海上保安庁では、海上の安全確保、海洋権益の確保、海洋資源の開発・利用といった様々な目的のために海洋調査を実施しています。特に、近年では、我が国の管轄海域や新たな海洋資源の開発・利用等への関心が高まる中、海洋権益確保の基礎となる海洋調査が重要となっています。
海底地形調査 |
四面環海の我が国にとって、領海や排他的経済水域(EEZ)等の海洋権益を確保することは極めて重要であり、その基礎となる海洋情報を整備することは不可欠です。海上保安庁では、測量船に搭載されたマルチビーム測深機や最新の調査機器である自律型潜水調査機器(AUV)等により、東シナ海を重点的に海底地形や地殻構造等の調査を推進するとともに、航空機に搭載した航空レーザー測深機等により、領海やEEZの外縁の根拠となる低潮線等の調査を実施しています。
AUVによる海底地形調査では、平成26年6月に沖縄県久米島沖の水深約1400mの海底から熱水を噴出しているチムニー群を発見しました。このチムニー群は日本周辺で知られている中では最も規模が大きく、得られた成果は海洋開発等に役立つことが期待されるなど、海上保安庁の海洋調査が資源探査にも貢献しています。また、これまで海上保安庁が行ってきた海底地形調査の結果が実り、平成26年6月、モナコ公国で開催された海底地形名小委員会において、我が国が提案した23件全ての海底地形名が承認されました。
昭和58年以来、25年にわたって実施してきた大陸棚調査の成果として、平成24年4月国連大陸棚限界委員会からの勧告により、我が国の国土面積の約8割にあたる大陸棚の延長が認められました。これを受け、平成26年10月に排他的経済水域及び大陸棚に関する法律第2条第2号に基づく政令が施行され、我が国初の延長大陸棚が設定されました。(チムニーについては、「特集 V 海洋権益の確保に向けて 2 資源開発につながる海洋調査(国内最大のチムニー群の発見)」で詳しく説明していますので、ご覧ください。)
平成26年は、星の名前にちなんだ「源氏星海山」(オリオン座の恒星のリゲルの和名)や「平家星海山」(オリオン座の恒星のベテルギウスの和名)をはじめ、小説家や歌人にちなんだ「康成海山」、「白秋海山」、「啄木海山」等の海底地形名が承認されました。
海底地形名称は、源氏星や啄木等の固有名と海山や海盆等の属名で構成されています。固有名には、原則として地勢と関連する用語が用いられますが、その海底地形を発見した船や著名な個人、歴史上の人物、神話の事象、星、星座、動物等の名前を用いることも可能です。ここでは、特徴的な海底地形名称を紹介します。
- 白鳳海山(東京大学海洋研究所の調査船)
- 奈須平頂海山群(海洋地質学者 故奈須紀幸氏)
- 朱鷺断裂崖(鳥の名前)
- 織女海山、牽牛海山(星の名前【織姫と彦星】)
- 還暦海山、古希海山(長寿の祝い)
- 春の七草海山群、秋の七草海山群(春と秋の七草)
船舶の安全な航行を確保するためには、最新の情報が掲載された海図が必要です。また、海難事故発生時には、迅速・的確な救助活動を行うために漂流予測が重要となります。海上保安庁では、測量船や航空機等により海底地形の調査等を行い、海図を最新の情報に更新するとともに、測量船や海洋短波レーダー等により海潮流や水温等の観測を行い、漂流予測の精度向上を図るなど、様々な海洋調査により、海上の安全確保を支えています。
海洋調査は、海洋権益の確保や海上の安全確保といった目的のほか、海洋環境の保全や防災のためにも実施されています。
海上保安庁では、海洋環境の変化を的確に把握するため、海水や海底堆積物を採取し、汚染物質や放射性物質の調査を継続的に行っています。また、海底地殻変動観測や海底地形調査、海域火山の活動監視観測等を実施し、大規模地震発生のメカニズムや海域火山の構造等の解明に役立てています。
海洋権益の確保のため、今後も引き続き、領海や排他的経済水域(EEZ)等における海底地形や地殻構造等の調査を実施するとともに、低潮線等の調査を実施していきます。
また、水深や海潮流等最新の観測結果を海図や漂流予測へ反映させることで、より一層海上の安全確保に努めます。
さらに、海洋汚染調査や海底地殻変動観測、海域火山の監視観測等、様々な目的にあわせた海洋調査を実施することで、海洋情報の収集を行います。