海上保安レポート 2008

●はじめに


特集1 海上保安庁 激動の10年

特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み〜新たな海洋立国の実現に向けて〜

1.体制を充実させて

2.海洋調査により海を拓く

3.大規模海難ゼロに向けて

1.海難ゼロへの取組み

特集3 海上保安庁のあゆみ


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


目指すは海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


海上保安制度創設60周年記念 特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み > 大規模海難ゼロに向けて
大規模海難ゼロに向けて
海難の現状及びその原因
小型旅客船の乗揚げ海難
▲小型旅客船の乗揚げ海難
 我が国における海難発生隻数は、過去10年間で年間約2,600隻と、ほぼ横ばいで推移し、海難に伴う死者・行方不明者数は減少傾向にありますが、年平均約140人と依然として貴重な人命が失われています。
 海難の特徴として、大型船である貨物船やタンカー等の海難は、そのほぼ半数が船舶のふくそうする海域(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)で発生しており、また、100トン以上の船舶の海難原因を外国・日本籍船別に見ますと、外国籍船の海難原因は操船不適切によるものが多く、日本籍船は見張り不十分が多く見受けられます。
 他方、小型船である漁船やプレジャーボート等の海難は、全海難隻数の約7割程度を占めており、死傷者を伴う海難が多く発生しています。
今後の施策展開にあたって

 これまで海上保安庁では、普遍的な社会の要請である海難の未然防止に向け「大規模海難ゼロ」というスローガンを掲げ、様々な施策に取り組んできましたが、昨今の、輸送効率の向上及び輸送コストの縮減を図るための船舶の大型化、電子・通信技術の進展等に伴う新たな航行支援システムの整備、海洋基本法の施行による国の責務としての効率的な海上輸送や海上の安全確保の明確化といった航行環境、社会情勢の変化等を踏まえた上で、海上交通の安全性と効率性の向上をバランスよく実現していくことが今後とも重要であると考えています。

 このため、これからの海上交通の安全施策を展開していくにあたり、
●航行環境の変化を踏まえた適切かつ効果的な安全対策を講じるための海事関係行政機関との連携強化や海難の分析及び対策の企画立案機能の強化
●新たな交通ルールの設定など制度面の充実、AIS等高度な航海装置の普及を図るためのソフト面の施策の充実や新技術の導入
●災害に強い航路標識、地球温暖化への対応等航路標識の機能の高度化
●航路標識の設置・管理に関する制度の見直し、再構築

などの基本的な方向性を定めた上で、海上交通の安全性を確保しつつ効率性の向上を目指した新しい施策を取りまとめた中長期的なビジョンの策定作業を進めています。
 なお、同ビジョンについては、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会に対して諮っており、平成20年度中に答申が得られる予定です。

1.海難ゼロへの取組み
関係機関と連携した海上安全行政の総合的展開
 海難を防止するため、海上保安庁では、海上交通ルールの制定や航路標識の整備、あらゆる機会を通じた啓発活動等を行ってきています。海難の減少を図るためには、更に一歩踏み込んだ施策の展開が必要であることはもちろんのこと、海事関係機関が行う各種施策を連携・融合し、海上安全行政を総合的・効果的に展開することが必要不可欠です。このため、海事関係機関との連携を強化するとともに、これまで行ってきた海難の分析・対策の立案機能を更に強化することとし、そのための体制整備等の構築を検討しています。
海難防止活動
▲海難防止活動
海上交通センター
▲海上交通センター
管制信号所
▲管制信号所
AISの整備等を踏まえた航行安全対策・効率性の向上
 平成20年度中に、一定の船舶に対するAIS(船舶自動識別装置)の搭載が完了するとともに、海上保安庁が整備・運用しているAIS陸上局の全国整備も完了することから、このAISという新しいITの導入等による次のような新たな航行安全対策の構築を検討しています。
●港内においては、これまで一定トン数以上の船舶に対して信号により一律に行き会いを管制していたものを、AIS情報を活用することにより行き会い可能な船舶を個別に判断し、船舶の大きさによって行き会いが可能となる範囲を拡大し、管制を行う。
●船舶がふくそうする海域においては、航行環境に不慣れな外国船舶等が基本的な航法を遵守することができず、これを主な原因とした海難が一定の割合を占めていることから、海上交通センターにおいてAIS等を活用し、航法を効果的に遵守させることにより、これら船舶の交通流を整え、海難に繋がる危険な状況の発生を予防する。

 今後、重点的に実施すべき施策の検討、具体化を進め、これらを計画的に推進して、海上交通の安全性の確保と効率性の向上に取り組みます。