海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

1 領海警備と海洋権益

2 テロ未然防止のための取組み

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
特集1 > 海洋権益の保全とテロ対策 > 2 テロ未然防止のための取組み > 1 改正SOLAS条約への対応
改正SOLAS条約への対応
国際船舶に対するテロ対策の必要性
▼テロ対策訓練
テロ対策訓練
テロ対策訓練
テロ対策訓練
テロ対策訓練
 港湾は、海外から人・物が我が国に入ってくる玄関口であり、様々な船舶が入港します。これら船舶の中には、今までにも密航や密輸のような違法行為に関与した船舶があったように、国際テロ組織が関与する可能性も否定できず、また、昨今ではこの可能性が高まっています。
 実際に平成13年9月の米国同時多発テロ事件以降に、船舶や港湾施設を標的としたテロ事件が発生しています。平成14年10月、イエメン南部アデン湾においてフランス籍大型石油タンカー「ランブール」に対し爆薬を積んだ小型船によるテロ攻撃事件が発生し、「ランブール」が積載していた量の4分の1にあたる約9万バレルもの原油が流出しました。また、平成16年4月、イラクからのタンカールートにあたるイラク南部バスラ沖で、爆薬を積んだボート3隻が2ヵ所の石油輸出ターミナルに接近し、爆発しました。積み出し施設やタンカーなどに被害はありませんでしたが、接近を阻止しようとした米軍の兵士2名が死亡、4名が負傷しました。両事件ともに、国際テロ組織アル・カーイダ及びその関係組織から犯行声明が出されたことから、船舶や港湾施設が国際テロ組織の攻撃の対象となっていることが明らかになりました。
 今後も、国際テロ組織が、船舶自体を武器として使用する事案のほか、船舶から陸上施設又は他の船舶に対し攻撃を加える事案、武器や大量破壊兵器関連物資等を密輸入する事案、テロリストを密入国させる事案などの発生が危惧されるところです。
 こうした事態を防止するためには、海外から寄港する船舶に対して、テロリストとの関連性等を十分に見極め、危険性が認められる場合には入港を禁止するなどの強い措置をとることにより、我が国の安全を確保する必要があります。


SOLAS条約改正の経緯
 米国同時多発テロ事件の発生を受け、米国は海事分野における国際的な保安対策の強化を早急に検討するため、国連の専門機関の一つである国際海事機関(IMO)*1に強く働きかけ、平成13年の第22回IMO総会において、海事分野における保安対策の強化の提唱を行いました。
 IMOの条約に、タイタニック号の遭難事故*2を契機に制定され、船舶の安全性を確保するための要件等を規定している「1974年の海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)」*3があります。IMOにおける議論の結果、この保安対策の強化についてもSOLAS条約で規定すべきものと整理されました。
 これを受け、SOLAS条約附属書を改正する検討がなされましたが、海上安全委員会(MSC)*4等における議論を経て、わずか10ヵ月で最終的にその成果がまとめられ、平成14年12月SOLAS条約締約国会議においてSOLAS条約の改正(改正SOLAS条約)が採択され、平成16年7月1日に発効することとなりました。

国際船舶・港湾保安法
 改正SOLAS条約の発効に備え、国土交通省は、平成16年第159回国会に、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律案」を提出し、4月7日に成立しました。
 この法律には、<1>国際航海船舶の保安の確保、<2>国際港湾施設の保安の確保、<3>国際航海船舶の入港に係る規則、の3つの分野においてテロ対策のための措置を規定しており、海上保安庁では<3>国際航海船舶の入港に係る規則(第44条、第45条)を担当しています。

第44条(船舶保安情報)
 日本船舶・外国船舶の別、船舶の大小、船種等にかかわらず、外国から日本に入港しようとするすべての船舶の船長は、船舶の名称、国籍、船籍港、入港しようとする日本の港及び入港予定時刻など(以下「船舶保安情報」という。)を入港する港を管轄する海上保安官署に通報しなければなりません。
 船舶保安情報の通報は、日本の港に入港する場合だけではなく、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海に入域する場合にも行わなければなりません。しかし、一度、外国から日本に入港した後の日本国内の航海では必要ありません。
 通報の時期は、入港の24時間前までに、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海に入域する船舶にあっては、これらの海域に入域する24時間前までに行わなければなりません。
 詳しくは海上保安庁HPをご覧ください。
http://www.kaiho.mlit.go.jp/apply/hoan00.html

第45条(国際航海船舶の入港に係る規制)
 海上保安庁では通報を受けた船舶保安情報の内容を確認し、不明な点があった場合などは、船長に対し必要な情報の提供を更に求め、又は船舶の航行を停止させて海上保安官による立入検査を行い、もしくは乗組員その他の関係者に質問することができます。船長が情報提供の求め又は立入検査を拒否したときは、日本の港への入港禁止又は日本の港からの退去を命じることができます。
 また、船舶保安情報の内容、立入検査の結果その他の事情から合理的に判断して、船舶又は港湾施設に対する損壊行為、テロリストの侵入などによる危険が生ずるおそれがあり、危険防止のため他に適当な手段がないと認めるときは、入港禁止又は港外退去、航行の停止又は指定する場所への移動などの措置をとることができます。

国際航海船舶の入港にかかわる規制

国際船舶・港湾保安法に基づく入港に係る規制実施状況
 国際船舶・港湾保安法が平成16年7月1日から全面施行されたことを受け、海上保安庁では、外国から本邦の港(東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海を含む。)へ入港する船舶に対する規制を厳正に実施しています。施行後6ヵ月の間に1日平均197隻の船舶が外国から本邦の港へ入港しており、これら入港船舶のうち船舶保安情報の通報内容等から保安措置(船舶に義務付けられた自己警備)に不備等が認められた船舶2,375隻に対し海上保安官による立入検査を実施し、テロの危険のおそれの有無等について確認を行いました。平成17年3月末現在、入港禁止等の強制措置に至ったものはありません。
国際船舶・港湾保安法に基づく立入検査の様子
▲国際船舶・港湾保安法に基づく立入検査の様子
 また、船舶保安情報を適正に通報することなく入港した船舶8隻を検挙しました。
 海上保安庁では、今後とも無通報入港船舶等に対する指導・取締りや入港船舶に対する立入検査等を引き続き徹底的に実施することで、本邦の港に入港する船舶に対する規制を適切に実施し、船舶や港湾施設等に対するテロ防止を徹底していきます。

事例
■第七管区(下関海上保安署)
 韓国籍貨物船D号(223トン)は、平成16年9月22日、特定海域である瀬戸内海への入域(関門海峡入域)の24時間前までに船舶保安情報を通報することなく、韓国(統営)から関門海峡に入域し、その後下関港へ入港したことから、翌23日D号船長を国際船舶・港湾保安法違反(第44条第1項及び第57条第2号)で検挙しました。