「海」は、我々に多くの恵みをもたらし、潤いと癒しを与えてくれるものであり、時に自然の驚異と偉大さを思い知らされる存在です。多くの人はそこに感動し、感謝し、 あるいは畏敬の念を抱き、そして、様々な思いをめぐらしていることと思います。一方で「海」をめぐる環境は多くの出来事や諸問題を通じて近年大きく変化しており、多くの国民の皆さんに、海には何が存在するのか、見えないところで何が起こっているのか、どのような役割があって、何を守らなければならないのかといった海の権利や利益等、海への関心がこれまで以上に高まってきています。
海上保安庁は、これまで海の碧さを保ち、遭難する人を助け、船の安全を確保し犯罪を取締り、海を知るための調査を行うことを60年にわたって実施してきました。特にこの10年間は、国際情勢、社会経済情勢、国民の海への興味、社会のニーズ等の変動とそれぞれ相互に作用しながら、業務は大きく変化してきています。
平成11年3月には、能登半島沖で不審船事案が発生し、これを契機に不審船に的確に対応出来るよう、海上保安庁は不審船に対する強制力、抑止力を備えるという大きな転機を迎えることとなり、平成13年には船舶を停船させるために行う射撃を可能とするための法律を整備しました。奇しくも同年12月、九州南西海域において、ロケット砲等の重火器で武装した北朝鮮の工作船による銃撃事案が発生、海上保安庁がこれに的確に対応したことは、我が国周辺海域における現実の脅威を国民に強烈に知らしめるとともに、海上保安庁に対する国民の認識を一変させました。
国外においては、平成11年にマラッカ・シンガポール海峡で「ALONDRA RAINBOW」号ハイジャック事件が発生、これを契機に海上保安庁の国際戦略はより広く深い協力関係の構築へと向かうこととなりました。北太平洋地域の海上保安機関の長官級会合の開催、東南アジア各国海上保安機関との長官級会合の開催等多国間地域連携の枠組みを設け、地域全体の海上保安体制の強化を進めるなど国際協力の分野でも大いに活躍の場を拡げてきています。
加えて、昨今の海洋権益をめぐる情勢の緊迫化、国際テロや国際犯罪組織の脅威等の新たな課題に直面するとともに、世界的に地球環境問題が心配され海洋環境の保全に対する関心も高まっている中、海上保安庁に対する国民の期待は、海への関心と相俟って10年前とは比較にならないほど増していることを感じています。さらには、我が国の海洋に関する政策を国全体で推し進めるため、「海洋基本法」が制定され、これに基づき内閣官房に総合海洋政策本部が置かれ、平成20年3月には「海洋基本計画」が策定されました。平成20年は、こうした意味でも海洋政策全体への国民の関心が高まるとともに、海上保安庁にとっても新しい時代を迎える年になるものと考えています。
本レポートでは、特集として、平成10年以後の10年間の史実とともに、海上保安庁が今後進めていく施策について取りまとめましたので、皆さんにご紹介します。
今後とも、海上保安庁は国民の期待に応えられるよう、海上保安庁職員一丸となって業務を遂行していきます。