▲引き上げられたカンボジア籍貨物船「BLUE OCEAN」 |
台風18号の概要
8月28日午前9時頃にマーシャル諸島近海で発生した台風18号は、我が国の南海上を北西に進んで9月5日に大型で非常に強い勢力となり沖縄本島を通過しました。その後東シナ海を北上し進路を北東に変えて、7日午前9時30分頃には、長崎市に上陸し九州北部を横断、同日夕方には日本海に抜け、速度を上げつつ北東に進みました。そして暴風域を伴ったまま8日朝には北海道の西方海上を北上し、午後3時頃に宗谷海峡で温帯低気圧になりました。台風18号により、日本各地で最大瞬間風速50m/s以上の記録的な風や、九州の一部での大雨、瀬戸内海から北日本にかけて高潮を観測し、40名以上の死者・行方不明者、900棟以上の家屋の全半壊、8,000棟以上の床下床上浸水など各地に甚大な被害をもたらしました。
台風18号は、海上においても猛威を振るい、第六管区海上保安本部の水域において、貨物船の座礁海難及び転覆海難が発生したほか、全国で5件の大型船の座礁海難が発生しました。これを受けて、本庁に台風18号海難対策室、広島海上保安部(広島県)及び高知海上保安部(高知県)にそれぞれ海難対策本部を設置し、巡視船艇17隻、航空機10機、特殊救難隊、機動防除隊が出動して救助と流出油防除にあたりました。
第六管区海上保安本部の担任水域内である広島県廿日市港では、再三の避難勧告に従わず着岸を続けたカンボジア籍貨物船「BLUE OCEAN」(約3,200トン、乗組員18名)が転覆し、乗組員の救助のため特殊救難隊が現場へ急行し、他の機関の救助勢力と協力して乗組員の救助にあたったほか、破損した船体から燃料油の重油が排出されたことから、機動防除隊が防除活動に関する指導等を行うとともに、船主から依頼を受けた独立行政法人海上災害防止センターが防除活動にあたりました。官民の協力により迅速、的確な防除活動が行われたことから、油濁による被害は局限化することができました。
また、第五管区海上保安本部の担任水域内である高知県桂浜ではパナマ籍貨物船「FUKUOHSIN No.7」(約14,000トン、乗組員21名)が座礁し、海難情報を入手した巡視船「とさ」の潜水士を含む海上保安官5名が陸路現場に急行し、陸上から現場及び船体の状況の確認を行いました。F号は機関室への浸水があり、現場付近の強い雨、南の風30m/s、風浪5mという気象・海象の下では船体が激しく動揺して転覆の可能性があり、船長からの救助要請を得て、現場に急行していた海上保安官5名により直ちに救助活動を開始しました。
現場には、当該5名しかいませんでしたが、吹きつける暴風により海上は荒天模様で海からの救助もヘリコプターからの救助も不可能であったことから、潜水士1名が他の4名の陸上からのサポートを受けつつ海岸から約30メートル離れたF号まで泳いで到達してロープを渡しました。F号に到着した潜水士は、パニック直前の乗組員を落ち着かせたうえで、そのうち3名を渡されたロープと救助器材を巧みに使用して救助し、また、天候の回復を待って現場上空へ到着した高知県消防防災ヘリと協力して残る乗組員18名全員を救助しました。
▲桂浜に座礁したパナマ籍貨物船FUKUOHSIN No.7」 |
台風18号の波紋
台風18号の影響で、海難により40隻以上の船舶、250名以上の乗船者が被害を受けました。このうち、死亡・行方不明者数は26名に達しており、これだけで、年間の死亡・行方不明者数の約17%に相当します。台風18号による海難の特徴としては、死亡・行方不明者のすべてが外国籍船の外国人船員であったことが挙げられます。一般的に外国船舶については、日本周辺海域の気象・海象等に不案内で必要な対策が執られていない場合も多く、これが今回の大惨事につながった原因の一つであると考えられます。
このような結果を踏まえ、海上保安庁では、さらに、安全航行のための情報等を内容とする外国船舶用パンフレットの作成配布、外国船舶の安全確保のための周知・指導を徹底していきます。そのほか、台風対策として、特定港等の主要な港においては、関係官庁、関係団体等をメンバーとする「台風対策委員会」を設置し、台風接近に伴う避難勧告の実施時期、避難方法の検討等の台風による災害を防止するための活動を行っています。