海上保安庁海洋情報部では前身の兵部省海軍部時代を含め、明治4年から130年以上にわたり海洋調査を実施し、海上交通の安全の要となる
海図などの航海用刊行物として情報を提供してきました。また、マリンレジャーの普及、環境保全や防災への国民的な意識の高まりなどを踏まえて、インターネットによる海流・潮汐情報や沿岸海域環境保全情報等の社会ニーズに応える情報の提供を行っています。
また、
領海基線から200海里を超えて我が国の
大陸棚を画定するために、国連に対する申請に必要な海洋調査については、平成16年度から政府一丸となって実施しています。
この
大陸棚調査を始めとする様々な海洋調査による海洋の科学的データの整備は、今後の航行安全、海洋開発、環境保全等の基礎資料になるとともに、境界画定や海底地形名付与等の海洋権益の保全のための重要な資料となることから、平成19年の新たな海洋立国の実現に向けた海洋基本法の施行とも相俟ってこれからますます重要性が増してくることは確実です。しかしながら、これまで海上保安庁では、
大陸棚の限界画定に必要な海域の調査が優先されてきたために、我が国の
領海や排他的経済水域の中には、未だに調査データが不足している海域が存在しています。このような海域の調査を、新たな海洋立国の実現に向け早急に進めていくことが必要です。
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▲測量船「拓洋」 |
▲エアガンによる地殻構造探査 |
我が国領海及び排他的経済水域における海洋調査の推進
国連海洋法条約によって、海洋における各国の権利と義務が定められており、基本的な領域として、
領海、
排他的経済水域及び
大陸棚等があります。四面を海に囲まれた我が国にとっては、これらの限界線こそが、まさに相手国との海洋権益の接線というべき「境界線」です。従って、各国それぞれの海洋権益の保全にかかる思惑がある中、相手国との間において境界線を画定することは容易な問題ではなく、相手国との間で主張の相違を生じています。例えば、日中間では、境界画定は中間線を基に行うべきとの日本の主張に対し、中国は、東シナ海の海底地質等の特性を踏まえ、中国大陸から中間線を越えて沖縄トラフまで自然延長できると主張しています。また、日韓間では、竹島をめぐる領有権問題が存在し、双方の
排他的経済水域の主張が重複しています。このように、我が国周辺海域について、その権益保全の重要性が増すなか、海域の水深や海底の地形など科学的データを正確・詳細に保有し、それに基づく的確な海洋管理を実施する必要性も大きくなっています。
また、日本沿岸部での
領海基線にかかる海洋調査も重要です。例えば、今後の海洋調査により得られる詳細な水深データを分析した結果、新たな
領海基線が判明した場合には、
領海の限界線が拡張できることになり、
領海の面積が拡大することになります。例えば、北海道の襟裳岬において新たな
領海基線が判明した結果、
領海の限界線が最大110m伸張されたことによって、東京ドーム約26個分の
領海の面積が増えました。
平成20年度の
大陸棚の限界画定のための調査の終了とともに、前述した海洋調査の重要性を踏まえ、今後、海上保安庁では、我が国の海洋権益を保全するために重要かつ調査データが不足している海域を対象として、海底地形、地殻構造、
領海基線等の海洋調査を計画的に実施します。
さらに、こうした様々な調査により得られたデータを、海洋における各種研究開発の推進、漁場の整備、海底ケーブルの敷設、海洋構造物の開発など海洋の開発・利用・保全等へ活用できるように、的確に管理し提供する体制も重要です。海上保安庁は総合的な海洋データバンクである
日本海洋データセンター(JODC)等を運営していることから、政府で検討している海洋調査で得られた各種データの一元的管理のための体制構築について、政府の一員として必要な対応を進めていきます。