海上保安レポート 2009
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はじめに


TOPICS 海上保安の一年

特集


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

領海等を守る

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

交通の安全を守る

海を繋ぐ


目指せ!海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 治安の確保 > 4. 密輸・密航対策
治安の確保
4. 密輸・密航対策
目標
 薬物・銃器の密輸入や外国人の不法入国といった事案は、我が国の治安に大変な脅威となります。このような事案は国内において薬物の乱用や銃器犯罪、不法入国者による凶悪犯罪等につながりかねないからです。また、暴力団等が密輸入や不法入国といった違法な活動を資金獲得の手段としていることも懸念されるところです。
 海上保安庁では、薬物・銃器や不法入国者の流入を水際で阻止するため、密輸・密航事犯の摘発実績の向上に努めます。
平成20年の現況
(1)密輸事犯について

平成20年の薬物事犯の摘発件数は21件であり、前年より4件減少しています。また、銃器事犯の摘発件数は1件と前年より5件減少しています。

昨今、大麻汚染の蔓延といった薬物犯罪が顕在化しており、不正薬物の取締りは喫緊の課題です。海上保安庁においては、海外からの不正薬物等の流入を防ぐため徹 底した水際対策を行いました。

このような中、平成20年11月には、関係機関と連携し、関門港に入港中の外国貨物船の機関室下部に巧妙に隠蔽された覚せい剤約300キログラムを発見、押収した事件を摘発しました。また、平成21年2月には、高知県室戸岬沖において、不審な外国漁船が、小型搭載艇を降ろし、無灯火のまま漁港防波堤に接岸させ、約120キログラムの覚せい剤を密輸しようとした事件を摘発しました。(詳しくは、TOPICS 3. 大量覚せい剤密輸事件を相次いで摘発をご覧ください。)

薬物・銃器以外の密輸事件として、平成20年6月、税関と連携して、中国人船員が中国から貨物船を使用して5,000枚を超える大量の偽造クレジットカード原板を密輸入した事犯等を摘発しました。

このほか、立入検査により居室等の船内や乗組員の着衣に巧妙に隠された大麻を発見した事犯や居室に隠されたけん銃の実包を発見した事犯等において関係者を検挙しました。


●薬物事犯の摘発状況
薬物事犯の摘発状況
(注)当庁が単独又は他機関と合同で薬物を摘発した事件の数

●銃器事犯の摘発状況
銃器事犯の摘発状況
(注1)海上保安庁が単独又は他機関と合同で銃器を押収した事件の数
(注2)模造けん銃を含む

最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況 平成20年12月31日現在
最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況 平成20年12月31日現在

偽造クレジットカード原板
▲偽造クレジットカード原板
佐賀県呼子港及び山口県宇部港における韓国人不法出入国事件
呼子港の不法出入国事件に使用された船舶
▲呼子港の不法出入国事件に使用された船舶

福岡海上保安部は、平成19年9月に韓国人密航斡旋ブローカーが高速小型船を使用し、佐賀県呼子港に不法入国者10数名を上陸させ、同時に不法滞在者12名を不法出国させた韓国人不法出入国事件につき、長期に渡る粘り強い聞き込み捜査等を行い、本件に関与した在日の韓国人ブローカー2名を割出していました。(呼子事件)

呼子事件発生から8か月後の平成20年5月、宇部海上保安署は警察から「不法入国者と同人を迎えに来たブローカーを摘発した。」旨通報を受け、その不法入国者を運搬した容疑船舶を韓国籍貨物船「EVERMASAN」と特定し、松山港内において松山海上保安部等と合同で同船の立入検査を実施しました。その結果、不法出国するために潜伏していた韓国人1名を摘発、E号乗組員7名と上記ブローカーは不法入国者だけでなく不法滞在者の不法出国をも営利の目的で手引きしていた事実が判明し、それぞれの容疑で摘発しました。(宇部事件)

そして、警察が摘発した上記ブローカーは、前述Chapter 01 治安の確保の呼子事件にも関与したブローカーであることが判明し、同人の供述から共犯であるもう1名のブローカーを摘発しました。その後の捜査により、両名は呼子事件において、営利の目的で不法入国者及び不法滞在者の不法出国を手引きしていた事実を認めました。また、同事件において不法出国した韓国人1名が韓国で改名の上、正規に入国している事実を突きとめ摘発しました。

さらに、呼子事件に関与していた国際的密航斡旋組織の韓国人首謀者を割出すことに成功し、同人をICPOに国際手配しました。


(2)密航事犯について

平成20年の船舶を利用した不法出入国事件の摘発件数は9件、摘発者数は不法入国者8名、不法入国手引者19名、不法出国者3名、不法出国手引者10名でした。前年に比べ、摘発件数は2件増加、不法入国者は10名減少、不法入国手引者は12名増加、不法出国者は3名増加、不法出国手引者は5名増加となりました。

近年の不法入国事犯の手口については、過去多発したコンテナ内への潜伏や隠し部屋等に大量の密航者を隠す手法から、高速小型船を仕立てたもの、貨物船に少人数で潜伏するもの、偽造船員手帳を利用するものへと手法が変化しています。平成20年に摘発した各事件についても同様の手口が認められ、依然として小口化・巧妙化が進んでいます。

平成20年の主な摘発事例としては、韓国人不法出入国事件で摘発した密航ブローカーが、内偵捜査中であった韓国籍貨物船による別の事件の密航ブローカーと同一人物であることが判明し、同ブローカーの摘発により両事件に関与していた国際的密航斡旋組織の首謀者を割り出し国際手配した事例があります。また、かねてから噂のあったロシアルートによるイラン人不法入国者を摘発した事例や、偽造船員手帳を所持していた中国人船員を摘発した事例等があります。

不法出入国事犯の多くは、船員が密航斡旋ブローカーと協力し、営利の目的で不法入国者や不法出国者を手引きする悪質なものとなっています。


●船舶利用の不法出入国事件摘発状況
船舶利用の不法出入国事件摘発状況

●船舶利用の不法出入国者国籍別摘発状況
船舶利用の不法出入国者国籍別摘発状況
今後の取組み
密航報酬を示す船員(手引者)
▲密航報酬を示す船員(手引者)

薬物・銃器等の洋上取引や密航者の受渡しが行われる可能性のある海域において、巡視船艇・航空機による監視・警戒を重点的に実施していきます。また、薬物・銃器等が流出したり密航者が乗船したりする蓋然性が高い地域から来航する船舶に対して、厳重な監視及び立入検査を実施していきます。

さらに、密輸・密航事犯等に対する専従捜査組織である国際組織犯罪対策基地職員を中心に海外関係機関との連携を強化するとともに、国内関係機関との情報交換や合同捜査等を的確に実施していきます。

このほか、海事・漁業関係者をはじめ国民に対する広報啓発活動の推進等を通じ、地元住民との協力関係の構築を推進していきます。