海上保安レポート 2011

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 新たな海洋立国に向かって


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 領海等を守る

3 生命を救う

4 青い海を護る

5 災害に備える

6 海を識る

7 交通の安全を守る

8 海を繋ぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


おわりに

特集 新たな海洋立国に向かって > II 日本の「海」を守る > 1.尖閣諸島をめぐる情勢
特集 新たな海洋立国に向かって
II 日本の「海」を守る
緊張が高まる日本の「海」厳しい状況の中で、日本の「海」を守っています。

我が国の広大かつ豊かな「海」において、資源探査・開発、海洋の利用等の海洋施策の推進が行われる一方、我が国の周辺国においても、海洋進出の動きが活発化しています。

また、我が国は、北方領土及び竹島に係る領土問題、尖閣諸島に係る中国等による領有権主張問題等を抱えています。

さらに、領海の基線から200海里まで設定できる排他的経済水域については、我が国と隣接しているロシア、中国、韓国との距離が400海里に満たないため、お互いの管轄海域を協議して決める必要がありますが、各国間の合意が得られず未だに境界線は定まっていません。

このような状況の中、昨年、尖閣諸島周辺の我が国領海内で、中国漁船が当庁の巡視船に衝突してくる事案が発生するなど、我が国周辺海域では緊張が高まっています。

海上保安庁では、我が国の領海排他的経済水域を航行する外国船舶に対して、国際法等の様々な制約を受けながら、厳しい気象・海象条件の下で、日夜を問わず監視警戒を行い、日本の「海」を守っています。



国際法の制約

領海、接続水域、排他的経済水域公海といった海域ごとに国際法上の地位が異なるため、海上保安庁が外国船舶に対して行使できる権限の内容や態様は一様ではありません。

領海では、外国船舶に対して「無害通航権」が与えられており、沿岸国は、原則として外国船舶の無害通航を妨害してはいけないことになっています。また、外国の軍艦等の外国の公船に対する権限行使についても、大きな制約があります。

このように、外国船舶を相手に業務を行う現場の海上保安官は、常に難しい判断が求められています。


1.尖閣諸島をめぐる情勢

尖閣諸島(沖縄県)は、魚釣島、南小島、北小島、久場島、大正島の5つの島と3つの岩礁からなり、一番大きな魚釣島を起点とすると、石垣島まで約170km、沖縄本島まで約410km、台湾まで約170km、中国大陸まで約330kmの距離にあります。

我が国は、明治18年以降、再三にわたって尖閣諸島の現地調査を行い、単に無人島であるのみならず、中国(当時清国)の支配が及んでいないことを慎重に確認した上、明治28年1月14日、閣議決定により同諸島を正式に我が国の領土に編入しました。

戦後は、サン・フランシスコ平和条約に基づき、尖閣諸島は南西諸島の一部として米国の施政権下に置かれ、昭和47年5月、沖縄復帰とともに我が国に返還され現在に至っています。


■尖閣諸島位置関係図
尖閣諸島位置関係図

魚釣島には、海上保安庁が航路標識法に基づき所管する魚釣島灯台があります。

同灯台は、昭和63年に日本の政治団体が設置したもので、これを譲渡された漁業者から所有権放棄の意思が示されたため、民法の規定により国庫帰属財産となり、政府の判断として、平成17年2月から海上保安庁が保守・管理しています。

魚釣島灯台
▲魚釣島灯台
(1)外国漁船の活動
外国漁船への対応
▲外国漁船への対応

平成22年8月中旬以降、尖閣諸島周辺の領海付近において、多数の中国漁船の操業が確認されるようになりました。

海上保安庁では、巡視船艇・航空機により昼夜を分かたず、外国漁船に対する厳正な監視・取締りを行っています。

(2)中国漁業監視船への対応
尖閣諸島周辺海域を「はいかい」する中国漁業監視船(手前)と監視警戒する巡視船
▲尖閣諸島周辺海域を「はいかい」する中国漁業監視船(手前)と監視警戒する巡視船

一方、平成22年9月以降、尖閣諸島周辺海域を「はいかい」する中国の漁業監視船が複数回確認されています。

海上保安庁では、巡視船及び航空機により監視警戒を実施するとともに、我が国領海内に侵入しないよう無線等で警告した結果、領海内への侵入は発生していません。

今後も、情勢に応じて巡視船艇・航空機を増強配備するなど体制を強化し、厳正かつ適切に警備を実施していきます。

■中国漁業監視船の尖閣諸島周辺海域への接近事案
(平成22年9月〜平成23年3月)
尖中国漁業監視船(手前)を監視警戒中の巡視船
中国漁業監視船の尖閣諸島周辺海域への接近事案(平成22年9月〜平成23年3月)
  ▲尖中国漁業監視船(手前)を監視警戒中の巡視船

中国漁船公務執行妨害等被疑事件
◆ 「よなくに」への衝突
閩晋漁(ミンシンリョウ)5179
▲閩晋漁(ミンシンリョウ)5179

平成22年9月7日、尖閣諸島周辺海域をしょう戒中の巡視船「よなくに」が、領海内で操業中の中国トロール漁船「閩晋漁(ミンシンリョウ)5179」を発見し、領海外へ退去するよう警告を行いました。

当該漁船は揚網後に航行を開始し、午前10時15分、久場島の北北西約12kmの我が国領海内において、自船を「よなくに」に衝突させました。


▼ 停船命令、追跡

当該漁船は衝突後も航走を続けたため、巡視船「みずき」「はてるま」が停船命令を実施し、追跡を開始しました。


▼ 「みずき」への衝突

午前10時56分、久場島の北北西約15kmの我が国領海内において、当該漁船は、突然左に舵を切り、追跡中の「みずき」に衝突させました。


▼ 強行接舷、停船

「みずき」「はてるま」により、進路規制、放水規制を段階的に実施しましたが、なおも停船しないため、久場島の北北西約27kmの我が国領海外において、「みずき」が強行接舷し、海上保安官6名が乗り移って当該漁船を停船させました。


◆ 船長逮捕

8日午前2時3分、魚釣島西端から約8.7kmの我が国領海内において、当該漁船船長を「みずき」乗組員に対する公務執行妨害の容疑で逮捕し、9日午前10時41分、那覇地方検察庁石垣支部に身柄付き送致し、平成23年1月20日、外国人漁業の規制に関する法律違反(我が国領海内における操業)及び「よなくに」乗組員への公務執行妨害の容疑で追送致しました。(平成22年9月25日、同人は処分保留のまま釈放され、平成23年1月21日に不起訴(起訴猶予)処分となりました。)

巡視船みずき
▲巡視船みずき
■中国漁船公務執行妨害等被疑事件関係図
【平成22年9月7日・8日】
中国漁船公務執行妨害等被疑事件関係図【平成22年9月7日・8日】
(3)領有権主張活動
領有権主張活動船舶
▲領有権主張活動船舶

尖閣諸島は我が国固有の領土です。このことは、歴史的にも国際法上も疑いなく、現に我が国はこれを有効に支配しており、同諸島をめぐり解決すべき領有権の問題は、そもそも存在していません。

しかしながら、東シナ海の大陸棚に豊富な石油資源が埋蔵されている可能性があることが指摘された昭和46年以降、中国、台湾は同諸島の領有権を主張し始めました。

平成8年7月に国連海洋法条約が我が国について発効し、排他的経済水域が設定されたことに伴い、同諸島周辺における中国・台湾漁船の漁業活動に影響が生じたことに対する不満や、同諸島の北小島に日本の政治団体が灯台を設置したことを契機に、中国や台湾において「保釣活動」と呼ばれる領有権主張活動が活発になりました。同時期以降、領有権を主張する活動家が乗船した船舶が尖閣諸島周辺の領海に接近し、または侵入するという事案が続発しており、平成22年9月にも同諸島に接近する事案が発生しています。


■これまでの主な領有権主張活動
これまでの主な領有権主張活動

平成22年9月14日、尖閣諸島の領有権を主張する台湾活動家2名が乗船する「感恩(カンエン)99号」が、尖閣諸島周辺の我が国接続水域に入域しました。

海上保安庁では、巡視船等により我が国領海内へ入域しないよう警告等を実施したところ、領海に入域せず反転し、接続水域から退却しました。

なお、「感恩(カンエン)99号」には、台湾巡防署の巡視船が随伴していました。

「感恩(カンエン)99号」を監視する巡視艇
▲「感恩(カンエン)99号」を監視する巡視艇