海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難

1 自然災害への対応

2 海保の救助要員


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
特集2 > 海保の救難 > 1 自然災害への対応 > 2 台風23号
台風23号
台風23号の概要
 10月13日午前9時頃にグァム島近海で発生した台風23号は、北西に進みながら超大型で強い勢力に発達し、18日に沖縄の南海上を北上しました。19日には進路を北北東に変えて沖縄本島から奄美大島沿いに進み、広い暴風域を維持したまま20日午後1時頃、高知県土佐清水市付近に上陸しました。同日午後6時頃には大阪府泉佐野市に再上陸し、近畿、中部、関東地方を通過して、21日午前6時頃に鹿島灘に抜け、同日午前9時頃、関東の東海上で温帯低気圧になりました。台風23号は暴風域が広かったのが特徴で、また本州付近に停滞していた前線の活動が活発になったため、西日本から東北地方の広い範囲で暴風、大雨、高波が発生し、90名以上の死者・行方不明者数、8,000棟以上の家屋の全半壊、55,000棟以上の床下床上浸水など甚大な被害をもたらしました。

横転したロシア籍貨客船「ANTONIA NEZHDANOVA」
▲横転したロシア籍貨客船「ANTONIA NEZHDANOVA」

座礁した練習船「海王丸 座礁した練習船「海王丸
▲座礁した練習船「海王丸

台風23号への対応
 広い暴風域の影響により、舞鶴市で豪雨のためにより冠水した道路上に観光バスが取り残されたことから、市消防局から要請を受けた美保航空基地所属のヘリコプターが出動し、乗客の吊り上げ救助を実施しました。
 また、第九管区海上保安本部の担任水域である伏木富山港では、着岸中のロシア籍貨客船が乗員・乗客の避難後に岸壁に横転した海難及び独立行政法人航海訓練所の練習船「海王丸」の座礁海難が発生したため、海上保安庁及び第九管区海上保安本部では「台風23号に伴う伏木富山港集団海難対策本部」を設置しました。
 練習船「海王丸」(約2,500トン、乗組員・実習生167名)は、伏木富山港沖で錨泊して台風を避けようとしていたところ、折からの強風により走錨し、防波堤付近に座礁してセカンドデッキまで浸水したものです。救助要請を得 て、巡視船艇9隻、航空機8機、特殊救難隊、機動救難士や機動防除隊が出動 して直ちに救助と排出油防除にあたりました。
 現場付近は強い雨に加え、25m/s以上の風と、5m以上の波浪という荒天の ため巡視船艇は該船に近付くことすらできず、さらに荒天による強風・視界 低下と帆船の甲板上の障害物により航空機による救助活動も困難が予想され ました。新潟航空基地所属のヘリコプターが特殊救難隊を搭載し、現場に到 着した際に、台風23号の余波に伴う大時化の中、5mを超え る大波をかぶり海水に洗われている海王丸の甲板上で、必 死に身体を確保している乗組員3名を視認しました。特殊 救難隊員は直ちにこの乗組員の救助を行う必要があると判 断し、前部マストの見張り台へ降下しましたが、高さ約40m に及ぶマストや甲板上全域に張り巡らされた帆布用のロー プなど、障害物が極めて多く降下スペースが殆どない帆船 上への降下は困難なものでしたが、卓越した降下技術をもって、甲板上にいた3名のうち2名をヘリコプターへの吊り 上げにより救助し、残り1名も安全な場所に避難させました。
特殊救難隊による救助
▲特殊救難隊による救助
 その後、巡視船及びタグボート等を接舷させて海上保安庁の潜水士が海王丸に移乗しようと試みましたが、現場周辺の高い波浪と海王丸甲板上に打ち上がる波のため救助はできず、特殊救難隊員が船内の一室に集まり救助を待っていた乗組員等を励まし続け、天候の回復を待ちました。 天候が回復し、座礁現場付近の防波堤に接近することが可能になってから、海王丸上の特殊救難隊と協力して船体と防波堤との間にロープを渡し、ブリーチェスブイ(簡易ゴンドラ)を設置して残る乗組員等の救助を開始しまし た。また、海上模様を考慮しつつゴムボートによる救助を行い乗組員・実習生167名全員を無事救助しました。
 また、座礁により生じた破口から燃料油である重油が排出されたことから、機動防除隊が防除活動に関する指導等を行うとともに、船主から依頼を受けた独立行政法人海上災害防止センターが防除活動にあたりました。台風18号の際と同様、官民が協力して迅速、的確な防除活動にあたったことから、油濁による被害を局限化することができました。