海上保安レポート 2006

●はじめに


■TOPICS 海上保安の一年


■特集1 国際展開する海上保安庁

1. 海をつなぐ連携

はじめに
多国間連携
二国間連携
東南アジア諸国における海上保安機関の
設立支援・技術移転等
国際機関等での貢献

2. 我が国の海洋権益保全のために

■特集2 刷新図る海保の勢力


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える


海保のサポーター


海上保安官を目指す!


語句説明・索引


図表索引


資料編


特集1 > 国際展開する海上保安庁 > 1. 海をつなぐ連携 > 東南アジア諸国における海上保安機関の設立支援・技術移転等
東南アジア諸国における海上保安機関の設立支援・技術移転等
 東南アジア周辺海域、特にマラッカ・シンガポール海峡は、中東地域と我が国を結ぶオイルルートとなっており、これらの海域の治安の維持と海上交通の安全確保は、我が国にとっても極めて重要となっています。しかしながら、東南アジア諸国の中には、海上における治安の維持、安全の確保、海難救助等の業務遂行に関し、組織、勢力、技術等の面からまだまだ不十分であることなどの状況があり、我が国からの支援が強く求められています。
 このため、海上保安庁では、東南アジア諸国に対し、海上保安機関の設立を支援し、また、海上保安庁が有する高度な技術、知識の移転などを行っています。これらを通じて、東南アジア周辺海域の海上保安能力の全体的な向上を図り、これら海域の海上の秩序維持を確保し、これを通じて我が国の海上交通の安全確保に貢献しています。


(1)海上保安機関の設立等支援

 東南アジア諸国の中には、海上保安庁を手本に、既存の組織の充実化や、海上保安業務を一元的、効率的に遂行できるような新たな組織づくりに取り組んでいる国があります。海上保安庁では、東南アジア諸国におけるこれらの動きは、我が国関係船舶の主要な交通路ともなっている東南アジア諸国周辺海域の安全と秩序維持に大きく寄与するものであることから、積極的に支援を行っています。

(a)フィリピン
 フィリピンでは、フィリピン沿岸警備隊が平成10年に海軍から独立し、運輸通信省に移管されましたが、その業務遂行体制をより充実したものにするため、犯罪取締りや海難救助などの技能向上、将来の体制整備に欠かせない人材育成の面における研修教育カリキュラムの策定、講師の育成等を積極的に支援しています。
海難救助の技術移転
▲海難救助の技術移転

(b)インドネシア
 インドネシアでは、海軍、海上警察、海運総局等の機関が、海域や事案に応じて海上保安業務を担当していますが、より効率的な業務遂行を目指し、海上保安庁の専門家のアドバイスの下、省庁横断的な調整機能を有する「海上治安調整機構」を立ち上げるための検討が進められており、まず、その第一歩として、同組織設置に関する大統領規則が平成17年12月に公布されました。
巡視船での乗船研修
▲巡視船での乗船研修

(c)マレーシア
 マレーシアでは、海軍、海上警察、海事局等、多機関にまたがる海上取締部門を一つにまとめ、新たな海上法執行機関である「マレーシア海上法令執行庁」が創設され、平成17年11月30日に正式に運用が開始されました。同機関は、我が国海上保安庁をモデルともしており、創設準備段階から、海上保安庁の専門家を派遣し、全体的なアドバイスを行っています。
 これらの支援については、アジア各国との首脳レベルの多くの国際会合で被援助国から高く評価されており、海上保安庁は引き続き積極的にかつ具体的な支援をしていきます。
マレーシア海上法令執行庁設立式典
▲マレーシア海上法令執行庁設立式典
マレーシア海上法令執行庁による降下訓練
▲マレーシア海上法令執行庁による降下訓練

(2)海上犯罪取締能力向上のための支援

海上犯罪取締研修
▲海上犯罪取締研修
海上法令励行セミナーでの逮捕術訓練
▲海上法令励行セミナーでの逮捕術訓練
 海上保安庁では、東アジア各国の海上保安機関の人材育成策として、JICAを通じ、様々な活動を行っています。
 国内においては、平成13年から毎年約1カ月間、東アジア各国の海上保安機関の中堅幹部職員を日本に招いて、海上犯罪取締り研修として、海賊、密輸・密航等の海上犯罪の取締りに関する手法や指揮・演習に関する講義・実習などを実施しており、平成17年は、10カ国の海上保安機関職員10名が参加しました。
 また、平成13年から平成17年までの間、アジア6カ国の海上保安機関から計9名の若手職員を海上保安大学校への留学生として受け入れています。
 国外においては、東南アジア周辺海域に巡視船等を派遣した際、寄港国の海上保安機関等との間で、連携訓練や乗船研修などを行っています。また、JICAの「フィリピン海上保安人材育成プロジェクト」の一環である海上法令励行セミナーでは、海上保安庁から巡視船や専門家を派遣して、フィリピン沿岸警備隊の若手幹部職員に対し、捜査に係る訓練や巡視船等を用いた洋上取締実習のほか、逮捕術訓練などを実施しており、平成18年2月の同セミナーには、フィリピンの若手幹部職員31名の他に、アジア5カ国(インド、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア)の海上保安機関の若手職員7名を受け入れています。
 海上保安庁では、今後もこれらの活動を継続し、アジア全体の海上犯罪取締能力の向上を積極的に支援していきます。

(3)東南アジア等各国への捜索救助技術の移転

 海上保安庁では捜索救助体制が未だ十分に整備されていない国々の研修生を対象として、昭和57年から救難・防災研修コースを実施しており、これまで41カ国、167名の研修生が受講し、帰国後、研修で習得した知識・技術を活用し各国の捜索救助体制整備に役立てています。
 また、二国間ベースでは、SAR条約加入以降各国の要望に応じて捜索救助の専門家を派遣し、捜索救助の体制整備、又は技術に関するセミナーを開催するなど継続して技術の移転を通じた国際協力を推進しています。例えば平成15年からはJICAを通じフィリピン沿岸警備隊に対し、SARオペレーション機能の充実のためのセミナーを開催するとともに、航空機による遭難者の吊り上げ救助技術、船舶火災消火技術に関する講習会を実施するなど個別の捜索救助技術の移転を行っています。
フィリピン沿岸警備隊との合同捜索救助訓練
▲フィリピン沿岸警備隊との合同捜索救助訓練

(4)水路測量技術の移転

水路測量コース閉講式
▲水路測量コース閉講式
 海上保安庁では開発途上国の水路測量関係機関職員を対象として、JICAの集団研修の枠内で水路測量の基礎から海図の編集に関した研修「水路測量コース」を実施しており、これまで30カ国以上、300名以上の研修生を送り出しています。この研修コースは国際測量技術者連盟から資格認定されており、研修修了後の研修生は水路測量国際認定B級を取得することができます。
 また、電子海図の整備が殆ど行われていなかったフィリピンに対し、JICAを通じた電子海図作成技術移転プロジェクト(平成12年6月〜平成17年6月)を実施し、大・小縮尺の電子海図及び電子水路通報が刊行されるようになりました。なお、平成18年3月からは中縮尺の電子海図刊行を目標に同国航行安全のための水路業務能力強化プロジェクトを実施しています。
 これらの研修や各種の技術協力は、国際貢献のみならず、各国において国際基準による海図が作製されることにより、当該国沿岸を通航する日本関係船舶を含む全ての船舶の航行安全に寄与しています。

(5)航路標識技術の移転

航路標識研修
▲航路標識研修
 航路標識は、世界のあらゆる船舶が共通に利用できるよう、古くから幅広く世界的に関係国の協調・協力が図られています。
 海上保安庁では、特に東南アジア諸国の航路標識の発展と安定的運用に寄与するため、これらの国々の担当職員を対象とした技術協力を行っています。
 平成17年8月には、JICAとシンガポール政府が共同で開催する航路標識研修に海上保安庁の職員を講師として派遣し、東南アジア諸国の航路標識担当職員に対し、浮標の設置、保守、管理や国際基準などに関する技術指導を行いました。
 海上保安庁では、日本関係船舶のみならず、東南アジア周辺海域を航行する全ての船舶の航行の安全を確保するため、今後もこのような活動による協力を積極的に行っていきます。