海上保安レポート 2007

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


特集 海洋国家「日本」と海上保安庁
〜海洋権益保全への取組み〜

はじめに

1.これが現場第一線

2.海洋調査に迫る


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


海上保安官を目指す


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 治安の確保 > 2. 密輸・密航対策
2. 密輸・密航対策
目標
 日本の治安は、密輸入された薬物・銃器及び不法入国した外国人などにより脅かされています。これは、薬物の乱用や銃器の使用自体が社会的に悪影響をもたらすことはもちろん、これらの不正取引等から生じた犯罪収益が、暴力団等の犯罪組織の資金源となっていることによります。また、不法入国者による侵入強盗や武装すり団などの凶悪犯罪も多発しています。
 海上保安庁では、薬物・銃器の流入や不法入国を水際で阻止するため、各種施策を推進し、取締りに全力を挙げ、密輸・密航事犯の摘発実績の向上に努めます。
平成18年の現況
密輸事犯について

 平成18年の薬物事犯の摘発件数は平成13年以来最多となる20件であり、平成17年より12件増加しています。また、銃器事犯の摘発件数は2件と平成17年より1件増加しています。この結果は、海上保安庁が外国船舶に対する立入検査等監視取締り体制の強化や国内外関係機関との連携・協力の推進、情報収集・分析体制の強化等を行ってきた効果が現れてきているものと考えられます。
 密輸入の形態としては、外国貨物船乗組員が覚せい剤などを身体に巻き付けて持ち込むケースが見られるなど小口化し、その手口は一層巧妙化しています。また、総摘発件数の約6割にあたる14件にロシア籍船またはロシア人船員が関与していました。さらに、立入検査等による摘発では、個人使用を目的とした大麻所持事犯が大半を占めていますが、約320gもの大麻を押収した事案もあり、引き続き船員の関与する薬物・銃器事犯は深刻な情勢にあります。

■最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況
最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況

■薬物事犯の摘発状況
薬物事犯の摘発状況

■銃器事犯の摘発状況
銃器事犯の摘発状況

フィリピン籍貨物船銃器・大麻等密輸事件

 平成18年1月18日、第三管区海上保安本部(神奈川県)、国際組織犯罪対策基地(東京都)および横浜海上保安部(神奈川県)は、警察、税関と合同でフィリピン籍貨物船「EASTERN CHALLENGER(イースタンチャレンジャー)」号(総トン数3,405トン、乗組員35名)を監視中、フィリピン人船員2人が監視対象者に身体に巻き付けて携帯していたけん銃11丁、実包220発、プラスチック爆弾6個、大麻約5kg等を渡したところを確認し、同人らを銃刀法違反で逮捕。その後、8月21日までに、銃刀法違反および大麻取締法違反等で暴力団幹部ら計9人を逮捕しました。
押収した銃器
▲押収した銃器

中国籍貨物船覚せい剤密輸事犯

 平成18年9月29日、第五管区海上保安本部(兵庫県)、国際組織犯罪対策基地(東京都)、神戸海上保安部及び姫路海上保安署(いずれも兵庫県)は、警察、税関と合同で姫路港着岸中の中国籍貨物船「FU FENG SHAN(フーフェンシャン)」号(総トン数2,311トン、乗組員19名)を監視中、中国人船員が覚せい剤約3kg入りの袋を車両に渡すのを確認したことから、同船員及び乗車していた2名を覚せい剤取締法違反で逮捕、さらに同船への捜索差押えにより新たに約3kgの覚せい剤を押収しました。
中国籍貨物船「FU FENG SHAN」号
▲中国籍貨物船「FU FENG SHAN」号
押収した覚せい剤
▲押収した覚せい剤

密航事犯について

 平成18年の船舶利用による集団密航事件の件数は3件と平成17年と同数で、密航者数は14名と平成17年より5名増加、助長者は17名と平成17年より16名増加しています。
 最近では、過去に多発した仕立船によるものや隠し部屋などに大量の密航者を隠匿するものなど大規模な密航事件は見られなくなり、船員が自室等に密航者を隠匿したり、偽造船員手帳を所持し船員になりすますなど、小口・巧妙化しています。
 平成18年の検挙者数は、平成17年に比べ一時的に増加したものの、近年の傾向としては減少傾向にあります。この理由としては、国内外の関係機関との連携や取締りの強化、国際航海船舶及び国際港湾施設でのテロ防止対策の強化などにより、水際における監視体制が強化され、密航阻止の効果が上がっているものと考えられます。
 しかしながら、入国管理局の統計によれば、海空港における上陸拒否者数は、平成18年には1万人以上もおり、何らかの方法で我が国へ不正に入国しようとする外国人の存在が多数認められています。また、窃盗などにより逮捕された外国人の中には、船舶で我が国に密航してきたと供述する者もおり、依然として密航が潜在的に発生しているものと考えられます。こうしたことから、今後とも小規模ながら悪質・巧妙な事犯の発生が懸念されるため、引き続き密航に対する厳重な警戒が必要です。

■船舶を利用した集団密航者の国籍別検挙状況
船舶を利用した集団密航者の国籍別検挙状況

不法出国企図事犯について

 近年、我が国に不法滞在している外国人が再入国を念頭に一時帰国するため、ブローカー組織の手引きにより不法な出国を企てる事件が発生しています。
 これらの手口は、貨物船やフェリーなどに潜伏するだけでなく、仕立船によるものも発生しています。
 このように不法出国の場合、ブローカーが関与しており、今後も同種事犯の発生が懸念されるため、引き続き強力な取締りが必要です。

偽造船員手帳による不法入国

 平成18年に入り、海上保安庁では、中国人密航者が偽造船員手帳により船員になりすまして我が国に不法に入国した事件を3件摘発しました。
 これらの事件では、中国人密航者を正規の船員が助長するという船ぐるみの犯行であることに加え、日本側に密航者の受入、就職あっせん等を担うブローカー組織(背後組織)が存在することも判明しています。
 偽造船員手帳は、その材質、印刷などの特徴から判別することができ、顕微鏡や電子機器による画像解析などを行い鑑定しています。
偽造船員手帳
▲偽造船員手帳
今後の取組み
 海上保安庁では、(1) 薬物・銃器等の洋上取引が行われる可能性のある海域における巡視船艇・航空機による監視・警戒の実施、(2) 薬物・銃器等が流出する可能性の高い地域や密航者が乗船する可能性の高い港から来航する船舶等に対する厳重な監視及び立入検査の実施、(3) 海事・漁業関係者をはじめ国民に対する広報啓発活動の推進などを通じ、犯罪の予防、効果的な取締りを実施していきます。
 しかしながら、密輸・密航事犯は組織的、計画的に行われ、近年ますます巧妙化しており、その摘発は困難さを増しているといえます。
 このため、情報収集・分析を行う国際組織犯罪対策基地職員を薬物の仕出地または中継地となっている国や地域へ派遣するなどし、これらの国の関係機関と情報交換や連携・協力体制を強化するとともに、管区海上保安本部に組織犯罪捜査官及び組織犯罪情報分析官を配置し、積極的かつ効果的な取締りを実施していきます。