海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

1 領海警備と海洋権益

2 テロ未然防止のための取組み

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
特集1 > 海洋権益の保全とテロ対策 > 1 領海警備と海洋権益 > 3 大陸棚の限界画定のための調査
大陸棚の限界画定のための調査
大陸棚の歴史
 第二次世界大戦終了直後の昭和20年9月、米国のトルーマン大統領は、大陸棚と保存水域に関する宣言を発表しました。
 この宣言では、戦後の石油、金属等の資源の海外依存を脱却して自給自足を確保するため、沿岸に接続して公海の下にある大陸棚の海底とその地下の天然資源に対する米国の管轄権と管理を主張し、加えて、乱獲から沿岸漁業資源を保護するため保存水域を設定し、米国漁民の漁業活動の規制や関係国との協定に基づく管理措置を主張しました。その結果、中南米諸国やペルシャ湾沿岸の諸国もこれに倣い、相次いで大陸棚とその天然資源に対する主張を行うようになりました。
 このような沿岸国による沖合資源への管轄権拡大の動きは、必ずしも国際社会の一般的承認を得るまでには至らなかったものの、一方で資源の保存や再配分を求める沿岸国の主張と、他方で遠洋漁業や海運の利益を守ろうとする非沿岸国の主張との対立が早くも顕在化しました。
 こうした海洋をめぐる諸国の動向に促されて、国連の国際法委員会は、昭和26年以来、海洋法に関する法典化の作業を進め、その結果、昭和33年4月第一次国連海洋法会議において、「大陸棚に関する条約」等の四つの条約(ジュネーブ海洋法四条約)を採択しました。「大陸棚に関する条約」では、大陸棚を水深200mまでのもの、又は天然資源の開発可能な水深までと定義し、沿岸国は海底とその地下の探査及び天然資源の開発について主権的権利を持つとされました。
 大陸棚に関する条約は、昭和39年6月に発効しました。しかし海洋先進国の海底開発技術の向上により、大陸棚の定義の一つである「天然資源の開発可能な水深」が、各国の技術力に依存することとなり、基準としてふさわしいとは言い難くなりました。さらに、領海や海洋資源の配分など海洋に係るその他の権利に関して各国の対立はますます深まるばかりでした。
 こうして、ジュネーブ海洋法四条約に対して不満が残ったまま、昭和35年から引き続き行われた第二次国連海洋法会議、そして、昭和48年から始まった第三次国連海洋法会議を経て、ようやく、昭和57年に、海の憲法と言われる「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)」が採択され、平成6年に発効しました。これにより、大陸棚の定義にまつわる問題は、一応の決着をみました。なお、我が国は平成8年に批准しています。

新しい大陸棚の定義
▼国連海洋法条約による大陸棚の定義
国連海洋法条約による大陸棚の定義
 国連海洋法条約では、沿岸国は沿岸(領海基線)から200海里までの海底及び海底下を「大陸棚」とするとともに、海底の地形・地質が一定の条件を満たす場合、国連の勧告に基づき、200海里を超えて大陸棚の限界を設定することが可能とされています。
 具体的には、大陸斜面脚部から60海里の地点、あるいは堆積岩の厚さが大陸斜面脚部から1%となる地点まで大陸棚として延長することができることとされました。ただし、この条件を満たしていればどこまでも限りなく延長できるわけではなく、沿岸から最大350海里、又は2,500m等深線から100海里のいずれか遠い方までとされています。

大陸棚の限界の延長
大陸棚の限界の延長
 大陸棚の限界を200海里を超えて設定するためには、国連大陸棚の限界に関する委員会」へ、大陸棚の地形・地質に関するデータ等、大陸棚の限界に関する情報を提出し、審査を受ける必要があり、我が国の場合は平成21年5月までに提出しなければなりません。
 平成11年5月、国連「大陸棚の限界に関する委員会」は、大陸棚の限界延長の申請に対する審査の指針として、「科学的・技術的ガイドライン」を制定しました。
 その後、平成13年12月にロシアが世界で初めて国連「大陸棚の限界に関する委員会」に大陸棚の限界延長を申請しました。審査の結果、平成14年6月末に当該申請が認められないとの勧告が出されました。ロシアの申請やこれに対する国連の勧告の内容は概要が公開されているに過ぎませんが、ロシアが提出したデータはロシアの申請内容を説明するのには不十分であり、より客観的でかつ科学的に極めて高度で詳細なデータが必要で求められているとの情報を得ています。

我が国の大陸棚の限界画定のための調査
 沿岸国は、国連海洋法条約に基づき設定した大陸棚に対して、探査し、その天然資源を開発するための主権的権利を行使することができます。沿岸国以外の国や機関は、沿岸国の同意なしに、沿岸国の大陸棚に対して探査及び天然資源の開発を行うことはできません。
 このことからも、大陸棚の調査は、我が国の海洋権益を確保する、まさに国益のかかった事業であるため、平成14年6月、内閣に「大陸棚調査に関する関係省庁連絡会議」を設置して関係省庁の連携を図っていました。ロシアに対する勧告の内容について情報が得られると、平成15年6月に同連絡会議の下に、大陸棚調査の調査内容等について専門的見地からの評価・助言を得ることを目的として、海洋科学及び国際法に関する有識者で構成する「大陸棚調査評価・助言会議」が設置されました。また、大陸棚調査に係る政府の施策の統一を図るために必要な総合調整を行うことを目的として、平成15年12月に内閣官房に「大陸棚調査対策室」が設置されました。平成16年8月には、「大陸棚調査に関する関係省庁連絡会議」が、内閣官房副長官を議長とする「大陸棚調査・海洋資源等に関する関係省庁連絡会議」に改組され、「大陸棚画定に向けた基本方針」が策定されました。
 大陸棚調査では、音波を利用して海底の詳細な地形や地盤の性質を調べる「精密海底地形調査」や「地殻構造探査」、岩石を直接採取する「基盤岩採取」を行います。このうち、海上保安庁では「大陸棚画定に向けた基本方針」に基づき、「精密海底地形調査」及び「地殻構造探査」を実施しています。
 平成16年度は、2隻の大型測量船と民間調査船を活用し、九州・パラオ海嶺南部における精密海底地形調査、大東島周辺海域及び南鳥島周辺海域における地殻構造探査を実施しました。また、今後の国連「大陸棚の限界に関する委員会」での審査がデジタル資料を用いて行われることから、これまでの調査で得た基礎データのデータベース化を図っています。
 このため、海上保安庁では国連に提出する大陸棚限界情報の作成等を効率的に実施するため大陸棚情報管理官を新設し、調査成果を一元的に収集、整理、保管及び提供する体制を構築することとしています。
 海上保安庁では、「大陸棚画定に向けた基本方針」に基づき、関係省庁との緊密な連携を図りつつ、海域の科学的データを得るために必要な調査を、引き続き着実に推進していきます。

■精密海底地形調査
 精密海底地形調査を行うことで国連海洋法条約が定める大陸棚の限界延長のための基礎となる、大陸斜面脚部(大陸斜面の脚部において、海底の傾斜が最も大きく変化する点)を決定するために必要な情報が得られます。
 測量船の船底から放射状に音波ビームを発射し、海底で反射されて船底に音波が戻るまでの往復時間を計測することによって、海底の地形を一度に幅広く、そして精密に測定することができます。これまでの調査で、かつて知られていなかった海山が200個以上見つかるなどしています。
精密海底地形調査マルチビーム測深による測り方
■地殻構造探査
屈折法探査と反射法探査
  地殻構造探査を行うことで、海底の地殻が陸から連続してつながっているかどうかについての情報が得られます。
  エアガンと呼ばれる装置を使って海面付近で音を発生させ、海底や海底下の地層の境目で反射した音を船からえい航するセンサーで受信する反射法音波探査と、海中から海底に入った音波が地震波として地殻内を伝わったものを、海底に設置した屈折波受信器で受信する屈折法音波探査の二種類の調査を組み合わせて、地殻の厚さや地殻の構成岩石を精密に調べます。