海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 > 治安の確保 > 3 海上環境事犯の摘発
海上環境事犯の摘発

 海域への廃棄物の不法投棄や油、汚水の不法排出などは、海洋環境への悪影響や漁業被害のみならず、沿岸域における生活環境の悪化や水産資源の汚染による人の健康への深刻な悪影響など、我々の生活への直接的な被害が発生することも懸念されます。
 また、最近では、暴力団などが活動資金獲得のために廃棄物の不法投棄に関与する事例も発覚していることから、海上保安庁では生活環境の保全のほか、安全で安心できる社会を維持する観点からも、不法投棄事犯への徹底した監視取締りを実施しています。

目 標

 最近の廃棄物処理に関する法規制の強化や環境事犯に対する取締りの強化に伴い、これまで以上に不法投棄などの手口が悪質・巧妙化し、環境事犯が潜在化していく傾向があります。
 さらに暴力団や悪質業者によって行われる組織的な犯罪が、広域にまたがって行われる可能性も高いことから、海上保安庁では、関係機関と連携を強化し、これら悪質・巧妙化する潜在事犯の摘発に努めていきます。

平成16年の状況

 平成16年の海上環境関係法令違反の送致件数は454件で、前年の515件に比べ61件(約12%)減少しました。
 海上環境関係法令違反の送致件数の減少は、不正軽油の生成に伴って発生する有害な硫酸ピッチ*2やその他の廃棄物不法投棄問題に端を発し、これらの事案に対する国民の関心が高まる中で、法令の改正により規制が強化されるとともに、海上保安庁をはじめ警察、地方自治体等による指導取締りが強化されたことも一因をなしているものと考えられることができます。
 その一方で、取締りの強化が逆に事犯の悪質化・巧妙化につながるおそれもあり、建設系廃材や硫酸ピッチなど、陸上で社会問題化している廃棄物が発覚し難い海域へ不法投棄される事犯が発生しています。最近では建設系廃材を船舶で沖合に運搬して大量に投棄したと思われる事案や廃船を沖合までえい航して故意に沈没させて投棄する事案など、犯罪が表面化しにくい沖合で不法投棄を行う悪質な事犯が発生しています。
 このような社会環境の変化に対応するため、海上保安庁は「硫酸ピッチ不法投棄に係る関係省庁の会議」への参加や自治体が設置する「廃棄物不法投棄協議会」等を通じて関係自治体、警察等関係機関との連携協力による廃棄物等の除去指導の徹底を推進しました。

事例1
■高濃度COD汚染排出水不法排出事件
 漁港内の排水溝から化学的酸素要求量(COD)に係る排出基準を超過した排出水が流れ出ているのを確認、数ヵ月にわたる内偵捜査により、同排水溝に繋がる多数の下水管をたどって排出源となっていた水産食品工場を特定し、平成16年8月9日、同社を水質汚濁防止法違反の容疑で検挙しました。

事例2
■廃船不法海中投棄事件
 「操業中に船体の一部が網に掛かった」との情報を得たことから、海底に船舶が不法投棄されている疑いで捜査に着手し、近年登録抹消された船体約100隻の処理状況を約3ヵ月にわたり粘り強く調査した結果、処理形態が不明な船舶売買及び解体業者を突き止めました。
 その後の捜査で同解体業者による不法投棄が濃厚になったことから、さらなる捜査を実施し、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律違反で検挙しました。
不法投棄されていた船舶(船底に砂利を積載)
▲不法投棄されていた船舶(船底に砂利を積載)

▼海上環境関係法令の送致件数の推移
海上環境関係法令の送致件数の推移

今後の取組み

 海上環境事犯については、引き続き厳正な監視取締りを行っていきます。特に沖合海域で行われる悪質な廃棄物や廃船などの不法投棄事犯については、潜在化する可能性が極めて高いことに加え、発見後の原状回復が困難です。そのため、関係自治体・警察等の関係機関、防犯団体や地域住民などとの連携をさらに推進する等、きめ細かい情報収集体制の構築を行うほか、巡視船艇や航空機による効果的かつ効率的な監視を実施し、不法投棄の未然防止又は早期発見による徹底した取締りに努めます。
 さらに、暴力団や悪質業者によって組織的に行われる環境事犯については、警察機関とも連携のうえ徹底的な捜査を行い、これらの撲滅を目指します。