平成18年6月某日の午前4時、船内スピーカーから『本船はこれより、不審な動きをしていたロシア船の立入検査を実施する。搭載艇降下準備!』の指示が流れる。一気に眠気が覚め、急いで装備を整えて甲板に出た。午前3時38分日出のため外は既に明るく、本船のそばには船体黒色のロシア船O号が停船しており、甲板上に数人の船員の姿が見える。
▲O号への立入検査 |
搭載艇を降下し、私を含め立入検査班5名がO号に乗り込んだ。船橋にはロシア人の船長が不安そうな顔で待っていた。早速、O号の目的港を聞くと、「今日、花咲港に入港予定」と回答してきた。しかし、先ほど入った無線連絡により、O号の花咲入港の事前通報は無いことをすでに確認しており、船長が嘘をついていることは明白であった。花咲港で降ろすという水産物は船上にあるものの、日本へ輸出するための証明書も持っていないため、船長を追及すると「実は自国で密漁した水産物を積んでいて、ロシアの官憲に追われていたので、日本に逃げようと思った」と白状した。
この船が本邦の港に入港した場合は「外国人漁業の規制に関する法律」の無許可寄港罪となるおそれがある。また、このような船を徘徊させておくと、我が国水域において犯罪を犯す可能性が十分考えられることから、このまま放置しておくことはできない。船長に、花咲港への入港は認められない、北海道沿岸での徘徊を止めて直ちに立ち去るよう申し渡し、立入検査班は本船に戻ってO号の動静を監視することとした。
了解したと見せかけたもののO号はスキがあれば北海道沿岸に逃げ込もうと、針路を変えようとする。本船は、進路に立ちはだかり、無線や汽笛で警告を発する。緊張の連続だ。ようやく、O号は観念したのか針路を変えて去っていった。