海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 > 治安の確保 > 6 テロ対策
テロ対策

 平成13年9月の米国同時多発テロ事件以降、平成16年2月、フィリピン・マニラ沖で発生したスーパーフェリーの爆発火災テロや、同年3月にスペイン・マドリッドで発生した同時多発列車爆破テロ等、イスラム系過激派の犯行と思われる世界的なテロ事件が多発しています。
 我が国に対するテロの脅威については、同年5月オサマ・ビンラディンのものとされる肉声で我が国をテロの標的とする声明が出されたほか、ICPO(国際刑事警察機構)*1により国際指名手配されていたアル・カーイダ関係者のフランス人が、他人名義の偽造旅券を用いて、我が国に不法入国を繰り返していた事実が発覚しました。さらに10月にはイラクで邦人が誘拐殺害されるという痛ましい事件も発生しています。このように我が国を巡るテロ情勢は依然として予断を許さない状況であり、国民の安全な生活を脅かす喫緊の問題となっています。
 こうした国際テロ情勢に応じ、海上保安庁では、テロから我が国の人命や財産を守り、また我が国の海上における公共の安全確保と秩序維持のために、「特集1」で述べた施策のほか、各種のテロ対策を全国的に展開しています。

目 標

 テロ対策を行うにあたっての目標は、海上でのテロを未然に防止するとともに、海上における公共の安全確保と秩序維持を的確に実施することです。そのためには、テロ関連の情報収集体制の強化を図り、収集した情報に的確な分析・評価を加え各種テロ対策等に活用することが必要となります。さらにヒト・モノが出入りする「国境」である国際港湾では、テロに対する水際での対策がとりわけ重要です。このため港湾管理者、警察、入管、税関などや港湾で働く民間業者との連携強化を図り、水際での間隙のない体制を構築し、関係機関等との連携強化を推進していくことが必要となります。
 前述した通り、我が国を取り巻くテロ情勢は予断を許さない状況にあります。我が国の場合、輸入されるエネルギー資源のほとんどが、大型タンカー等による海上輸送にゆだねられており、また臨海部には原子力発電所、石油備蓄基地、米軍施設といった重要施設が多数立地しています。これらの施設等に対するテロは、我が国の健全な経済活動とその発展を阻害するものであり、絶対に許すことができません。
 このため海上保安庁では、巡視船艇・航空機により、海上におけるテロに備えた警備を行うとともに、テロ関連情報の収集体制の強化や、関係機関との連携の強化を推進し、海上におけるテロの未然防止と、公共の安全確保と秩序維持を目指します。

平成16年の状況

 海上保安庁では、特集1で述べたテロ対策のほか、平成13年9月に発生した米国同時多発テロ事件を契機に、本庁に「海上保安庁国際テロ警備本部」を設置し、国際テロ情勢に応じた各種テロ対策の検討や、テロ発生時の迅速な指揮体制を確立するとともに、テロ関連情報収集や関係機関との連携強化を図っています。また海上におけるテロの未然防止として、臨海部の原子力発電所、石油備蓄基地、米軍施設などの重要施設に対する巡視船艇・航空機による警戒を行い警備強化を図っています。特に原子力発電所においては、現場で警察と毎日情報交換を行うとともに事案発生時に的確に対応できるよう共同訓練を実施しています。
 また、原子力関連施設等に対するテロの未然防止対策について、政府は、当該施設等に対する設計基礎脅威(DBT)*2を導入し、核物質防護規定の遵守状況を監視するための「核物質防護検査制度」の創設等を内容とする原子炉等規制法の改正等の法制度の整備を進めています。海上保安庁は、原子力関連施設等の想定脅威や、この脅威をもとにした当該施設における核物質防護規定の策定等に対し、警察機関として、特に海からの脅威について、専門的知見を有する立場からこの検討に参画しています。
 このほか、海事関係者などに対しても不審船・不審物への注意や自主警備強化の要請、不審情報の提供依頼を行い、さらに、ゴールデンウィーク等の繁忙期にあわせ、国内の主要航路を航行する旅客船への警乗*3を実施しました。また、海賊対策の一環として、東南アジア周辺海域への巡視船の派遣にあわせてテロにも備えたしょう戒を実施し、我が国関係船舶の安全確保を図っています。
 このほか、外国艦船等の我が国への寄港や核物質の海上輸送に際し、海上からのテロや海上紛争を未然に防止するための警備を実施しました。また、皇族方の行幸啓等に際しても、警衛・警護を実施しました。
 テロ関連情報収集については、本庁警備救難部警備課情報調査室等の設置など、情報調査体制を強化し、収集した情報の的確な分析・評価体制を構築することで、各種テロ対策への活用を図っています。また関係機関等との連携強化については、港湾危機管理(担当)官*4を中心に関係機関等との情報連絡、警戒、検査等の強化についての連携を確認するなど、港湾における危機管理の調整業務を実施し、関係機関等との間隙のない水際対策や連携強化を推進しています。
 こうした各種テロ対策の結果、平成16年においては、海上におけるテロ発生は皆無でした。このほか、各種事案に対する警備等を的確に実施した結果、海上デモ等による暴力行為等違法行為の発生を未然に防止しました。

今後の取組み

 海上保安庁では、各種テロ対策を的確に実施するため、全国に警備実施強化巡視船を配置し、他の巡視船艇・航空機と警備実施訓練等を行い対処能力の向上を図るとともに、巡視船艇・航空機の即応体制の確保など、警備実施体制の強化を引き続き努めていきます。また、爆発物の使用を含む船舶に対するテロ、ハイジャック、生物テロなど高度な知識・技術を要求される事案に対しては、特別な訓練や研修を受けたテロ対処部隊を投入し万全を期していきます。
 さらに、今後とも国内外のテロ情勢に応じた各種テロ対策の見直しや、必要な装備・資器材等の整備及び現場要員の確保を推進し、我が国の人命・財産を守りテロの未然防止に万全を尽くしていきます。