海上保安レポート 2007

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


特集 海洋国家「日本」と海上保安庁
〜海洋権益保全への取組み〜

はじめに

1.これが現場第一線

2.海洋調査に迫る


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


海上保安官を目指す


語句説明・索引


図表索引


資料編


海上保安庁の業務・体制
海上保安庁の業務・体制

 海上保安庁は、昭和23年に創設されて以来、多様かつ複雑化する日本の海の諸情勢に対応するために様々な対策を講じてきました。昨今の日本の海を大観すると、排他的経済水域や尖閣諸島周辺海域における海洋権益の保全、テロの脅威、不審船の徘徊などといった様々な問題が散在しています。
 四面を海で囲まれた我が国は、古くから様々な海の恩恵を受けて繁栄を続け、近年、海洋に対する国民の関心が高まる中で、このような問題は極めて憂慮すべきことです。今や皆さんにとっても海洋国家「日本」を考える上で、身近な問題として捉えられているのではないでしょうか。
 ここでは、海上における安全・安心を担う海上保安庁の業務と体制について、その概要を紹介します。
海上保安庁の任務

 海上保安庁の任務は、海上保安庁法に定められているとおり「海上の安全及び治安の確保を図ること」です。この任務を全うするため、「海洋秩序の維持」、「海難の救助」、「海上防災・海洋環境の保全」、「海上交通の安全確保」、「海外関係機関との連携・協力」を業務遂行に当たっての戦略目標として掲げています。これらを達成するため、組織力や機動力を発揮し、皆さんの負託に応えるべく日夜業務に励んでいます。
 日本の海は、諸外国と通ずる海路であるほか、守るべき国境でもあります。近年、日本を取り巻く海では、外国籍船舶が関係する事案が増加傾向にあり、国際的な海上保安業務の遂行が一層求められています。このため近隣諸国の関係機関と連携・協力関係を積極的に構築することが重要といえます。
 このような、国際情勢や社会環境の変化、そして国民のニーズに応じた的確な業務の遂行を支えているのは、高性能・高機能化した巡視船艇・航空機や装備などといったハード面の強化はもちろんのこと、現場の海上保安官一人一人が誇りと高い使命感を持って業務に取り組んでいるからにほかなりません。

海上保安庁法

(第二条第一項)海上保安庁は、法令の海上における励行、海難救助、海洋の汚染の防止、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに附帯する事項に関する事務を行うことにより、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする。
機構

 海上保安庁は、国土交通省の外局としての行政機関であるとともに、広大な海をその活動の場として、法を執行し秩序を維持する権限・能力を備えた警察機関としての側面を持っています。組織は、本庁を中核として管区海上保安本部、海上保安部等を配置し、日本の海を一元的に管轄しています。
 本庁には長官の下に総務部、装備技術部、警備救難部、海洋情報部、交通部の5つの部局が置かれ、基本方針の策定、他省庁との調整など、海上保安行政の「舵取り」役として中枢を担っています。また地方には、全国を11の管区に分けて管区海上保安本部を置き、さらに、その管内に現場第一線の部署である海上保安部等を配置し、主として治安の維持や船舶交通の安全確保に日夜努めています。
 近年、海上保安庁の業務事情は、IT技術の発展や一般船舶の高速・高機能化、そして目まぐるしく変動する国際情勢などの影響を受け、海上犯罪一つを見ても、複数の管区をまたぐ広域化や手口の巧妙化が進み、さらに国際犯罪組織が絡むような悪質な事件も増加傾向にあります。また、海上は特殊な環境であることからも、ひとたび何らかの事案が発生すると深刻な事態に発展するおそれもあり、これらのことから社会的・国際的事情に配慮した対応が求められています。
 このため、海上保安庁では長官を長とする指揮系統の下、現場第一線の各部署がその担任水域にとらわれることなく、事案発生直後における即応体制の確保や、大規模事案発生時における勢力の集中投入等ができるよう、柔軟かつ効果的な運用を可能とする体制を整えています。
 なお、これまで海上保安部署の名称については、主に部署が所在する港名や市町村名などを由来としていたところですが、市町村合併など社会的情勢の変化により、部署の名称からその所在地や担当する海域が分かりづらくなるところが生じてきました。このため、平成19年4月には塩釜海上保安部を宮城海上保安部に名称を変更するなど、部署の名称をその所在地の県名や新市町村名に順次変更することで、担当する海域を適切に連想させ、関係機関や地域住民からの事件事故情報の迅速な入手を図り、事案発生時の迅速な対応ができるようにしています。

■機構図
機構図

■管区海上保安本部担任水域概略図
管区海上保安本部担任水域概略図
定員・予算

 平成18年度末現在、海上保安庁の定員は12,324人(前年度末比±0人(うち女性海上保安官260人))で、そのうち本庁は1,062人、管区海上保安本部等の地方部署は10,738人となっています(「機構図」参照)。また、現場第一線で活躍する巡視船艇・航空機等に海上保安官5,607人が乗組んで業務に従事しています。

 平成19年度において、海上保安庁はテロ対策や領海警備等の業務需要の増加及び近年求められる業務ニーズに的確に対応する目的から、「巡視艇の複数クルー制」の導入等により、海上保安体制の強化を目指したところ、現場の治安関係要員を中心に増員が認められたほか、「危機管理体制の強化」、「留置業務実施体制の整備及び犯罪被害者等施策の推進」のための組織改正をしています。
 また予算の面では、「巡視船艇・航空機等の緊急整備」、「社会情勢の変化に対応した海上保安業務の遂行」及び「海上交通の安全性・効率性の向上」を重要事項として予算措置しています。

■平成19年度における増員事項
平成19年度における増員事項

■平成19年度の予算
平成19年度の予算

■平成19年度の予算の重点事項
平成19年度の予算の重点事項

 なお、平成19年度の海上保安庁の予算額は1891億円となっており、国民一人あたりに換算すると約1470円の負担となっています。
 現在、政府では小さな政府の実現を目指し様々な改革が進められています。このような中、海上保安庁も業務の適正化、効率化にも力を入れ、無駄のない業務遂行を目指しています。
他機関との人事交流

 多様化する海上保安業務に対応するためには、国内外の関係機関との連携は極めて重要です。海上保安庁では、関係機関との人事交流を推進し、広い見識を備えた海上保安官の育成に努めるほか、さらなる関係機関との緊密な連携強化の一助となるものと期待しています。

■他機関への出向状況(平成18年度末現在)
他機関への出向状況(平成18年度末現在)
装備

 海上保安庁は、広大な海域で広範多岐にわたる業務に的確に対応し、国民の期待に応えるため、平成18年度末現在、478隻の船艇、72機の航空機を保有しています。
(船艇・航空機の種別については、資料編 - 管区本部等配置図(平成19年4月現在)資料編 - 航空基地・海上交通センター等配置図(平成19年4月現在)をご覧下さい。)

巡視船艇・航空機等の整備

 日本全国で活躍する巡視船艇・航空機の約4割は、昭和50年代に集中的に整備したもので、これらの巡視船艇・航空機は、長年にわたる使用に伴い、各部の腐食・摩耗、配管からの油漏れ、防水低下などの老朽化が進行しているほか、速力不足等性能面での旧式化が進んでいます。
 このような状況下、海洋権益の保全、沿岸水域の監視警戒強化、大規模災害等に対する救助体制の強化といった重要課題に的確に対応できる業務遂行体制を確保する必要があることから、海上保安庁では、平成18年度から老朽・旧式化が進んだ巡視船艇・航空機について、高性能化を図りながら緊急かつ計画的な代替整備を進めています。
 なお、代替整備にあたっては、船型・機種等の統一化、随意契約の見直し等により、調達コストの低減を図るとともに、航路標識の保守業務を順次民間委託化することで航路標識業務用船の代替更新を取り止め順次廃船とするなど、海上保安業務全体の効率化を図り国民負担の抑制に努めています。

1. 巡視船艇の整備

  巡視船については、海洋権益の保全、大規模地震・津波災害における救助体制の強化のため、航空機との連携を図る目的でヘリ甲板を備えた1,000トン型巡視船の整備と、三大湾等の沿岸部における監視・警戒体制の構築のため、高速性・操縦性能に優れ、夜間監視機能のほか各種業務機能を備えた350トン型巡視船及び180トン型巡視船の整備を進めています。
 更に、尖閣諸島周辺海域の警備体制を磐石とするため、航空機及び巡視艇に対する燃料補給などの海上における拠点機能を強化した1,000トン型巡視船の整備を行うとともに、工作船事件等を踏まえた2,000トン型巡視船(ヘリ甲板付高速高機能)の整備を引き続き進めています。
 巡視艇については、密輸・密航等の犯罪取締りや沿岸水域の監視・警戒体制強化のため、高速性・操縦性能に優れた30メートル型巡視艇の整備を進めています。

■19年度就役予定の1000トン型巡視船
19年度就役予定の1000トン型巡視船

2. 航空機の整備

  飛行機については、我が国の排他的経済水域の監視取締りや情報収集等が継続的に実施できる体制を構築するとともに、我が国周辺海域の監視体制強化のため、航続性能、捜索監視機能に優れた飛行機の整備を進めています。
 ヘリコプターについては、大規模災害や夜間海難などに対する救助体制の強化のため、夜間業務対応のヘリコプターの整備を進めています。
 更に、テロ鎮圧部隊等を迅速に現場へ搬送できる能力を有するヘリコプターの整備を引き続き進めています。

■20年度就役予定の飛行機
20年度就役予定の飛行機

■19年度就役予定のヘリコプター
19年度就役予定のヘリコプター

■平成19年度巡視船艇・航空機の代替整備状況
平成19年度巡視船艇・航空機の代替整備状況

3. 基地施設の整備

 船艇・航空基地施設については、巡視船艇・航空機の能力を十二分に発揮させ、今日の業務課題に迅速かつ的確に対応するため、基地機能を充実強化した船艇・航空基地施設の整備を進めています。
監察

 海上保安庁の業務は、国民の生命や財産の保護並びに法律違反の予防、捜査及び鎮圧を目的としており、この任務を遂行するため、海上保安官は、司法警察職員としての権限等を有していることから、他にも増して厳正な規律の保持が求められています。
 また、業務遂行の必要から巡視船艇・航空機、航路標識等を保有し、これらを適切に運用・管理していますが、海上犯罪の取締り、海難救助等危険性の高い業務を行っていることから、より一層、安全の確保が求められています。
 このため、海上保安庁では、定期的に全国の管区海上保安本部や本部の事務所、船艇を対象に実地調査を行い、職場及び業務環境の改善等を進めています。また、巡視船艇等の事故や不祥事案の発生状況の調査と原因の究明を行うことで、公正かつ効率的な行政の運営に役立てるとともに、事故等の未然防止を図り、職員の厳正な規律を維持するための監察を国民の視点に立って公正かつ客観的に実施しています。
広報

 平成18年は、海上保安庁の潜水士を題材とした映画「LIMIT OF LOVE海猿」の劇場公開や海上保安官の幅広い活動がテレビ、新聞などのマスメディアに多く取り上げられたことにより、国民の注目を浴びる機会も一層増えました。
 海上保安庁ホームページなどには、皆さんからのご意見・ご質問が多く寄せられています。海上保安庁は、国の行政機関として、皆さんにその活動を正しく理解、評価いただいた上で、適正な業務の遂行を図らなければなりません。そのため、まだまだ私たちの活動を皆さんにお伝えする必要があるため、情報発信・受信機能をさらに高めていこうと考えています。
 海上保安庁は、積極的なプレスリリースを実施するとともに、音楽隊演奏会などの機会を捉えたPR活動や広報誌の充実、次世代を担う子どもたちに向けたパンフレット、ホームページのキッズコーナーの活用といった様々な取組みを進めており、少しでも多くの方々にご覧いただければ幸いです。
 今後とも、地域との交流及び連携を大切にし、皆さんの声を業務に反映しながら、国民に愛される海上保安庁を目指していきます。
 海上保安庁の広報に関するお問い合わせは、総務部政務課政策評価広報室までお願いします。

〒100-8918東京都千代田区霞が関2-1-3
TEL: 03-3591-9780(FAX兼用)
e-mail:shitsumon@kaiho.mlit.go.jp

海上保安庁ホームページ
http://www.kaiho.mlit.go.jp/

  制服を着たアザラシは、海上保安庁のイメージキャラクター「うみまる(兄)」「うーみん(妹)」です。このイメージキャラクターも様々な活動を展開していきますので、「うみまる」「うーみん」をどうぞよろしくお願いします。

うみまるとうーみん

海のもしもは「118番」

 海上保安庁では、海上における事件・事故に適切に対応するために緊急通報用電話番号「118番」を運用しています。
 平成19年4月1日からは「118番」通報での「位置情報通知システム」を導入することにより、GPS対応携帯電話などの電話機からの「118番」通報に合わせて位置情報の通知を受信し、電子地図上に表示させることで通報者の所在位置を迅速に把握できるようになりました。
 事件・事故の対応には、情報をいかに早い段階で入手できるかが重要となることから、一人でも多くの方に知ってもらえるよう「118番」通報のさらなる普及に努めています。