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密輸・密航対策
現在、我が国では、薬物の乱用が問題となっており、その中でもMDMA*2等錠剤型合成麻薬の若年層への乱用拡大が懸念されています。また、銃器を使用した強盗・殺人等の犯罪も続発しているほか、不法入国者を含む来日外国人による犯罪も全国的に依然として多発しており、組織化も進んでいるとされています。
これら密輸・密航に端を発していると考えられる犯罪については、我が国の治安に深刻な影響を及ぼすだけでなく、皆さんの平穏な生活をも脅かすものです。
我が国では、平成15年12月に、犯罪対策閣僚会議において、密輸・密航等の「水際における監視・取締りの推進」を含む「犯罪に強い社会の実現のための行動計画*3」をとりまとめる等、政府全体として治安回復に取り組んでいるところであり、海上保安庁でも、皆さんの安全な生活を守るため、薬物、銃器及び不法入国者等の水際阻止に取り組んでいます。
目 標
密輸・密航事犯の取締りの目標は、摘発水準の向上です。
海上保安庁では、海路による密輸・密航を水際で阻止するために、巡視船艇・航空機をより効果的に活用しながら、国内外の関係機関との連携強化等各種対策に取り組み、摘発水準の向上に努めています。
最近の密輸・密航事犯は、国内の暴力団組織の介入に加え、国際的な犯罪組織が関与し、その手口もますます巧妙化しており、これらを水際で阻止するためには、関係取締機関との連携はもとより、国民の皆さんによる密輸・密航に関する情報の提供等が必要不可欠となっています。
これらのことから、巡視船艇等の運用、関係機関との連携及び各種情報などを考慮し、総合的な判断のもと、「摘発水準の向上」に向けた効果的な対策を講じることとしています。
また、薬物・銃器事犯については、平成12年から平成16年までの摘発件数の平均は、17件となっていますが、海上保安庁では摘発水準を向上させるための具体的な目標の一つとして、平成14年から平成18年までの摘発件数の平均を22件以上とすることを掲げ、その達成に向け取り組んでいきます。
平成16年の状況
密輸事犯について
平成16年における主要な事例としては、警察及び税関と連携し、フィリピン人船員らによる覚せい剤密輸入事件を摘発した事例(トピックス7ページを参照して下さい。)や台湾漁船が洋上投棄した覚せい剤を揚収した事例(事例1)があります。さらに、海上保安庁としては初めてとなるMDMA密輸入事件を摘発した事例(事例2)もあり、平成16年の摘発件数は、前年に比べ、2件増加の19件でした。
このほか、警察及び税関と連携し、ロシア人船員による盗難自動車の不正輸出事件も摘発しています。
事例1
平成16年7月、第十一管区海上保安本部は、水産庁漁業取締船が西表島西方の領海外において、台湾漁船が洋上投棄した白色粉末入りの梱包物を回収したとの通報を受けたことから、台湾漁船の捕捉を行うとともに、回収された梱包物を確認したところ、覚せい剤約97.9kgであることが判明、梱包物を投棄した台湾漁船については、台湾当局に引き継ぎました。
▲回収された大量の覚せい剤
事例2
平成16年9月、伏木海上保安部(富山県)、警察及び税関は、伏木富山港に入港したロシア籍貨物船から不正薬物であるMDMAを密輸入しようとした在日ロシア人3名とロシア人船員1名を麻薬及び向精神薬取締法違反で逮捕し、MDMA錠剤約5,000錠を押収しました。
▼薬物事犯の摘発状況
▼銃器事犯の摘発状況
密航事犯について
平成16年においては、海上保安庁及び警察
により、船舶利用の集団密航事件を3件検挙
しました。これら3件の密航事件に関しては
警察等の関係機関と緊密な情報交換を実施し
ており、関係機関との連携強化が集団密航の
摘発・防止に効果をあげています。(事例1)
また、海上保安庁では密航にかかる情報提供
を広く一般に呼びかけており、近年、一般か
らの通報により多くの密航事件が検挙されて
います。(事例1、2参照)
事例1
平成16年6月、港湾関係者からの通報で「韓国から大阪港に入港したセメント運搬船「MORNINGSUN」号から不審者が逃走するのが発見された。」との連絡がありました。警察、税関、当庁の職員が現場へ急行し、密航者1名(韓国人男性)を不法入国容疑で逮捕、その後、密航を助長したことが判明し同船船員2名を逮捕しました。
▲回収された大量の覚せい剤
事例2
平成16年8月、港湾関係者から、航海中の貨物船で密航者3名が発見されたとの通報がありました。同船が茨城県日立港に入港したため、茨城海上保安部が事情聴取を行ったところ、日本での就労を目的とした中国人密航者であることが判明、逮捕しました。
事犯の分析
密輸事犯について
平成16年に海上保安庁が薬物の押収に関与した件数は、16件(前年比3件増加)であり、覚せい剤の押収量が大幅に増加したほか、MDMAを初めて押収しました。また、銃器等の押収に関与した件数は3件(前年比1件減少)で、けん銃1丁、実包6発を押収しました。
平成16年に海上保安庁が摘発に関与した密輸事犯の特徴としては、平成15年に摘発のなかった覚せい剤の大量押収事案の発生及び海上ルートによるMDMA密輸入事件があったことが挙げられます。
覚せい剤については、我が国で最も乱用されている薬物であり、MDMA等錠剤型合成麻薬についても、特に若年層への乱用拡大が顕著な薬物であることから、引き続き、これら不正薬物の密輸入に対する十分な警戒が必要です。
▼最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況
(2)密航事犯について
平成16年に海上保安庁及び警察が検挙した集団密航事件は3件、検挙者数は、密航者10名と、前年に比べ大幅に減少しました。
平成9年をピークに減少に転じた集団密航は、平成13年に一時的に増加したものの、全体的に見ると減少傾向にあり、平成14年から顕著となっていた小口化の傾向は、依然として継続しています。
この減少傾向の背景としては、次のような事柄があげられます。
・水際における監視強化
密航助長容疑で逮捕された船員は、日本国官憲等の取締りが厳しいことから、目立たないように少人数の密航者を運んだと申し述べており、水際監視強化による抑止効果がうかがわれます。
・外国治安機関との情報交換等による連携強化
中国、韓国等の関係機関との間で、船舶を利用した密航事件に関して、積極的な情報交換を実施し、取締りを強化しています。
・国際航海船舶及び国際港湾施設でのテロ防止対策の強化
平成16年7月1日「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」が施行されたことに伴い、国際港湾施設において、港湾施設への出入管理等の保安措置の実施やフェンス、照明等の保安設備の設置等が義務付けられ、港湾及び船舶へ出入りする者のチェック体制が強化されました。
▼船舶を利用した集団密航者の国籍別検挙状況
今後の取組み
海上保安庁では、薬物・銃器の洋上取引が行われる可能性のある海域における巡視船艇・航空機を効果的に運用した監視警戒、薬物・銃器が流出する可能性の高い地域や密航ぐ犯地域から入港してくる船舶等に対する厳重な監視及び立入検査、海事・漁業関係者をはじめ一般市民に対する広報啓発活動の推進等を通じ、犯罪の予防、効果的な取締りを行っています。
さらに、密輸・密航事犯は国境を越えてくる犯罪であることから、隣接国である中国、韓国及びロシアの海上警備機関との間で、従来から、連携強化を図っています。平成16年には、国連薬物犯罪オフィス(UNODC)*1と協力し、東京において「薬物海上取締セミナー(MADLES2004)」*2を開催し、参加したアジア各国の海上保安機関・薬物取締機関等と薬物情勢に関する情報交換等を実施、薬物密輸に対する国境を越えた海上取締体制の構築を図りました。
また、海上保安庁では、平成13年度以降、第一から第十管区海上保安本部に「国際刑事課」、第十一管区海上保安本部に「国際犯罪対策室」を、さらに、第三管区海上保安本部に国際組織犯罪を取り締まる「国際組織犯罪対策基地」を設置したところであり、情報収集・分析体制及び機動的かつ広域的な捜査活動体制の強化を図っています。
今後も、海上保安庁は、組織的・計画的に行われ、ますます巧妙化する密輸・密航事犯を水際で阻止するため、これまでの取組みを継続して実施するほか、「国際組織犯罪対策基地」を活用し、国内外の関係機関との情報交換・連携協力を強化し、積極的な取締りを推進していきます。
「薬物海上取締セミナー(MADLES2004)の開催
平成16年10月、海上保安庁は、国連薬物犯罪オフィス(UNODC)と協力して、東京において「薬物海上取締セミナー(MADLES2004)」を開催しました。
MADLES2004は、平成15年4月に国連麻薬委員会で採択された国連決議「海上における薬物不法取引の取締りのための国際協力の強化」、平成15年7月に我が国政府が決定した「薬物乱用防止新五か年戦略」に基づいて、アジアレベルでの海上における薬物不法取引に対する統一的な海上取締対策を具体化することを目的とするものです。
セミナーには、アジア15カ国、国連等の26機関(海上保安機関及び薬物取締機関等)から実務責任者クラスが参加し、各国の薬物の海上密輸状況をはじめとした情報交換、巡視船艇・航空機によるデモンストレーションを実施して海上取締りに関する技術移転を行い、薬物密輸に関する国境を越えた統一的な海上取締体制の構築を図りました。
▲オープニングセッション(長官あいさつ)
▲海上取締デモンストレーション
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