世界の海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡を含む東南アジア周辺海域やソマリア周辺海域において、海賊・海上武装強盗(以下、「海賊」という。)による被害が発生しており、貿易の大半を海上輸送に依存する我が国にとって、海賊は大きな脅威となっています。
ソマリア周辺海域では、重火器を所持した海賊が乗組員を人質に取り身代金を取るといった凶悪な事案が発生しているほか、東南アジア周辺海域でも、海賊事案が増加する傾向にあります。こういった海賊事案への対応は、海上における人命・財産の保護、治安の維持を任務とする海上保安庁が一義的な責務を有しており、それぞれの海上における周辺諸国の状況を見ながら、海賊対策を行っています。
1 ソマリア周辺海域の海賊対策
ソマリア周辺海域における海賊被害は平成22年には219件と前年に比べ増加、犯罪の態様も凶悪化しており、アデン湾において軍艦の護衛を受けていた商船が襲撃を受けた事案や、日本の海運会社が運航する商船が海賊にハイジャックされ、海賊の母船として使用される事案が発生しています。また、各国の軍艦等の警備が厳重なアデン湾では被害件数が減少している一方、警備が手薄とされる西インド洋の広大な海域まで被害が拡大しており、より効果的な海賊対策が急務となっています。
我が国は、平成21年7月に施行された「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」に基づき、海上自衛隊の護衛艦による民間船舶の護衛等を行っていますが、海上保安庁においては、海賊行為があった場合の逮捕、取調べ等の司法警察活動を行うため、当該護衛艦に海上保安官8名が同乗しています。
また、ソマリア周辺海域沿岸国の海上法執行能力の向上が重要であるとの認識の下、海上保安庁では、平成22年10月には、当該沿岸国の海上保安機関職員を招へいして「ソマリア周辺海域沿岸国の海上法執行能力向上のための会合」を開催、10月〜11月には、JICA「海上犯罪取締り研修」を実施しました。さらに、平成22年4月から国際海事機関(IMO)が主導するソマリア海賊対策プロジェクトチームへ職員を派遣するなど、当該沿岸国の海上法執行能力向上のために積極的な取組みを行っています。
2 東南アジア周辺海域の海賊対策
東南アジア周辺海域における海賊被害は、平成15年以降、減少傾向にありましたが、平成22年には70件(IMB統計照会中)となっており、再び増加に転じています。特に南シナ海及びインドネシアでの件数が急増しており、当該海域の海賊問題についても引続き対策が必要な状況です。
海上保安庁では、当該海域の海賊対策として、平成22年9月には、タイに巡視船「しきしま」を派遣し、海賊事案に関する情報交換のほか、事案発生時における情報伝達、被害船の捜索、海賊の制圧訓練等を内容とする連携訓練及び当該海上保安機関の職員を対象とした乗船研修等を行っており、また、日本とタイ往復の間、往路では、日本関係船舶が海賊の襲撃を受けた場合を想定し、官民の関係機関・団体との間で実働訓練を、復路では付近航行中の日本関係船舶との間で情報伝達訓練を実施しました。
ガルフV ジブチ共和国と初の海賊移送訓練
2月18日から22日の間、ガルフV「うみわし」の慣熟飛行及び移送訓練を実施しました。海賊移送訓練は、昨年12月に日本・ジブチ間で逮捕した海賊の移送に関する取決めについて署名されたことを受け、今回初めて行われたものです。
また、ガルフVの慣熟飛行には、海上保安庁警備救難部長が同乗の上、ジブチを訪問し海賊移送訓練を視察するとともに、政府要人との間で海賊対策に関する意見交換を行いました。
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▲ジブチ設備・運輸大臣との意見交換 |
▲ガルフVと訓練参加者 |
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▲護衛艦上における海賊身柄移送訓練(ジブチ港) |
海上保安庁では、今後も巡視船の派遣等による沿岸国海上保安機関の人材育成支援、ReCAAP・ISC(アジア海賊対策地域協力協定に基づく情報共有センター)と連携した海賊対策セミナーの実施等、東南アジア周辺海域における海賊対策を推進していきます。
また、ソマリア周辺海域の海賊対策については、引き続き護衛艦への海上保安官の同乗のほか、沿岸国海上保安機関の職員を招へいしての研修、セミナーの実施等、東南アジアでの経験を生かし、当該機関の人材育成支援に積極的に取り組んでいきます。