海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

1 領海警備と海洋権益

2 テロ未然防止のための取組み

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
特集1 > 海洋権益の保全とテロ対策 > 2 テロ未然防止のための取組み > コラム 逃がさん! 当て逃げ逃走車両を自転車で猛追!
逃がさん! 当て逃げ逃走車両を自転車で猛追!
─ 蒲郡海上保安署(愛知県)─
平成16年4月20日午後9時過ぎ。新米海上保安官藤田は、指導官の船長池田とともに6時間にわたる外国船の張込みを終え、署員の鬼頭に張込みを引き継ぎ、署の駐輪場前から家路に就こうとした。
「キキー!ドーン!!」耳にこたえる音が夜の静寂を破った。「署の前で事故 警察へ連絡する 現場へ向かえ。」
署の3階の窓から鬼頭の怒声が落ちてきた。
池田は藤田を従えて現場へ。
女性が乗る車両が右側面を大破、中の女性の頭から血が流れている。
近くにいた前部を大破した車両が突然、対向車線を逆走して信号を無視して現場を離れた!
池田は、とっさに当て逃げと状況を読み取った。
「追え!] 「はい。」
28歳の藤田は、痩身小柄ながらも馬力には自信があった。ペダルを叩きつけるようにダッシュした。
テールランプが蛇行しながら見る見る遠くなる。藤田の息が荒くなる
「だめか?」
信号交差点で距離が縮まる。荒い息の下、目を細めてナンバーを読む
「豊橋○○…。」
また距離が遠のく。追いながらとっさに読み取れたナンバーの一部を片手で携帯電話に記録した。追跡は続く。交差点に差しかかるとなんとか追いつくことができる。次第にナンバーの全貌が読み取れる。電話に記録する。
「船長! ナンバーは○○○○です。」
荒い息の下での通報はきついがついに苦労が実った!!
池田は警察に通報する。女性は意識がもうろうとしているようである。励ましながら手配した救急車の到着を待つ。
息のあがった藤田はナンバーが読み取れたので追跡を中止しようとした。もう数キロも追いかけ、足も悲鳴をあげている。   
証拠隠滅!
藤田の脳裏にこの言葉が横切った。
「そうだ、やつはずっと海岸道路を逃げている。今俺が追跡を止めたら海に通じる横道に入り車を海に捨てて、後日、盗まれたと主張したら逃れることができる。運転者は誰か分かっていないのだ。行くぞ!!俺しかいない。」
足はもう限界だ。もうだめだ。逃走車両も遠く姿が見えなくなった。と、そのとき、前方に赤色点滅が見えた。近づく。ついに警察が捕捉逮捕した。全追跡距離5km。
1ヵ月後、署に傷の癒えた女性が見えた。
過分な文言を添えた礼状が署員に手渡され、おいしいお菓子をいただいた。
水際を守る保安官であれば、陸であれ海であれいったん有事があれば、このくらいの連携と粘りを発揮するのが当たり前と白髪の署長は冷たいことを言うが、腹では、「証拠隠滅」に思い至り、以後の追跡をよくぞやってくれた。これがなければ50点だった。小粒できりりとした新米海上保安官の成長に目を細めているのだ。