機関から北朝鮮に対し書簡が発出されました。