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海賊対策
海賊問題の現状
国土交通省の調査によると、平成16年における日本関係船舶*1の海賊被害件数は、前年の12件から7件に減少し、ここ数年で最も少ない件数となりました。
IMB(国際商業会議所国際海事局)に報告された平成16年の全世界における海賊及び船舶に対する武装強盗*2(以下、単に「海賊」という)の発生件数は325件であり、過去2番目を記録した前年に比べ120件減少したものの、依然高い水準にあるといえます。
海域別に見ると、東南アジア海域での発生が最も多く、インドネシア、マラッカ・シンガポール海峡だけでも、世界全体の約4割を占めるなど、依然海賊多発海域となっています。平成17年3月には、日本籍船がマラッカ海峡において襲撃され、乗務員3名が連れ去られるという事件が発生しました。
これらの海賊事件では、依然として銃器等を使用した武装事件が多く、また、乗組員が行方不明となるシージャック事件あるいは、乗組員が誘拐される事件も発生するなど、悪質化、凶悪化しており、さらなる海賊対策が求められています。 事例
マラッカ海峡における海上武装強盗事案
平成17年3月14日、日本籍船「韋駄天(いだてん)」(498トン、日本人8名、フィリピン人6名乗組み)がマレーシア領海内のマラッカ海峡を航行中、武装集団が乗り込んだ小舟に襲撃され、日本人の船長と機関長の2名、フィリピン人乗組員1名の計3名が連れ去られるという事件が発生しました。
海上保安庁は、直ちに「海上保安庁マラッカ海峡武装強盗事案対策室」を設置するとともに、マレーシア等の沿岸国に対し被疑船舶の捜索及び情報提供を依頼しました。また、情報収集のために職員2名を現地に派遣しました。
3月20日、連れ去られた船長ら3名は、タイ南部のサトゥーン沖合で現地のタイ海上警察によって、無事保護されました。 ▼海賊の発生件
▼海域別発生状況
海賊問題の課題と取組み
我が国は、食料やエネルギーなどの資源の大部分を輸入しており、国際貿易は、我が国の経済や国民生活にとって重要な役割を果たしています。また、我が国の貿易取扱量の大半は海上輸送により行われ、このうち、アジア・中東地域と我が国との間を航行するタンカーやコンテナ船等の貨物船は、海賊事件が多発しているインドネシア海域やマラッカ・シンガポール海峡を航行しており、これらの海域の海上交通の安全確保と治安の維持は、我が国にとって極めて重要です。
海賊による被害の中には、消息不明になった船舶や積荷が、後日第三国で発見されたり、また、これらの船舶の船名、時には船籍までも変えられたりするなど、国際的なシンジケートが関与し、海賊の活動範囲が国境をまたいでいるものや、さらには、犯行グループの逃走範囲も広域化しており、これらの海賊への対応は一国のみの対応では限界があります。したがって、この問題を解決するためには、アジア地域各国の海上警察力の向上を図るとともに、各国の連携を図る必要があります。
海上保安庁では、平成12年に国際的な枠組の中で採択した「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づき、これまで各国との相互協力及び連携強化を進めてきました。また、平成16年6月には東京で「アジア海上保安機関長官級会合」を開催しました。同会合では、現下の社会情勢を踏まえ、これまで培ってきた海賊対策に係る協力関係を一層強化することに加え、海上テロ対策分野での協力関係の構築について「アジア海上セキュリティ・イニシアチブ2004」の採択についても合意し、これに基づき、海上テロへの取組みを含め、各国とのさらなる相互協力及び連携強化を進めています。
具体的には、これまでに東南アジア諸国等に巡視船・航空機を派遣し、公海上のしょう戒活動、寄港国の海上保安機関との合同訓練等を行い、国際連携の強化を図っています。
平成16年においては、タイ、フィリピン(2回)、インドに巡視船を派遣し、タイ、インドでは連携訓練を行いました。フィリピンでは国際協力機構(JICA)の「フィリピン海上保安人材育成プロジェクト」の一環であるフィリピン沿岸警備隊(PCG)等に対する海上における法令励行に関する訓練・研修の支援を行うとともに、寄港国関係機関との海賊等に関する情報交換、シージャックを想定した日本船舶等との官民による連携訓練を行いました。
また、アジア各国の海上保安機関の人材育成を図るため、海上犯罪取締り研修の実施、教育機関への留学生の受入れといった取組みを行っています。
海上保安庁では、これらの活動を通じ、アジア地域全体の海上警察力の向上に積極的に協力しています。
▲しょう戒のため出発する航空機
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