海上保安レポート 2015

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 離島周辺や遠方海域における海上保安庁の活躍


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

2 生命を救う > CHAPTER I 海難救助
2 生命を救う
CHAPTER I 海難救助

海では、船舶事故や海浜事故等により、毎年多くの命が失われています。

海上保安庁では、海難等による死者・行方不明者をできる限り減少させるため、安全意識の向上を目的とした海難防止思想の普及・啓発に努めるとともに、海難の発生に備えた救助体制の充実強化、民間救助組織等との連携・協力等に努めています。また、実際に海難が発生した場合には、早期に救助勢力を投入して、迅速な救助活動を行っています。

平成26年の現況

平成26年の海上保安庁が認知した船舶事故隻数2,158隻のうち、要救助船舶は1,690隻でした。要救助船舶の中で、自力入港した228隻を除いた1,462隻のうち1,247隻が救助されました。

海上保安庁は、これらの事故に対し、巡視船艇延べ2,199隻、航空機延べ526機を出動させ、1,386隻に対して救助活動を行いました。

また、船舶事故以外の乗船中の事故者は938人で、海浜事故の事故者は1,804人でした。事故者の中で、自殺や自力救助した1,101人を除いた1,641人のうち、924人が救助されました。

海上保安庁では、これらの事故に対し、巡視船艇延べ1,420隻、航空機延べ813機を出動させ、1,251人に対して救助活動を行いました。

船舶事故隻数2,158隻のうち、緊急通報用電話番号「118番」により、海難等の発生情報(第一報)を認知した船舶は1,066隻であり、このうち895隻が携帯電話からの通報によるものでした。

船舶事故以外の乗船中の事故及び海浜事故による事故者2,742人のうち、緊急通報用電話番号「118番」による海難等の発生情報(第一報)を認知した人数は689人であり、このうち333人が携帯電話からの通報によるものでした。

海上保安庁の海難救助体制
1 海難情報の早期入手

海上保安庁では、海中転落者の海上における生存可能時間や救助に要する時間等を勘案し、人命を救助するために、海難発生から情報を入手するまでの所要時間を2時間以内にすることを目標としています。

このため、海上保安庁では、海上における事件・事故の緊急通報用電話番号「118番」を運用するとともに、携帯電話からの「118番」通報の際に、音声とあわせて位置情報を受信することができる「緊急通報位置情報システム」を導入しています。このシステムにより、迅速かつ的確な対応が可能となっています。

さらに海上保安庁では、世界中どの海域からでも衛星等を通じて救助を求めることができる「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」に基づき、24時間体制で海難情報の受付を行っています。

今後も、これらのツールを有効に活用しながら、海難情報の早期入手と初動対応までの時間短縮に努めていきます。


2 海上保安庁の救助・救急体制  〜『苦しい 疲れた もうやめた では 人の命は救えない』〜

海難救助には、海上という特殊な環境の中で、常に冷静な判断力と『絶対に助ける』という熱い想いが必要とされます。

海上保安庁では、巡視船艇・航空機を全国に配備するとともに、救助・救急体制の充実のため、潜水士機動救難士特殊救難隊といった海難救助のプロフェッショナルを拠点に配置しています。


潜水士
潜水士

転覆した船舶や沈没した船舶等から取り残された方を救出したり、海上で行方不明となった方を潜水捜索すること等を任務としています。潜水士は、巡視船艇乗組員の中から選抜され、厳しい潜水研修を受けた後、潜水指定を受けた巡視船艇で業務にあたっています。


機動救難士
機動救難士

洋上の船舶で発生した傷病者や、海上で漂流する遭難者等をヘリコプターとの連携により迅速に救助することを主な任務としています。機動救難士は、高度なヘリコプターからの降下技術を有するほか、隊員の約半数が救急救命士の資格を有しており、全国9箇所の航空基地等に配置され、特殊救難隊とともに、日本沿岸の大部分をカバーしています。


特殊救難隊
特殊救難隊

火災を起こした危険物積載船に取り残された方の救助や、荒天下で座礁船に取り残された方の救助等、全国で発生した高度な知識・技術を必要とする特殊海難に対応する海難救助のスペシャリストです。


海上保安庁の救助・救急体制(H27.4.1現在)
海上保安庁の救助・救急体制(H27.4.1現在)

3 救助・救急能力の向上

海上保安庁では、海難等により生じた傷病者に対し、容態に応じた適切な処置を行えるよう、専門の資格を有する救急救命士を配置するとともに、救急救命士が実施する救急救命処置の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール体制を整備し、更なる対応能力の向上を図っています。また、巡視船艇・航空機の高機能化とともに、救助資器材の整備等を行うことにより、救助・救急体制の充実強化を図っています。

また、我が国の広大な海で、多くの命を守るためには、行方不明者を迅速に発見するための正確な漂流予測が必要となります。このため、漂流予測の計算式の見直しを行うほか、気象庁の協力も得るなど、引き続きより精度の高い漂流予測を目指し、一人でも多くの命を救えるような体制を目指しています。


4 他機関との協力体制の充実

我が国の広大な海で、多くの命を守るためには、日頃から警察・消防等の救助機関や民間救助組織との密接な連携・協力体制を確立しておくことが重要です。特に、沿岸域で発生する海難に対しては、空白地域のない救助エリアの確保や円滑な救助活動を実施できるよう、合同海難救助訓練等を通じて、公益社団法人日本水難救済会やNPO法人日本ライフセービング協会等の民間救助組織との連携・協力体制の充実に努めています。

我が国周辺海域で発生する海難には、中国、韓国、ロシア、米国等の救助調整本部(RCC)と協力して合同で捜索・救助を行うとともに、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)」に基づき、任意の相互救助システムである日本の船位通報制度(JASREP)を米国の船位通報制度(AMVER)と連携して運用し、効率的で効果的な海難救助に努めています(平成26年JASREP参加船舶2,575隻)。


今後の取組み

海上保安庁では、引き続き、海難情報の早期入手・初動対応までの時間短縮に努めるとともに、救助・救急体制の充実強化、救助・救急能力の向上や、他機関との連携・協力体制の充実を図っていきます。

洋上救急累積800件達成
洋上救急累積800件達成(イメージ)

洋上救急制度とは、洋上の船舶上で傷病者が発生し、医師による緊急の加療が必要な場合に、医師等を海上保安庁の巡視船艇・航空機等により急送するとともに、傷病者を巡視船艇・航空機等に引き取り、医師の加療を行いつつ、陸上の病院に搬送する、世界唯一の先駆的な制度で、公益社団法人日本水難救済会が実施している事業です。

平成26年9月22日、フィリピン東方沖を名古屋に向けて航行中のタンカーから第十一管区海上保安本部に対し、洋上救急の要請があり、関係機関と連携し、無事、陸上の病院に負傷者を搬送しました。本事案により「洋上救急」の発動件数が、昭和60年10月1日の制度発足以来約29年間で累積800件に達しました。800件までの間に、海上保安庁からは巡視船艇572隻、航空機996機及び特殊救難隊員等565名が出動しています。


洋上救急制度イメージ
洋上救急制度イメージ