海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

海上保安官の仕事 > 海上保安庁のスペシャリスト集団
海上保安官の仕事
海上保安庁のスペシャリスト集団

海上保安庁には、高度な専門技術を有するスペシャリスト集団が存在します。

❶救難のスペシャリスト 特殊救難隊

主な業務

  • ●航空機を使用した救助
  • ●救急救命措置
  • ●転覆船からの人命の救助
  • ●国際緊急援助隊

特殊な海難に対応するためのスペシャリストで、映画「海猿」のモデルにもなっています。転覆した船舶や火災を起こした危険物積載船等における人命救助や火災消火、ヘリコプターからの降下、吊り上げ救助等高度な救助技術と専門的知識を有しています。

特殊救難隊は昭和50年に発足し、平成27年10月には発足40年を迎えました。発足からの出動実績は、出動件数5,111件、救助人員2,689人となっています(平成29年12月31日現在)。また、自然災害への対応や国際緊急援助隊(JDR)としての海外派遣など幅広い場面で活躍しています。


救急救命措置の様子
救急救命措置の様子
吊り上げ訓練
吊り上げ訓練
潜水訓練
潜水訓練

沿革
沿革
  • 昭和50年 第三管区海上保安保本部警備救難部救難課に「特殊救難隊」が発足(5名)
  • 昭和57年 羽田沖日本航空旅客機墜落事故に出動
  • 昭和61年 「羽田特殊救難基地」設立(4隊20名体制)
  • 平成07年 兵庫県南部地震に出動
  • 平成09年 日本海でのナホトカ号海難に出動
  • 平成16年 富山港沖練習帆船座礁海難に出動
  • 平成23年 東日本大震災に出動
  • 平成27年 特殊救難隊発足40周年(6隊36名体制)

※国際緊急援助隊として、海外派遣実績13件


羽田特殊救難基地 第二特殊救難隊 救急救命士 福永 昌恭
現場の声

羽田特殊救難基地 第二特殊救難隊 救急救命士
福永 昌恭


調査活動の写真-1
調査活動の写真-2

私は、入庁後に救急救命士の資格を取得し、特殊救難隊に入隊しました。

特殊救難隊救急救命士は、特殊救難業務を実施しつつ、要救助者に対して専門的な救急救命処置を実施します。

近年、特殊救難隊は、特殊海難への対応に加え、陸上における大規模な自然災害などにも出動し、活動の範囲が広がっています。

我々は、海難現場で危険因子を認知し、安全・確実・迅速に救助活動を行う為に、自らの限界を知り、危険予知能力や状況把握能力を身に付け、いつどのような海難が発生しても対応できるよう日々訓練を積んでいます。

今後も救助能力を高め、救える命を確実に救うことができる隊員を目指していきます。


❷海上災害防止のスペシャリスト 機動防除隊

主な業務

  • ●火災船被害状況調査
  • ●有害危険物質への対応
  • ●油抜取り作業指導
  • ●国際緊急援助隊

海上災害の防止に関するスペシャリストです。海上に排出された油、有害液体物質の防除や海上火災の消火及び延焼の防止に関する指導・助言や関係者の調整を実施するほか、必要に応じて自ら防除措置などを行います。

機動防除隊は、平成7年に発足し、平成27年10月には発足20年を迎えました。発足からの出動実績は、370件となっています(平成29年12月31日現在)。また、国際緊急援助隊(JDR)として海外派遣など様々な場面で活躍しています。


油汚染事故への対応
油汚染事故への対応
有害危険物質への対応
有害危険物質への対応
防除措置計画の立案
防除措置計画の立案
事故関係者への指導・助言
事故関係者への指導・助言

沿革
沿革
  • 平成07年 第三管区海上保安本部警備救難部救難課に「機動防除隊」が発足(2隊8名体制)
  • 平成09年 日本海でのナホトカ号海難や東京湾でのダイヤモンドグレース号海難に出動
  • 平成10年 「横浜機動防除基地」設立(3隊12名体制)
  • 平成23年 東日本大震災に出動
  • 平成25年 釜山沖ケミカルタンカー衝突火災海難に出動
  • 平成27年 機動防除隊発足20周年(4隊16名体制)

※国際緊急援助隊として、海外派遣実績4件


横浜機動防除基地 防除措置官 白石 卓嗣
現場の声

横浜機動防除基地 防除措置官
白石 卓嗣


船舶の衝突や乗揚げ事故等による油、有害液体物質等の流出事故は全国各地で発生しています。

油は、ひとたび沿岸に漂着すると一帯を黒く汚し油の臭いが立ち込め、原状回復までに多大なる時間、労力、費用を要します。

有害液体物質等は、発生するガスが引火するものもあり、吸引すると人の命に関わるものもあります。

現場の状況は流出した物質や環境によって様々で、有害液体物質等の数は数百種類におよび各々性状が異なるため、多くの資料や知見から挙動を予測し適切に被害を防ぐことが重要です。

事故現場では、防除体制の根拠となる法律等に基づき指導助言を行います。

また、流出した物質の回収や分散といった防除活動を行うにあたっては、大型油回収装置や油処理剤散布装置等特殊器材を適切に取り扱うための専門技術が求められます。

特殊技能を基に関係者へ指導助言する職務に重圧を感じることもありますが、日本国内はもちろんのこと海外での事案対応等において、指導助言した知識及び技術が現場で活きている場面を直に感じることが出来るところは、機動防除隊の魅力の一つではないかと思います。

我々はこれからも事故の経験から学び、より安全な現場活動を目指していきます。


❸警備のスペシャリスト 警備実施等強化巡視船

主な業務

  • ●警備実施等
  • ●移乗訓練
  • ●制圧訓練

警備実施等強化巡視船は、違法・過激な集団による海上デモや危険・悪質な事案、テロ警戒等に対応するため、必要な知識、技能及び装備を備えた特別警備隊が配置されている巡視船です。平成28年5月に開催された伊勢志摩サミットにおいても、その海上警備の中核として活躍しました。


GB規制・捕捉訓練
GB規制・捕捉訓練
大盾訓練
大盾訓練
警備実施等強化巡視船
警備実施等強化巡視船
高速機動訓練
高速機動訓練

❹海洋調査のスペシャリスト 測量船

主な業務

  • ●海洋調査
  • ●機器整備

測量船は、海底地形の測量、海流や潮流の観測、海洋汚染の調査等を行う船です。海上保安庁には、本庁配備の大型測量船が5隻、管区に配備される小型測量船が7隻あります。測量船は、専ら海洋調査に従事するため、自律型潜水調査機器(AUV)やマルチビーム測深器をはじめとする特殊な海洋観測機器の運用を前提につくられており、その乗組員も高度な専門知識・技術を有する海洋観測のエキスパートです。


AUVごんどう揚収作業
AUVごんどう揚収作業
搭載艇による測量の準備
搭載艇による測量の準備
海洋調査の様子
海洋調査の様子
測量船「拓洋」
測量船「拓洋」

測量船 「天洋」 観測士補 井川 隼
現場の声

測量船 「天洋」 観測士補
井川 隼


測線誘導作業
測線誘導作業
水深測量の音速度補正のための水温・塩分観測
水深測量の音速度補正のための
水温・塩分観測

私は、測量船「天洋」で観測士補として、現在まで約2年間勤務しており、海洋調査機器の整備・運用等を行っています。

測量船「天洋」の主な任務は、航海の安全を支える海図を作製するための水深調査です。

水深調査では、水深の浅い所や離島周辺を調査することもあり、常に緊張感を持ち、乗組員同士のコミュニケーションを図ることを心がけ調査を実施しています。調査は、ひたすら測線(測量を行うために船が航走する線)を往復する地味な仕事ですが、私たちが調査した水深データが海図に反映され、航海者、漁業者などに提供される時には、非常に大きな達成感とやりがいを感じます。

今後も調査を通じて航海安全に貢献できるよう、日々精進していきたいと思います。

我々はこれからも事故の経験から学び、より安全な現場活動を目指していきます。


❺海上交通管制のスペシャリスト 海上交通センター
東京湾海上交通センター
東京湾海上交通センター
交通管制の様子
交通管制の様子

海上交通センターは、船舶の安全運航に必要な情報の提供と航行管制を行うことにより、ふくそう海域における海上交通の安全を図っています。現在、海上交通センターは東京湾、伊勢湾、名古屋港、大阪湾、備讃瀬戸、来島海峡及び関門海峡の7箇所に設置されています。



東京湾海上交通センター 運用管制官付 窪田 麻友子
現場の声

東京湾海上交通センター 運用管制官付
窪田 麻友子


運用管制官
運用管制官

私は、海上保安学校を卒業後、東京湾海上交通センターに配属されました。新任の運用管制官は、約半年間の研修を受け、運用者認定審査に合格すると、晴れて一人前の運用管制官として業務に就くことができます。私は、運用管制官として、2年目になりますが、勉強の毎日を過ごしています。

東京湾は、多くの船舶が行き交う世界有数の混雑海域です。船舶交通の安全のために、情報提供や航行管制、交通の整理、航法指導等を行っています。海難の未然防止に努めるべく、24時間交代制勤務で船舶を監視しており、日々緊張感と責任感が伴いますが、1日を無事に終えられると「ホッ」としますし、非常にやりがいを感じられる職場です。


❻化学分析のスペシャリスト 海上保安試験研究センター
海上保安試験研究センター
海上保安試験研究センター

東京都立川市の海上保安試験研究センターで働く職員は、海上保安業務に使用する資機材や海上犯罪の科学捜査に関する試験・研究、海洋汚染の原因となる物質の分析等を行なっています。

※交通分野における技術開発は交通分野における技術開発、新技術の活用で紹介



海上保安試験研究センター 化学分析課 吉田  玲
現場の声

海上保安試験研究センター 化学分析課
吉田 玲


私は、海上保安試験研究センター化学分析課で、海上環境に関する鑑定を行っています。高専時代に環境分析の実験に興味を持ったため、現職への異動を希望しました。化学分析の技術は、日進月歩であり、これに対応するには常に新しい知識が要求されるため、現在私は、大学院で量子化学の分野を研究し、研究成果を鑑定に活かしたいと思っています。これまで最も印象に残っている鑑定は、酪酸の鑑定です。悪臭と戦いながら分析を行い、科学的に証明したことによって、現場の保安部から感謝されたことが励みとなっています。まだ私は、日々の業務をこなすことで精一杯ですが、将来は環境分析のスペシャリストとしての鑑定人を目指したいと思っています。


分析結果の解析
分析結果の解析
前処理作業
前処理作業
質量測定
質量測定

❼音楽のスペシャリスト 海上保安庁音楽隊
第三管区巡視船艇・航空機展示総合訓練における岸壁演奏
第三管区巡視船艇・航空機展示総合訓練における岸壁演奏
第24回海上保安庁音楽隊定期演奏会
第24回海上保安庁音楽隊定期演奏会

海上保安庁音楽隊は、音楽を通じて、国民との融和を図り、当庁の広報活動の効果を高めるとともに、当庁職員の士気の高揚を図ることを目的として、昭和63年に海上保安制度創設40周年を契機として結成し、今年で30周年を迎えました。音楽隊は、当庁の式典、音楽隊定期演奏会のほか、国家的行事での奏楽、海に関するイベントなど多方面で演奏活動を行っています。

隊員は霞が関の本庁等において、他の職員と同様に公務を行いながら、練習や演奏活動を行っています。ご興味や機会がございましたら、ぜひ演奏会に足をお運びください。皆様のご来場をお待ちしております。



海上保安庁音楽隊
JAPAN COAST GUARD BAND
QRコード

http://www.kaiho.mlit.go.jp/doc/band/ongaku.html

「うみまる」と「うーみん」