海上保安レポート 2008

●はじめに


特集1 海上保安庁 激動の10年

特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み〜新たな海洋立国の実現に向けて〜

1.体制を充実させて

1.新たに生まれ変わる
2.「空き巡視艇ゼロ」を目指して

2.海洋調査により海を拓く

3.大規模海難ゼロに向けて


特集3 海上保安庁のあゆみ


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


目指すは海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


海上保安制度創設60周年記念 特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み > 体制を充実させて
体制を充実させて
1.新たに生まれ変わる
巡視船艇・航空機等の緊急整備
 闇夜に乗じて繰り返される高速密漁船の取締り、高速かつ偽装した不審船に対する警戒、中国、台湾活動家による尖閣諸島周辺での抗議活動に対する海上警備、東シナ海における資源開発に対するしょう戒、大規模災害発生時の救助活動等、変化する多種多様な業務課題に的確に対応するため、業務執行体制の確保がますます重要となっています。
 しかしながら、海上保安庁の巡視船艇・航空機の多くは、200海里漁業水域の設定等新海洋秩序形成に対応するため昭和50年代に集中的に整備されたものであり、船体腐食等による老朽化及び速力不足等による性能面の旧式化が進んでおり、高速で逃走する密漁船に振り切られたり、救助現場に向かう途中に巡視船の機関が故障するなど犯罪取締りや救助活動等に支障が生じています。
 このため、海上保安庁では、平成18年度から、本格的に巡視船艇・航空機等の緊急かつ計画的な代替整備と、併せて必要な高速化、操縦性能向上など高性能化を推進しています。今後も、「海洋基本計画」を踏まえ巡視船艇・航空機の整備を強力に推進します。また、このような巡視船艇・航空機の整備に併せ、より効率的・機動的に巡視船艇等を運用するための基地施設の整備、情報通信システムの整備等を進めていくことが必要となっています。
 このような整備を進めることにより、海上保安庁では、これまで以上に次のような業務に対応することができることとなります。
排他的経済水域等におけるしょう戒等の強化
 東シナ海の日中地理的中間線付近での中国の資源開発、排他的経済水域等において国際ルールに基づく事前申請を行っていない又は事前申請の内容と異なる調査を行う外国海洋調査船の活動、尖閣諸島における中国、台湾の活動家による不当な領有権主張活動等我が国の海洋権益や領有権を脅かす事態は、沿岸から遠く離れた海域で発生しています。このため、配備する巡視船は、他の巡視船艇の応援や協力を得にくい状況にあるため、突発事案への対応を考慮した警備能力の向上が必要であるとともに、海上という特殊な状況から現場における情報収集、関係者間の情報共有が非常に重要になります。例えば1,000トン型巡視船では、ヘリコプター撮影画像伝送システム、30ミリ機関砲(FCS)、複数の複合艇、ヘリ甲板等により性能、装備等の高機能化を図っています。これにより事案現場の状況がリアルタイムで東京の本庁、各管区本部等に画像伝送されることで巡視船に対し、より適切な指示ができることや、母船から降ろされた小型ボートによる領海侵入や不審な活動に対し複数の複合艇で対応することができるなど、不測の事態により機動的に対応することができます。さらに、ヘリコプターとの連携機能の向上によって遠方海難での救助効率が高まることが期待できます。また、災害発生時には、首相官邸などへの被災現場の画像伝送により、政府の初動対応の方針策定に役立ちます。
東京湾などの沿岸部における監視警戒の強化
 依然としてテロの脅威がある中、後背地に大都市やエネルギー関連施設等の重要な施設を多数擁し、海上交通がふくそうする東京湾等の三大湾、大都市沿岸部等において、海上物流、ライフラインのダメージを狙った海上テロが危惧されています。このため、配備する巡視船はテロ事案等について迅速かつ的確に対応するため、速力、操縦性能及び夜間監視能力等の警備能力の強化が必要となります。例えば、このような任務に従事する350トン、180トン型巡視船では、赤外線捜索監視装置、20ミリ機関砲(RFS)、ウォータージェット推進器等を装備することにより、高速性、操縦性能の向上、射撃性能の高精度化、夜間における監視警戒能力等の強化を図っています。これにより暗闇でも不審な船の早期発見や甲板上の乗組員の異常な挙動の監視、逃走する不審な船舶に対するより迅速かつ適切な停船措置を講じることが可能となり、海上テロの未然防止のための監視・警戒の強化を図ることができます。このほか海難現場への迅速な到着、遭難者の早期発見が可能となり、沿岸海域におけるより迅速、的確な人命救助体制を確保することができます。
2,000トン型巡視船「ひだ」(手前)「あかいし」(奥)
▲2,000トン型巡視船「ひだ」(手前)「あかいし」(奥)
領海及び港湾等における監視取締りなどの強化
 激しく抵抗しながら逃走する外国密漁漁船、悪質・巧妙化する高速ボートによるアワビ、なまこ等の密漁集団、島陰にびょう泊する要注意外国船舶、陸岸又は船舶からの油、廃棄物の違法投棄、我が国周辺海域の秩序あるいは治安を脅かすおそれのある事案が我々の目前に広がる領海及び港湾等において発生しています。
 このような領海及び港湾等で業務に当たる30メートル型巡視艇は、赤外線捜索監視装置、複合艇、13ミリ機銃(RFS)、ウォータージェット推進器等を装備し、高速性及び小回り・急加速・急停止が可能な操縦性能の向上を図ることとしています。これにより、違法操業を行う外国漁船等に対する巡視艇による強行接舷、海上保安官による飛び移り、逃走防止等について、これまで以上に安全に遂行し、悪質外国漁船や暴力団による違法操業を的確に取り締ることが可能となります。また、複合艇を使用して浅瀬での証拠収集、犯人の捕捉等が可能となる機動性を確保することができます。
 さらに、速力、操縦性能及び夜間監視能力等を強化した20メートル型巡視艇により、海上ルートによる密輸・密航事犯その他の海上犯罪に対するより効果的な監視取締りの強化を図ることができます。
30メートル型巡視艇「いずなみ」
▲30メートル型巡視艇「いずなみ」