海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 > 治安の確保 > 1 悪質な国内密漁対策
悪質な国内密漁対策

 我が国の周辺海域は水産資源の豊かな海域であり、私たちは多種多様の水産物を口にすることができます。
 しかしながら、これら資源は有限なものであり、将来にわたって安定的に供給できるよう、一定のルールが定められ、計画的な採捕が行われています。
 ところが、中には利益のみを追求し、ルールを破って水産資源を捕る、いわゆる「密漁者」といわれる人々も存在します。これら密漁者の利己的な目的のための乱獲を許してしまうと、現在は容易に手に入る魚でも「幻の魚」と呼ばれ、我々が二度と口にすることができなくなる日が来るかもしれません。
 また、密漁者には暴力団関係者も少なくなく、密漁で得た不正な利益が、暴力団対策法により資金確保に窮した暴力団の重要な資金源となっていることも事実です。
 海上保安庁は、水産資源の保護のみならず、暴力団などから皆さんの安全な暮らしを守るため、 このような悪質な密漁事犯の徹底的な取締りに取り組んでいます。

目 標

 海上保安庁では、地域からの密漁取締り要請に応えるため、密漁情報の提供を呼びかけて情報収集体制を拡充するとともに、水産庁などの関係機関との連携を図りながら密漁を撲滅していきます。
 特に資金稼ぎを狙う暴力団関係者が関与する悪質な密漁事案に対しては、その根絶に向け厳格に対処し、摘発水準の向上を目指していきます。

平成16年の状況

 平成16年の密漁事犯に係る送致件数は、引き続きその摘発に力を入れた結果、1,229件と前年より19件増加しています。
 また、その根絶が喫緊の課題となっている暴力団関係者が関与する密漁事犯については、地域特性に応じた取締り手法の実践や関係機関との連携強化を推進し、特に重点的に取締りを実施した結果、その摘発は倍増しています。
 このように、国内における悪質な密漁は依然として多発しており、あわび、さざえ、かに等の高級魚介類を狙った密漁事犯は、漁業生産力の発展阻害、水産資源の枯渇を招くのみならず、莫大な犯罪収益が暴力団等の資金源となっていると考えられます。
 関係の自治体や業界団体等からも強い取締り要請がある一方で、その態様は、犯罪収益に比べて量刑が低いこともあって再犯性が高く、組織化、悪質・巧妙化の一途をたどっています。
 海上保安庁は、警察、水産庁など関係機関で構成する会合の場において、悪質・巧妙化する密漁への具体的取締り対策を推進するなど、密漁事犯の撲滅に向け積極的に取り組みました。

事例1暴力団員等による潜水器密漁事件
 
平成16年4月15日、潜水器密漁ぐ犯船を、地元漁業協同組合と連携して監視中、同組合からぐ犯船の出港情報が寄せられたため、直ちに巡視船艇を出動させ捕捉体制を敷いたところ、操業を終えて入港してきたぐ犯船を発見、乗船していた山口組傘下暴力団員1名を含む3名を漁業調整規則違反で現行犯逮捕しました。

事例2 暴力団員等によるかに密漁事件
 
暴力団が関与する、広域的かつ大がかりな毛がに密漁の風評に端緒を得て、隣接する3つの海上保安部署が連携して捜査に着手しました。平成16年11月18日、密漁船の入港水揚げの現場を急襲して、密漁グループのうち3人を漁業調整規則違反の容疑で現行犯逮捕するとともに、現場から逃走した山口組傘下暴力団員を含む2名を通常 逮捕、さらに密漁された毛がにを買い受けていた水産業者を同じく漁業調整規則違反の容疑で検挙しました。これら容疑者グループは、密漁により数千万円もの利益を得ていたということが判明しています。
逃走する密漁船
▲逃走する密漁船

今後の取組み

 海上保安庁では、航空機の活用等による新しい取締り手法の研究や被疑船舶を割り出すための現場鑑識能力を強化することにより、 悪質・巧妙化する密漁に対応していきます。
 また、今後は、多発している暴力団等による悪質な密漁の根絶に向け、警察や水産庁等の他の取締機関との合同パトロール、港湾管 理者による不法係留船対策等の施策を有機的に連携させ、「密漁船が活動し難い環境」を醸成する等、地域の特性に応じた総合的な密漁対策を推進するとともに、関係機関や防犯団体等との連携強化についても引き続き積極的に行っていきます。

▼密漁事犯の推移
密漁事犯の推移