海上保安レポート 2006

●はじめに


■TOPICS 海上保安の一年


■特集1 国際展開する海上保安庁

1. 海をつなぐ連携

2. 我が国の海洋権益保全のために

■特集2 刷新図る海保の勢力


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える


海保のサポーター


海上保安官を目指す!


語句説明・索引


図表索引


資料編


特集1 > 国際展開する海上保安庁 > 1. 海をつなぐ連携 > 二国間連携
二国間連携
 二国間で共有する海上犯罪などの諸問題の解決に向け協力して対処するため、海上保安庁では、ロシア、中国、韓国といった近隣諸国や、中東地域からの石油輸入の際のタンカールートとして我が国の重要な海上交通路となっているインド洋海域を管轄するインド沿岸警備隊などと二国間の連携・協力関係を構築し、着実にその成果を上げています。

(1)日韓間

日韓海上保安当局間長官級協議(第7回)
▲日韓海上保安当局間長官級協議
(第7回)
 海上保安庁と韓国海洋警察庁との間には、平成11年4月、両長官により署名された協力文書「日本国海上保安庁と大韓民国海洋警察庁間の協力について」があります。当協力文書には、1. 薬物・銃器等の密輸、密航等の海上犯罪、海上での捜索・救難等に関する業務について情報交換等の協力を推進、2. 連絡窓口の設定、3. 捜索及び救難に関する合同訓練の実施、4. 毎年長官級協議を実施することが明記されています。平成13年4月には、第七、八及び十管区海上保安本部と韓国海洋警察庁東海、釜山及び済州海洋警察署の間に地域連絡窓口が設定され、海上犯罪、救難、海洋汚染等に関する業務協力分野全般の情報交換が迅速に行われるようになりました。また、平成11年以降、毎年開催されている長官級協議により、両機関の犯罪防止などに関する連携強化が図られています。トピックスでも紹介している根室沖さんま漁船衝突転覆海難についても、これまで築いてきた両機関の連携・協力関係の有効性・重要性を示すものといえます。平成17年12月、韓国・仁川にて開催された長官級協議では、両国の連携・協力関係の評価を行い、さらに連携を深めることを確認し、韓国漁船の我が国海域での違法操業の取締問題について議論を行いました。また、海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)に基づく二国間SAR協定である「日韓海難救助協定付属書」について、新しい通信技術の普及などを踏まえ、改訂していくことで合意しました。
 また、平成17年8月末に東京で開催された「治安問題に関する日韓協議」では、捜査共助や不法入国・滞在問題などについて情報交換や意見交換が行われました。海上保安庁は外務省、警察庁、法務省、財務省とともに、海上における取締機関として協議に参加しました。海上保安庁からは、不法出入国事案について、最近は大規模な集団密航が減り小口化していること、韓国からの不法入国には船員が関与して組織犯罪化していることを説明するとともに、不法滞在の韓国人が船舶で不法出国する事案が発生しており、当該事案には両国における韓国人ブローカーの関与が判明していることから、取締りに向け情報交換を密にしていくことで認識が一致しました。

(2)日中間

日中海上取締機関長官級会議
▲日中海上取締機関長官級会議
 海上保安庁と中国公安部との間には、平成13年10月、中国公安部副部長が来日して署名した協力文書「日本国海上保安庁と中華人民共和国公安部との間の海上犯罪の防止及び取締りに関する討議の記録」があります。当協力文書は、1. 薬物・銃器の不正取引、密航及び海賊の問題につき協力を行うこと、2. 協力分野に関する情報の交換を適時適切に行うための連絡窓口を設定すること、3. 定期的に事務レベル協議を開催すること、4. 必要に応じ、専門家の相互訪問を実施することが明記されています。平成15年10月には、海上保安庁長官が訪中し、公安部副部長と長官級会議を行っており、そのほか海上保安庁と中国公安部は、実務者会合の開催や海上保安大学校への留学生の受け入れなど両機関の協力関係の強化を図っています。また、中国公安部からの情報により、平成13年には、大量密航に関する密航者91人とほう助12人の逮捕、平成14年には、覚せい剤151キロの発見押収と乗組員の逮捕など、両機関の連携協力が実際の海上犯罪取締りに結びついており、特に中国からの船舶による集団密航が著しく減少しています。
 平成17年9月、海上保安庁長官と中国公安部副部長との長官級会議で、協力文書の署名後に成果が上がっている密輸・密航対策など国境を越える犯罪について連携を強化することで合意しました。また、海上保安庁長官の訪中が要請され、次回会議を中国で開催することで合意しました。
 また、海上保安庁と中国交通部海事局は、捜索救助等、海上における安全確保を担うカウンターパートとして、一層の交流・協力関係の促進を図っています。平成16年5月には同局所属船の「海巡(かいじゅん)21」が来日し当庁主催の観閲式及び総合訓練に参加し、また平成17年7月には当庁からも巡視船「さつま」を中国上海に派遣、同局主催の総合SAR訓練に参加しました。
総合SAR訓練に参加した巡視船「さつま」
▲総合SAR訓練に参加した巡視船「さつま」

(3)日露間

第4回日露油防除専門家会合
▲第4回日露油防除専門家会合
 海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局との間には、平成12年9月、両長官により署名された「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁との間の協力の発展の基盤に関する覚書」があります。この覚書では、1. 薬物・銃器の不法取引の取締り、密航の防止、不審船対策、海洋環境汚染の取締り及び汚染防止等の分野での情報交換、2. 本庁、管区本部等のレベルでの協議と会合の実施、3. 専門家の相互派遣、4. 船艇の相互訪問と合同訓練の実施について、継続した協力関係の構築に努めることとなっており、これに基づき、長官や専門家による会合、合同訓練が定期的に行われています。
 平成17年10月、海上保安庁長官とロシア連邦保安庁国境警備局長官との長官級会談で、両機関の幅広い交流、情報交換などが海上治安の維持に大きく貢献していることを評価し、今後の協力関係の強化策として、情報交換の基盤の強化、地域レベルでの協力関係の推進、平成18年における海上保安庁長官の訪露及び長官級会合の開催などについて合意しました。
 この海上保安庁の取組みは、平成15年に日露両政府間で作成された「日露行動計画」の治安当局間の協力の一例として日露両政府首脳間でも高く評価されました。
 日露間の協力の最大の成果として挙げることができるのが、かつては日本漁船に対し銃撃していたロシア当局が、それをしなくなったことです。不法操業に対する取締りは日露双方とも依然として実施しているところですが、銃口を向けられた状態で操業しなくてもよい環境を引き続き維持するなど、日露の海域の治安と安全の確保を図っていきます。
ロシア警備艇入港歓迎セレモニー(新潟)
▲ロシア警備艇入港歓迎セレモニー(新潟)
 このほか現在、ロシアサハリン州で開発が進められているサハリン大陸棚石油・天然ガス開発事業(いわゆるサハリン・プロジェクト)の進展に伴い、大規模な油汚染事故が発生する可能性が生じていることから、海上保安庁では、ロシア連邦海洋汚染・海難救助調整庁と協力し、油汚染事故発生時における両国の協力体制の維持、改善を図るための意見交換などを実施しています。最近では、平成17年1月に北海道札幌市において、サハリン・プロジェクトの現状及び今後の見通し、油汚染事故発生時の対応などに関するシンポジウムを開催し、地元関係者を交えて事故発生時の対応などについて認識の共有化を図ったところです。

(4)日印間

アロンドラ・レインボー号を追跡するインド沿岸警備隊巡視船
▲アロンドラ・レインボー号を追跡する
インド沿岸警備隊巡視船
 インド沿岸警備隊との間では、平成11年に発生したアロンドラ・レインボー号事件を契機に両機関の関係作りが始まり、長官級会合、JICAによる海上犯罪取締研修へのインド沿岸警備隊職員の受け入れ、巡視船の相互訪問・連携訓練の実施など活発な交流が行われてきました。
 インドは、マラッカ・シンガポール海峡以西の安全確保やアジア地域全体の海上の秩序維持にとって重要な戦略的パートナーであり、平成17年4月の日印首脳会談の際に作成された「日印グローバル・パートナーシップ」においても当局間の協力が高く評価され、その継続などが合意されています。
北側国土交通大臣を表敬訪問するシンインド沿岸警備隊長官
▲北側国土交通大臣を表敬訪問する
シンインド沿岸警備隊長官
 また、平成17年11月、インド沿岸警備隊長官が訪日し、海上保安庁長官との会合を行い、1. 「アジア海賊対策チャレンジ2000」及び「アジア海上セキュリティ・イニシアチブ2004」の枠組みに基づき、引き続き海賊対策での協力関係を維持すること、2. 海上捜索・救助において連携協力関係を強化すること、3. 海洋環境保全問題において連携協力関係を強化することを確認しました。
 また、北九州沖において第七管区海上保安本部(福岡県)との合同訓練も行われるなど、双方の強い信頼関係が構築されています。



(5)日英間

協力文書に署名する両海洋情報部長
▲協力文書に署名する両海洋情報部長
 海上保安庁は、イギリス海洋情報部と海図の販売について協力を促進するため、平成18年3月、両国海洋情報部長が協力枠組み文書に署名しました。
 これにより、イギリスの海図販売網(52カ国、139販売店)を通して、最新に維持された安全性の高い日本の海図が世界中のユーザーに届くこととなり、日本周辺の海上交通の安全が一層高まることが期待できます。また、イギリスの販売網は、他国の海図を多数取り扱っていることから、ワンストップショップ化が促進されます。

(6)日智間

 チリ海軍海洋情報部と海上保安庁は海洋情報技術に関する全般的な技術の協力を促進するため、平成17年7月、両国海洋情報部長が技術協力に関する意見書に署名しました。
 チリはIHO加盟国であり、今後両国の間で協力関係が一層発展するものと期待されています。
世界の主な海上保安機関

国・機関名 沿革 主な任務 勢力
韓国
韓国
海洋警察庁
 韓国海洋警察庁は、1953年に内務部治安局の下に海洋警察隊として設立されて以来、幾度の組織改編を重ね、1996年海洋水産部の新設に伴い、同部の外局に移管され、現在に至っています。 ・警備救難
・海上治安
・海洋環境保全
・国際外事
・海上交通安全管理
・海洋汚染防除
・船艇:247隻
・航空機:10機
・職員:9,000人
ロシア連邦
ロシア連邦
保安庁国境警備局
 1893年、軍組織である「国境警備隊」が設立、1923年海上部隊が創設されました。大統領直属機関として全国に7つの管区を置き、下部組織を数多く設置しています。海上部隊だけでなく、陸上を含めたロシア全土の国境警備を任務としています。2003年には連邦保安庁に移管され、同庁の一部局となり、現在に至っています。 ・陸海の国境警備
・犯罪取締り
・出入国管理
・捜索救助(他機関からの要請による)
・海洋汚染対応(取締りのみ)
・船艇:約700隻
・航空機:約250機
・職員:約20万人
ロシア連邦
ロシア連邦
海洋汚染・海難救助
調整庁
 1998年の組織改正により現在の組織となりました。運輸省の外局である連邦海上河川輸送庁に属し、大きく分けて海洋汚染対策部門、海難救助部門、海難救助調整部門の業務を行っています。 ・捜索救助
・消防
・海洋汚染対応(防除)
・船艇:約100隻
・航空機:不明
・職員:不明
米国
米国
沿岸警備隊
 1790年に財務省の下に密輸監視隊として設立され、1915年に救難隊と統合されて沿岸警備隊となりました。1967年、運輸省設置とともに同省に移管されましたが、2001年9月の同時多発テロ事件を受け、所掌・人員・勢力・責務を変更することなく、2003年から国土安全保障省に移管され、現在に至っています。 ・法令の励行
・航行安全(捜索救難、航路の安全、航路標識、船舶検査、海技資格、砕氷等)
・海洋環境保護
・国防・有事対応
・船艇:約1,550隻
・航空機:約200機
・職員:
 武官約3,800人、
 文民約6,000人、
 予備役約7,800人
フィリピン
フィリピン
沿岸警備隊
 1967年、海軍の一機関として創設され、1998年運輸省に移管されました。
 地方に8つの管区本部と数多くの分室を置き、水路業務を除いて海上保安庁とほぼ同等の業務を行っています。
・警備
・犯罪取締り
・捜索救助
・消防
・海洋汚染対応
・航路標識業務
・船艇:28隻
・航空機:5機
・職員:約4,000人
マレーシア
マレーシア
海上法令執行庁
 海上警察、税関、漁業局等、複数の機関にまたがる海上における取締り業務について、その業務遂行面における効率性、有効性を向上させる必要から、これら機関を一つにまとめた新たな組織として海上法令執行庁(MMEA)を創設することが2003年4月に決定し、以後、設立チームにより検討が進められ、2005年11月30日、正式に運用が開始されました。同組織は首相府に所属する文民組織であり、海上における法令の励行、捜索救助等を任務としています。 ・海上における法秩序の維持
・治安・安全・セキュリティの保全
・犯罪捜査
・セキュリティ情報の収集
・船艇:20隻
・航空機:4機
・職員:約660人
中国
中国
公安部
 1949年、建国の1ヵ月後に設立されました。公安部は、日本の警察、消防、入国管理局、海上保安庁等の機能を併せ持った巨大な組織となっています。公安部の部局の一つの辺防管理局は、海上保安庁の警備業務とほぼ同等の業務を持っています。 ・陸海の国境警備
・犯罪取締り
・出入国管理
・消防等
・船艇・航空機:不明
・職員:不明
中国
中国
交通部海事局
 1999年、港務監督局及び船舶検査局を統合し、中国交通部直属の機関として設置されました。海事局は水上(海上及び河川等)における安全監督、船舶からの汚染防止、船舶等の検査、航行に係る管理と行政についての法執行を行っており、国土交通省海事局及び海上保安庁の警備業務以外の機能を併せ持った組織となっています。 ・捜索救助
・消防
・航行安全
・海洋汚染対応
・航路標識
・水路
・その他(海上安全、船舶検査、PSC等)
・船艇:約1,300隻
・職員:約3万人
カナダ
カナダ
沿岸警備隊
 1964年に設立されました。漁業海洋省に属し、捜索救助、航行安全等海上保安庁と同様の業務を所掌していますが、1995年に移管された漁業取締り部門以外、警備分野の業務は担当しておらず、領海警備、密航・密輸取締りなどの警察活動は、海軍と各州警察が担当しています。 ・漁業取締り、流氷パトロール
・捜索救助
・海上防災
・航行安全の確保、航路標識整備、海上交通管制
・海上安全通信
・船艇:約120隻
・航空機:約20機
・職員:約7,000人
インド
インド
沿岸警備隊
 インドの管轄海域における法の励行並びに海上における生命及び財産の保護は、有事における任務を担う海軍とは距離を置いた、すなわち米国等先進諸国の沿岸警備隊のような適切な装備の組織によって履行されるべきであるとの考えから、1978年、国防省の管理下にある準海軍的な組織として設立されました。 ・海洋及び沿岸部における油、水産・鉱物資源等産物の保護
・遭難者の支援並びに海上における声明及び財産の保護
・海洋・海運・密漁・密輸・薬物等に関する法執行
・海洋環境及び生態の保全並びに稀少種の保護
・科学データの収集及び有事における海軍のバックアップ
・船艇:47隻
・航空機:43機
・職員:約7,000人

※ロシア連邦保安庁国境警備局、米国沿岸警備隊、インド沿岸警備隊については軍組織、その他は文民組織。