安心できる暮らしと環境を守るために

海洋環境保全対策

1目標

 海上保安庁では、海洋環境保全対策として、海洋汚染状況の把握、海洋汚染物質の排出源の特定等による新たな汚染の防止、海洋汚染の改善を目標としています。
 このために、海上保安庁では汚染源解明実績の向上、廃棄物・廃船の除去等による良好な環境の回復等を図ることとしています。
 特に、汚染源解明実績の向上及び廃船の除去実績の向上については具体的な数値目標を設定し、平成14年から18年において、前者については海洋汚染源の確認率を平均85%以上、後者については廃船撤去率を平均61%以上とすることを目指します。

2目標の達成

 平成13年度は、海洋環境保全対策として、日本周辺海域における海上漂流物目視調査結果、全国海岸漂着ゴミ分類調査結果及び海洋汚染調査結果の公表、一般市民からの情報収集体制(118番等)の強化、廃船指導票を用いた現状回復指導の強化、日本海沿岸におけるドラム缶及びポリ容器漂着事案における韓国との情報交換等を行いました。

3海洋汚染の現状

(1) 確認された海洋汚染
 平成13年、海上保安庁では海上における油・廃棄物の漂流や赤潮*1、青潮*2などの発生を486件確認しました。
 平成13年は、昭和48年に統計を取り始めて以来、最小の件数となりました。

海洋汚染の発生確認件数の推移
  • 油:乗り揚げ等の船舶海難に伴う油の流出、船舶航行中の故意による油の排出等をいいます。
  • 油以外:工場からの排出基準を超えた排水の排出、船舶からの有害液体物質の排出、不法投棄された廃棄物による汚染などをいいます。

(注)このデータは、海上保安庁が我が国周辺海域において、船艇、航空機又は陸上から海洋汚染を発見した場合に、海洋環境保全上、一定以上の影響を及ぼすおそれのある汚染についてとりまとめたものです。

*1赤潮 水中の植物プランクトンが異常に増殖し、水の色が著しく変わる現象。赤潮が起きると、その水域の生物に被害を与えることがある。

*2青潮 過剰な有機物が海底付近で分解される事によって、酸素が少なく硫化物イオンの多い層ができる。その層が海面まで上がって来て海面の色が乳青色や乳白色に見えるのが青潮である。酸素が少ないので魚類の大量死などを引き起こす場合がある。


(2)主な海洋汚染の現状
 1)漂流・漂着ゴミ
 石油化学製品の普及に伴い、漂流・漂着ゴミに占めるこれらの割合が増加しています。石油化学製品は分解せず、半永久的に地球上に残ってしまうので、例えば、「ウミガメがビニール袋をクラゲと間違えて食べ、内臓に詰まらせて死んでしまう」などの海洋生態系への影響が報告されており、事態は深刻化しています。
 下の円グラフは平成13年6月、全国50ヶ所で行った第2回海岸漂着ゴミ分類調査の結果です。石油化学製品が約7割を占めており、特に目立ったのはタバコのフィルターです。

第2回海岸分類漂着ゴミ調査結果

海岸に漂着したゴミ
海岸に漂着したゴミ

 2)船舶からの油の排出
 船舶からの油の不法排出については、海上保安庁の監視取締りが厳しくなるに従い、その目を逃れるための手口がますます巧妙となる傾向が見られます。例えば、油の不法排出を隠ぺいするために、不法排出用のパイプを外観上はわからないように増設していたものなどが挙げられます。これらの原因としては、廃油やビルジ*1の処理費用の節約などが考えられます。

油を不法排出しながら航行する船舶
油を不法排出しながら航行する船舶

 3)臨海工場等からの汚水排出
 臨海工場からの汚水の不法排出については、例えば過小に日間排出水量を届け出て、規制を逃れようとしたものや、密かに設置した排出管から直接汚水を海域に垂れ流していたものなどが挙げられます。これらの原因としては、排出処理施設を設置し、環境保全対策を重視すべきところ、この設備投資を節約し不当な生産性重視の経営をしていることなどが考えられます。

工場排水を採取する海上保安官
工場排水を採取する海上保安官

 4)廃船の不法投棄
 平成13年、FRP船については、972隻(廃船の66%)の不法投棄を確認しました。廃船の不法投棄事犯では、投棄した船舶の船名、船舶検査済票の番号等、所有者を特定する手掛かりを故意に削り取るなど悪質なものが多く見受けられます。

廃船の不法投棄
廃船の不法投棄

*1ビルジ 船底にたまった油性混合物。

4目標に向けた取組み

 私たちは、海洋環境保全に向け、更に様々な施策に取り組んでいきます。

(1) 海洋環境保全のための指導・啓発活動
 海を職場とする海事・漁業関係者に対し、船や職場を訪問して、不注意による油などの排出を防止するための技術的な指導、廃棄物の適性処理、油等の違法排出を防止するための関係法令の周知などを行っています。
 一般市民の方、特に次世代を担う小学生などの子供たちに対しては、海岸漂着ゴミ分類調査、現役海上保安官が作成した環境紙芝居の上演、環境教室、図画コンクールを通じ、幼い頃から海をきれいにする気持ちを持ってもらうなど、国民一人一人のモラルに訴えかける活動を行っています。
 海上保安庁では、海上漂着ゴミの目視調査の結果や海岸漂着ゴミの分類調査結果をまとめ、「ゴミマップ」として公表することにより、海洋環境の保全の大切さを理解していただくことに努めています。

訪船指導の状況
訪船指導の状況

環境紙芝居上演
環境紙芝居上演

漂着ゴミを分類調査する子供たち
漂着ゴミを分類調査する子供たち

【漂着ゴミ調査マップ】
第2回海岸漂着ゴミ分類調査
●実施部署:50ヶ所
●参加人数:小学生など3,708名
●ゴミ回収量:35.9トン


(2)海洋環境保全のための監視取締り
 1)法令違反の取締り状況
 海上保安庁では、海洋環境保全に関する各種法律違反の監視取締りを行っています。
 特に毎年6月と11月には「海洋環境保全推進週間」を設定し、全国で「海上環境事犯一斉取締り」を行っています。

コンクリート片等不法投棄事件調査
コンクリート片等不法投棄事件調査

 海上環境法令違反について、最近、特に問題となっているのは、「廃船、廃棄物の不法投棄事犯」であり、海上保安庁ではこれらを重点取締り事項として取り組んでいます。
 平成13年においては、不法に投棄された廃船を1,462隻確認し、このうち、778隻については、海上保安庁指導の下、所有者により自主的に撤去されています。一方、所有者による自主的な撤去を促す廃船指導票の貼付にもかかわらず撤去されなかった廃船109隻については、これを送致し、廃船の撤去により原状回復されています。
 また、不法に投棄された廃棄物については、188件送致しており、所有者により撤去され、原状回復されています。
 なお、最近5年間の海上環境事犯の送致件数は、以下のとおりです。

 最近5年間の海上環境事犯の送致件数の推移
 最近5年間の海上環境事犯の送致件数の推移

 2)廃船対策の推進
 海上保安庁は、毎年、約千隻の廃船の不法投棄を確認していますが、その約7割弱を占めるFRP船*1については、数年後には毎年1万隻を超える廃船が発生するとの予測もあります。
 FRP廃船の処理については、技術的にも施設的にも解決すべき多くの問題がありますが、問題をかかえたまま、廃船は更に増加し、また不法投棄が増加することが懸念されています。廃船については、自動車のような処理体系が未確立、マリーナ等の保管施設が不十分、FRP船体の再資源化技術等が未開発、さらに制度上の問題などの多くの問題があり、これらの種々の問題が原因となった悪循環により廃船の不法投棄が後をたたない状況となっています。
 廃船所有者に対して効果的な指導を実施するためには、廃船の所有者を知る手がかりとなる船舶検査済票の番号や船名等の文字を読みとることが必要となります。しかし、船舶検査済票を故意に剥がしたり、船名を消したりすることにより、所有者の割り出しが困難な場合が少なくありません。こうした場合であっても所有者の割り出しができるようにするため、海上保安庁では、科学的に文字を判読する技術の開発を検討しています。この所有者割り出し手法により早期に廃船所有者を割り出し、所有者に対する指導を強化することで、廃船の適正処理の促進に寄与することとしています。

 3)廃棄物対策への新たな取組み
 廃棄物の最終処分場のひっ迫や家電リサイクル法の施行等により、廃棄物の海洋への不法投棄の増加が危惧される中、海上保安庁では巡視船艇・航空機を効果的に使い、廃棄物の不法投棄事犯の取締りを実施しています。しかし、干潮時においても海面下となるような場所に廃棄物が不法投棄された場合、発見が困難であり、潜在化することが少なからずありました。そのため、こうした潜在化した廃棄物の不法投棄事犯をこれまで以上に積極的に探し出し、廃棄物の不法投棄事犯を根絶するために、平成12年度末に水中テレビカメラシステムを導入し、効果的な監視取締りを実施しています。

水中テレビカメラ本体
水中テレビカメラ本体

水中テレビカメラによる監視・取締り
水中テレビカメラによる監視・取締り

海中で発見されたオートバイ
海中で発見されたオートバイ

 4)「ダイオキシン類対策特別措置法」に基づく監視取締り
 平成12年1月に施行された同法に対応し、従来から実施している汚水排出の監視取締りに加え、今後はダイオキシン類による海洋汚染の監視取締りを行います。
 平成13年に実施した規制対象施設からの排水調査の結果、基準値を超えるダイオキシン類を含む排水を排出している施設はありませんでした。平成14年においては、引き続き規制対象施設からの排水調査を実施し、ダイオキシン類による海洋汚染の防止に努めていきます。


*1FRP(Fiberglass Reinforced Plastics )繊維強化プラスチック
耐食性が高く自然分解せず、再利用も困難。



(3)関係省庁、自治体と連携した施策

 1)東京湾蘇生プロジェクトの推進
 東京湾については、昭和57年から富栄養化防止対策が始められ、その後も排水規制や下水道の整備等の対策が実施されてきました。しかし、活発な産業活動や広大な背後圏から流入する環境負荷物質等を要因として、富栄養化が進み、夏季には広い範囲で、ほぼ慢性的に赤潮が発生しています。また、有機汚濁による貧酸素水塊やそれによる青潮の影響により貝類がへい死するなど、水産動植物に大きな影響を与えています。そして、未だこれらの汚染メカニズムは、必ずしも明らかになっていないのが現状です。
 このような東京湾の汚染を改善するために、関係部局が連携して、その総力をもって東京湾の汚染源を解明し、総合的な水質改善施策を講じる東京湾蘇生プロジェクトを実施しています。
 海上保安庁では、これまでに蓄積した海に関する専門的な知識・技術を活用するとともに船艇・航空機を利用し、機動力という海上保安庁の特徴を生かして、同プロジェクトに積極的に取り組んでいます。
 また、都市再生プロジェクト(第3次決定)において水質汚濁が慢性化している大都市圏の海の再生を図るため、先行的に東京湾奥部において、水質の改善を図ることが決定されました。
 この決定を受けて、内閣官房都市再生本部、関係各省(国土交通省、農林水産省及び環境省)や関係自治体(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市及び千葉市)からなる「東京湾再生推進会議」(座長 海上保安庁次長)が設置され、その水質改善のための行動計画の策定に着手しました。
  東京湾再生のため、海をよく知る海上保安庁の発想でコーディネイトしていくこととしています。

油塊の漂着したお台場の海岸
油塊の漂着したお台場の海岸

全長20cmを超える油塊
全長20cmを超える油塊

 2)スカイパトロールの強化
 各管区海上保安本部において、関係機関(警察、消防、各自治体)の航空機と連携し、陸上あるいは海上からでは目の届きにくい湾内の入江等の空からの監視を強化していきます。

出動式
出動式

ヘリポートに集結した各機関ヘリコプター
ヘリポートに集結した各機関ヘリコプター

 3)漂流・漂着ゴミ対策の推進
 近年深刻化しているプラスチック等の石油化学製品を中心とした漂流・漂着ゴミによる海洋環境汚染に対処するため、平成12年7月14日、当時の環境庁、建設省、運輸省、農林水産省、通産省、厚生省、海上保安庁、気象庁の五省三庁で「漂流・漂着ゴミに関する関係省庁連絡会」が発足しました。
 この中で海上保安庁は、洋上漂流物調査について主導的な立場で取り組んでいます。今後も、関係部局の連携により漂流・漂着ゴミ等の実態調査及び発生予防に関する総合的な対策を推進することとしています。


(4)地域に根ざした取組み

 1)沖縄県環境美化(ポイ捨て)条例−漂着ゴミとの大いなる闘い−
 沖縄県においては、市民、経済団体等からの強い要望を受けて、「沖縄県環境美化(ポイ捨て)条例」の制定に向けた動きが活発になり、平成14年2月から開催された県議会において、成立しました。
 同条例では、海洋観光立県という沖縄の特性を踏まえて、陸上からのゴミなどが周りの海や海岸を汚している実態をよく知る第十一管区海上保安本部(那覇市)による、同条例の適用範囲を陸域のみならず沿岸海域にも広げるべきという主張を反映しており、全国でも例をみない海岸への漂着ゴミにも対応する条例となります。
 同条例は、平成14年7月から施行される予定ですが、今後第十一管区海上保安本部としては、関係行政機関や環境保全ボランティア団体と連携を図り、海洋環境保全活動をさらに推進していきます。

 2)若松海岸探偵団
 「若松海岸探偵団」は、若松海上保安部の呼びかけにより、同保安部とNPO法人によって平成13年5月に発足しました。この探偵団は、郷土の自然を参加者自身の五感で感じ、「海の環境」について考えていくものです。

平成13年11月に行われた「若松海岸探偵団による響灘海岸クリーンアップ大作戦」の様子
平成13年11月に行われた「若松海岸探偵団による響灘海岸クリーンアップ大作戦」の様子

 海岸探偵団は、毎月一回地元海岸を清掃する他に、韓国、中国などから流れ着く工業製品やペットボトルなどの日用品、流木などを集め、集められた漂着物の一部をスーツケースに入れ「トランクミュージアム」として、また、造形を施しごみのアートとして展示するなど環境保全に対する啓蒙活動を行っています。


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