海上保安レポート 2006

●はじめに


■TOPICS 海上保安の一年


■特集1 国際展開する海上保安庁

1. 海をつなぐ連携

2. 我が国の海洋権益保全のために

■特集2 刷新図る海保の勢力


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える


海保のサポーター


海上保安官を目指す!


語句説明・索引


図表索引


資料編


特集1 > 国際展開する海上保安庁 > 1. 海をつなぐ連携 > 多国間連携
多国間連携
 各国に共通する懸案事項や課題を複数国の海上保安機関等が連携・協力し、克服、解消していく多国間連携は、地域レベルでの海上の安全確保・治安維持の観点から大変有効です。海上保安庁では積極的にこれらの取組みを企画し、参画しています。

(1)北太平洋地域海上保安機関長官級会合

北太平洋地域海上保安機関長官級会合の様子
▲北太平洋地域
海上保安機関長官級会合の様子
 北太平洋地域の海上の秩序・治安の確保のため、平成12年、海上保安庁の呼びかけにより、米国沿岸警備隊、ロシア連邦保安庁国境警備局、韓国海洋警察庁の長官級が一堂に会し、具体的な連携・協力について議論・検討する会合として北太平洋地域海上保安機関長官級会合が行われました。この会合は、後にカナダ沿岸警備隊及び中国公安部も加わり、北太平洋に係る6ヶ国の会議体となりました。
 平成17年9月、神戸市において開催された第6回会合では、より実践的な協力を促進するため「机上から海へ」というキーワードの下、1. 海上テロ対策として各国が連携した対応体制を形成するための相互連絡窓口の設定、2. 海上テロ発生時における各国の共通指針となる「海上テロ緊急時ガイドライン」の作成、3. 情報収集能力の向上のための「船舶動静監視システム」の検討、4. 海上犯罪、海上テロに対する抑止力・制圧力を強化するため、共同オペレーションの実施による即応能力の向上、5. 多国間連携訓練を通じたより実践的な協力の促進を内容とした「6カ国共同宣言」が署名されました。
各国の長官等(左から3人目が石川海上保安庁長官)
▲各国の長官等
(左から3人目が石川海上保安庁長官)
 また、6カ国の連携をより強化し、それを明確に示すため、この会合を長官級が参加する「北太平洋海上保安サミット」と実務者による「北太平洋海上保安専門家会合」で構成する「北太平洋海上保安フォーラム」と改称することが決まりました。
 次回会合は、平成18年、中国において開催することが決められ、次回までに本会合が目指す「中長期戦略」を作成することで合意し閉会しました。
 本会合による連携・協力は、国際化する海上テロ、密輸・密航等の犯罪を防止し、北太平洋地域の海上の秩序を確保する上で大変重要であることから、海上保安庁では、引き続き積極的に参画していくこととしています。

(2)アジア海上保安機関長官級会合

第2回アジア海上保安機関長官級会合(マレーシア)
▲第2回アジア海上保安機関長官級会合
(マレーシア)
 海上保安庁は、平成16年6月、東京において「アジア海上保安機関長官級会合」を開催しました。本会合は、平成12年、東京において開催された「海賊対策国際会議」で採択された「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づき進められてきたアジア地域における海賊対策に加え、海上テロ対策への取組みが強く求められるようになってきたことを踏まえ、新たに開催したものです。本会合では、これまで構築された海賊対策分野での協力体制を発展させ、新たに海上テロ対策分野での協力を強化するための取組みが検討され、関連情報の交換を目的とし、今後の取組み及び連携・協力の指針となる「アジア海上セキュリティ・イニシアチブ2004」が採択されました。
 平成18年3月には、マレーシア海上法令執行庁が主催する第2回会合がマレーシア(プトラジャヤ)において開催されました。本会合においては、アジア海域の海上セキュリティの維持・向上のための措置について議論が行われ、アジアの海上保安機関の連携と協力を推進するための決議が採択されました。
 アジア地域は、北太平洋地域と同様に我が国にとって重要な地域であることから、両方面で同時に地域的な国際連携を推進する必要があります。海上保安庁は、アジア・太平洋の海上保安機関をつなぐ『扇の要』として、より広い政策・実務連携の展開を図っていきます。

(3)拡散に対する安全保障構想(PSI)

PSI海上阻止訓練に参加した巡視船「しきしま」
▲PSI海上阻止訓練に参加した巡視船
「しきしま」
我が国が主催したPSI海上阻止訓練
▲我が国が主催したPSI海上阻止訓練
 PSIは、国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器・ミサイル及びそれらの関連物資の拡散を阻止するために、国際法・各国国内法の範囲内で、参加国が共同して取り得る移転及び輸送の阻止のための措置を検討・実践する取組みで、平成15年5月、ブッシュ米国大統領により提案されたものです。現在、日本、米国をはじめとする60カ国以上が、PSIの活動の基本原則を定めた「阻止原則宣言」を支持し、PSIの活動に参加・協力しています。
 海上保安庁は、我が国の海上における法執行機関として、平成15年9月、オーストラリア沖において行われた第1回海上阻止訓練に巡視船などを派遣したのをはじめ、PSI各種会合にも積極的に参加しています。平成16年10月には海上阻止訓練を我が国で主催したのに加え、PSIを含む不拡散の包括的な取組強化の必要性をASEAN諸国に説明することを目的として、平成16年2月に「日ASEAN不拡散協力ミッション」に参加、平成16年5月にはASEAN諸国の海上法執行担当官を対象として行われた「アジア不拡散セミナー(海での協力)」に講師を派遣するとともに訓練を実施しました。そして、トピックスでも紹介しましたが、平成17年8月、シンガポール主催でPSI海上阻止訓練が開催され、海上保安庁からは、巡視船「しきしま」を派遣し、同訓練に参加しました。
 PSIの活動は、今後も会合及び訓練が継続して行われることから、海上保安庁は、我が国における海上法執行機関として、引き続き積極的にこれに取り組んでいきます。

(4)海賊対策

 国際海上輸送の要衝であるマラッカ・シンガポール海峡等においては、平成11年に発生したアロンドラ・レインボー号事件など、日本関係船舶に対する重大な海賊・海上武装強盗(以下、「海賊」という。)事件が増加していました。このような状況を踏まえ、海賊問題を解決するには、アジア各国の海上犯罪取締能力の向上及び連携・協力関係の強化を図る必要があることから、平成12年4月東京においてアジア15カ国・地域の関係機関が一同に会した「海賊対策国際会議」を開催し、各国の取組及び連携・協力の指針として、「アジア海賊対策チャレンジ2000」を採択しました。
 その後、平成16年6月には、東京において「アジア海上保安機関長官級会合」を開催し、海賊対策分野に加え、海上テロ対策分野でも連携・協力関係を強化することとして「アジア海上セキュリティ・イニシアチブ2004」を採択しました。
 海上保安庁では、これらに基づき、各国との相互協力及び連携強化を進めており、具体的には、巡視船・航空機を東南アジア諸国などに派遣し、海上保安機関等職員に対する乗船研修や海賊事件を想定した連携訓練などを実施しています。
 また、アジア全体の海上犯罪取締能力の向上を図るため、国際協力機構(JICA)を通じて、各国の海上保安機関等職員を対象に、我が国において海上犯罪取締研修、フィリピンにおいて海上法令励行セミナーを実施しています。
韋駄天
▲韋駄天
 さらに、国土交通省・海上保安庁では、平成17年3月に発生した日本籍船舶「韋駄天(いだてん)」(498トン、乗組員日本人8名、フィリピン人6名)がマレーシア領海内のマラッカ海峡を航行中に、武装集団が乗り込んだ小舟に襲撃され、日本人の船長と機関長の2名、フィリピン人乗組員1名の計3名が連れ去られるという事件を重く受け止め、4月、「海賊・海上武装強盗対策推進会議」を設置しました。同会議では、これまでの対策の検証及び今後の具体的対策の検討を実施し、同年7月、第3回の会議において、便宜置籍船等を含む日本関係船舶の自主警備対策の強化のための環境整備、沿岸国海上取締機関能力向上のための一層の支援、海賊行為抑圧のための国際的協力体制の拡充の3つの大きな柱からなる「中間とりまとめ」を行っています。海上保安庁では、同とりまとめに基づき、新たに、便宜置籍船を含む日本関係船舶に対する海上保安庁への船舶警報通報装置による通報の奨励、ホームページを利用した海賊事件発生状況の情報提供等を実施しています。
 さらに、平成18年1月、同会議を常設的な体制に改め、新たに「海賊等対策会議」を設置し、3月、「中間とりまとめ」を再検討し、今後の施策展開のあり方をとりまとめた「海賊・海上武装強盗対策の強化について」を策定しました。
 IMB(国際商業会議所国際海事局)によると、平成17年の全世界における海賊事件の発生件数は276件で、前年より53件減少しています。このうち東南アジアにおける発生件数は、171件から122件と約3割減少しており、さらに、マラッカ・シンガポール海峡における発生件数も45件から半分以下の19件に減少しています。日本関係船舶の海賊事件による被害件数については、7件から9件(国土交通省の調査による)に増加しています。
 このように、東南アジア海域における海賊事件の発生件数が減少している理由には、平成16年12月のスマトラ沖地震・津波の影響に加え、海上保安庁と沿岸国の海上保安機関等の連携・協力関係の強化及び沿岸国の海上保安機関自らの積極的な取組みの効果が現れてきたことによるものと考えられます。

海賊の発生件数
海賊の発生件数

地域別海賊発生状況(平成17年)
地域別海賊発生状況(平成17年)

 平成16年11月、16カ国の参加の下、東京で開催された政府間会合において、我が国により提案され、採択された「アジアにおける海賊行為及び船舶に対する武装強盗との戦いに関する地域協力協定」に基づき、シンガポールに情報共有センターが設置されることとなるなど、海賊対策をめぐるアジア地域協力の強化が進められています。しかし、東南アジアにおける海賊事件の発生件数については、減少傾向にあるものの、船舶に対するハイジャックや誘拐など凶悪な犯罪は依然として発生していることから、海上保安庁は、同協定の発効のため、各国に早期締結を働きかけるなど、同協定に基づく各種海賊対策について積極的な貢献を行います。また、平成18年度には、海上保安庁警備救難部国際刑事課内に「海賊対策室」を設置し、情報収集・分析・提供体制、国内外関係機関との連携・協力等海賊対策業務の強化を推進していきます。


ソマリア沖における海賊事件の多発
 アフリカのソマリア沖においては、平成17年に入り、海賊事件が急増しており、その内容も重火器を用いて通航船舶に発砲し、船舶に対するハイジャックを行うなど、極めて悪質なものです。しかし、ソマリアは現在も内戦状態であり、近隣国の海上保安機関も十分な海上犯罪取締能力を有しているとはいえず、国際海事機関(IMO)も平成17年11月の総会においてソマリア沖における海賊事件の発生防止のための決議を行うなど、憂慮すべき状態となっています。このため、海上保安庁は、関係船会社に対し、通達を発し、ソマリア沖航行船舶に対する注意喚起を行うとともに、航行警報やホームページ等を用いた積極的情報提供を行うなどして、日本関係船舶の安全確保に努めています。

ソマリア沖の海賊発生件数
ソマリア沖の海賊発生件数


(5)海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)

RESCUE SPIRIT MAIZURU 2005
▲RESCUE SPIRIT MAIZURU 2005
ロシア救助船からの吊り上げ救助訓練
▲ロシア救助船からの吊り上げ救助訓練
 海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)は、海上における遭難者を迅速かつ効果的に救助するため、沿岸国が自国の周辺区域において適切な捜索救助業務を行うための国内体制を確立するとともに、国際的な海上捜索救助計画を策定し、世界の捜索救助組織間での協力を促進することを目的とした条約で、平成17年に条約発効20周年を迎えました。我が国は昭和60年に19番目の条約締約国となっています。
 世界に空白のない捜索救助体制の確立を目的とするSAR条約の趣旨に則り、海上保安庁はSAR条約締約後隣接国との間の捜索救助体制の協力を進め、平成7年には韓国、ロシアとの3カ国による捜索救助実務者会合を主催、翌年からは中国も参加した北西太平洋地域4カ国による捜索救助実務者会合が開催されています。
 会合では、それぞれ領土問題から二国間SAR協定にお互いの責任海域が画定できていない韓国、ロシアとの間、及び二国間SAR協定自体が締結に至っていない中国との間で、海難が発生した場合に迅速・的確な捜索救助協力を実施するために必要な調整の方策について討議を続けています。
 本会合が発足から10年を経過したことを契機として、平成17年10月、今後の捜索救助協力のあり方などについて討議するとともに、これまでの4カ国間の捜索救助協力の成果として、舞鶴沖の公海上において4カ国合同捜索救助訓練「RESCUE SPIRITMAIZURU 2005」を実施し、捜索救助の分野における4カ国の協力関係の維持・促進を改めて確認しました。

(6)日本海及び黄海等の海洋環境保全対策

 大規模な油汚染事故は、事故が発生した一国にとどまらず沿岸国に広範囲な被害をもたらすことから、この対策のためには、周辺国の協力体制の構築は欠かすことができません。
 このため、平成6年9月、日本、ロシア、中国、韓国の4カ国は、日本海及び黄海等の海洋環境の保全を目的とする「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」を採択しました。本行動計画に基づき、海洋汚染緊急時対応に関する沿岸国の協力体制の整備、環境データベースの構築、環境モニタリングなどの取組みが行われています。
政府間会合(富山)(NOWPAP RCU提供)
▲政府間会合(富山)(NOWPAP RCU提供)
 その一環として、平成16年11月、日本海及び黄海等において大規模な油汚染事故が発生した場合に、関係4カ国が協力して対応するための枠組み「NOWPAP地域油流出緊急時計画」が策定されましたが、サハリン・プロジェクトの進展により油汚染事故が発生する可能性が生じていることを受け、平成17年11月に富山県で開催された政府間会合において、同計画の地理的な対象範囲をサハリン東部まで拡大することが合意されました。
 海上保安庁は、今後も関係4カ国、関係省庁と連携して日本海及び黄海等の海洋環境の保全に積極的に取り組んでいきます。

(7)アジア太平洋海上保安主管庁フォーラム

 「アジア太平洋海上保安主管庁フォーラム」は、アジア・太平洋地域における航行安全、油汚染対応、捜索救助等の分野における海上保安主管庁間の協力の促進を図ることを目的として、オーストラリア海上安全庁長官の提唱により、平成8年から開催されています。第6回フォーラムでは、平成13年9月11日に発生した同時多発テロ以降の海上セキュリティ対策の重要性を踏まえ、海事保安についても対象分野とすることとされました。
 平成17年4月には第8回フォーラムが開催され、19カ国・地域から関係者が出席しました。本フォーラムでは、海上安全や環境保護に関する議論が行われました。
 海上保安庁では、今後もアジア太平洋地域における海上安全・環境保護のために、本フォーラムに積極的に参加していきます。

(8)東アジア水路委員会

 東アジア水路委員会(EAHC)は、国際水路機関(IHO)の地域水路委員会の一つで、東アジア各国の海洋情報機関の活動を調整し、水路測量等の技術的開発及び技術的細目に関する情報の相互交換を促進し、海洋情報業務の発展についての相互援助を推進するために設置されています。海上保安庁は、事務局として同委員会の調整、機関誌の刊行を実施しています。
 同委員会では東アジア地域内の電子海図の普及について調整しており、平成17年2月には南シナ海の小縮尺電子海図の整備が行われました。今後は、同海域の大縮尺、中縮尺の電子海図の整備が行われる予定です。