海上保安レポート2003
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山の上で水路観測?〜美星水路観測所〜

 海から20キロメートルも離れた標高約500メートルの大倉竜王山の上に銀色に輝くドームがそびえています。そこは岡山県の南西部、小田郡美星町にある「美星水路観測所」です。

 このドームの中には天体望遠鏡が入っていて、星の観測を行っています。

 ここ数十年の間に、人工衛星や電波を利用して自分の船の位置を正確に知ることができるようになりましたが、古くから大海原を渡る航海者たちは、太陽や星を利用して航海を続けていました。このように天体を利用して航海することを「天文航法」と言います。今でも人工衛星や電波が利用できなくなったときの最後の手段として、天文航法を行うことは、船乗りの知識の基本中の基本となっています。

 海上保安庁では、航海の安全のための情報提供業務の一つとして、天文航法になくてはならない天測暦を刊行しています。天測暦には、翌年分の天体の位置や日出没の時刻などの情報が掲載され、これが約半年前に刊行されます。

 天測暦に掲載される情報は、精密な計算式により求められており、この計算式には、地球の自転や月の動きなどを実際に観測して得られた補正データが含まれています。

 この補正データは、地球の自転速度や月の動きが一定ではなく、予測できない動きをするため、翌年分の予報である天測暦にはなくてはならないものなのです。

 美星水路観測所では、この補正データを得るために、星が月に隠れて見えなくなる「星食」という現象を観測しています。星食観測からは、実際の地球の自転速度の変化や月の動きがわかります。

 この観測した結果と予報とのズレから補正値を求め、計算式に反映させ、天測暦の精度を維持向上させています。

 何故、この業務をここで行っているのでしょう。

 天体の位置を測るためには、正確に天体を観測できる機材と環境が必要です。

 機材は様々な技術を投入すれば、性能のいいものが作れます。しかし、環境だけはどうしようもありません。環境の条件としては、空気が澄んでいて、雨の日や曇りの日が少ない場所が有利です。さらに、光の弱い星の観測をするためには、ネオンの光などの街の灯りが少ない暗い空であることが求められます。

 美星水路観測所の前身は、岡山県倉敷市の「倉敷水路観測所」でしたが、倉敷市周辺の発展に伴って、この環境の条件が満たせなくなったため、昭和58年、現在の美星町に移転しました。まさに、美星町は天体観測にぴったりの環境だったのです。

 航海の安全のために山の上で星を見つめる仕事とは何ともロマンチックな世界です。

上空から見た美星水路観測所(中央右の丸屋根の建物。中央左は、美星町公共牧場)
上空から見た美星水路観測所

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