海上保安レポート 2008

●はじめに


特集1 海上保安庁 激動の10年

特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み〜新たな海洋立国の実現に向けて〜

1.体制を充実させて

2.海洋調査により海を拓く

2.大規模海難ゼロに向けて

特集3 海上保安庁のあゆみ


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


目指すは海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 治安の確保 > 4. 密輸・密航対策
治安の確保
4. 密輸・密航対策
目標 Target
 薬物・銃器の密輸入や外国人の不法入国は、それ自体が不法なだけではなく、国内での薬物・銃器の使用や不法入国者による強盗など、凶悪犯罪につながる可能性があります。さらに、密輸・密航で得られた不正収益は暴力団等の犯罪組織の収入源になっています。
  海上保安庁は、薬物等の流入や不法入国を水際で阻止するため、監視取締りを強化するとともに、国内外の関係機関と連携を強化するなど各種施策を推進することにより、密輸・密航の摘発実績の向上に努めていきます。
平成19年の現況
(1)密輸事犯について
 平成19年の薬物・銃器事犯の摘発件数は過去十年間で最多となる31件であり、平成18年より9件増加しています。
 この結果は、外国船舶に対する立入検査・監視取締りに必要な要員の確保、国内外関係機関との緊密な連携・協力に加え、昨年、国内において相次いで発生したけん銃発砲事件を踏まえた銃器対策の徹底等各種施策を強力に推進してきた効果が現れたものと考えられます。
 薬物・銃器事犯の犯行形態として主なものは、船員が薬物・銃器を居室等の船内又は着衣及び所持品の中に隠匿していたものでした。
 また、総摘発件数の6割以上がロシア人船員による自己使用目的の大麻所持事犯、遊戯目的の空気銃及び準空気銃の不法所持事犯となっていますが、中には船員が上陸した際に大麻を所持していた事案もあることから、引き続き船員の関与する犯行には十分な警戒が必要です。
 このほか、薬物・銃器以外の密輸事件として、暴力団幹部らがロシアから貨物船を使用して熊の胆を密輸入した事犯、暴力団幹部らが日本漁船を使用して台湾向けにうなぎ稚魚を不正に輸出しようとした事犯、北朝鮮産のあさりを中国産と偽り不正に輸入した事犯、中国人船員が中国から貨物船を使用して偽造クレジットカード原料を密輸入した事犯を警察及び税関等と連携し、摘発しています。薬物・銃器に限らず密輸事犯が組織的に行われ多様化している状況が認められます。
■最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況
最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況

■薬物事犯の摘発状況
薬物事犯の摘発状況

■銃器事犯の摘発状況
銃器事犯の摘発状況

Case file 2
押収した大麻
▲押収した大麻
カンボジア籍貨物船乗組員による
大麻不法所持事件
 平成19年6月、境海上保安部(鳥取)は税関と合同で、境港に着岸したカンボジア籍貨物船「VICTOR(ビクター)」(総トン数2,163トン、ロシア人乗組員24名)の立入検査を実施中、同船機関員の居室内において大麻を発見し、この機関員を大麻取締法違反(不法所持)で逮捕しました。


(2)密航事犯について
 平成19年の船舶利用による不法入国事件の摘発件数は4件、不法入国者16名、助長者等5名であり、平成18年と比較して摘発件数は6件、不法入国者は10名、助長者等は17名、それぞれ減少し、不法出国事件の摘発はありませんでした。近年の不法入国事犯については、過去多発したコンテナ内への潜伏や隠し部屋等に大量の密航者を隠匿する形態のものが見られなくなり、少人数による貨物船への潜伏密航等小口化で推移しています。
 この理由としては、国内外の関係機関との連携や取締りの強化、国際航海船舶及び国際港湾施設でのテロ防止対策の強化等により、水際における監視体制が強化され、密航阻止の効果が上がっているものと考えられます。
 しかしながら、平成19年4月に高速小型船を使用して密入国した韓国人11名及び助長者3名を摘発しました。この捜査において、過去に日本国内において退去強制処分等を受け、正規の手続きでは日本へ入国できない韓国人が、日韓両国の斡旋ブローカーの関与により仕立船を利用し、九州北部を舞台として日韓間の不法出入国を繰返している実態が明らかとなっています。
 また、平成19年11月20日から、海空港での入国審査において我が国に入国しようとする外国人について指紋及び顔写真の提供が義務化されました。これにより、過去、日本国内から退去強制処分を受けた者等については、入国審査を通過することが不可能となり、今後、船舶を利用しての不法入国事犯が増加することが懸念されるため、引き続き密航に対する厳重な警戒が必要です。
Case file 3
押収した空気銃と金属製弾丸
▲押収した空気銃と金属製弾丸
ロシア籍貨物船乗組員に
よる空気銃不法所持事件
 平成19年6月、小樽海上保安部(北海道)は警察、税関と合同で小樽港に着岸したロシア籍貨物船「AROMASHEV(アロマシェフ)」(総トン数172トン、ロシア人乗組員13名)の立入検査を実施中、同船二等航海士の居室内から空気銃を1丁及び金属製弾丸を発見し、この二等航海士を銃砲刀剣類所持等取締法違反(不法所持)で逮捕しました。
■船舶利用の不法出入国事件摘発状況
船舶利用の不法出入国事件摘発状況

今後の取組み
海上保安庁では、
  1. 薬物・銃器等の洋上取引や密航者の受渡しが行われる可能性のある海域における巡視船艇・航空機による監視・警戒の実施、
  2. 薬物・銃器等の流出や密航者の乗船の可能性が高い地域から来航する船舶等に対する厳重な監視及び立入検査の実施、
  3. 海事・漁業関係者をはじめ国民に対する広報啓発活動の推進、
  4. 国内関係機関との連携強化による情報交換、合同捜査等の的確な実施、
  5. 密輸・密航事犯等に対する専従捜査組織である国際組織犯罪対策基地職員を中心とした海外関係機関との情報交換、連携・協力の強化、
  6. 管区本部に組織犯罪情報分析官を配置することによる情報分析体制の強化
などを通じ、犯罪の予防、効果的な取締りを実施していきます。
Case file 4
西浦漁港
▲西浦漁港
福岡市西浦漁港
韓国人不法入国事件
 平成19年4月、福岡県警察から密航情報を入手した福岡海上保安部(福岡県)は同県警との間で緊密な連携を図るための合同捜査体制を確立し、福岡市西浦漁港において韓国人11名を出入国管理及び難民認定法違反(不法入国)で逮捕し、さらに車輌にて密航者を迎えた日本人1名を同法違反(集団密航助長)で逮捕しました。また、その後の捜査により、車輌にて現場まで出迎え逃走中であった日本人男性1名及び同人の妻(韓国籍)を同法違反(集団密航助長)で逮捕しました。
 なお、本事件においては、平成16年以降初めて、1件で10名以上の不法入国者を逮捕しました。