海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海の安全を創る > CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と情報提供
7 海の安全を創る
CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と情報提供

海上保安庁では、船舶交通の安全と運航能率の向上を図るため、灯台をはじめとする各種航路標識を整備し管理しているほか、様々な手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速かつ確実に提供し、船舶事故の未然防止に努めています。

平成29年の現況
1 航路標識の運用

船舶が安全かつ効率的に運航するためには、常に自船の位置を確認し、航行上の危険となる障害物を把握し、安全な進路を導く必要があります。海上保安庁では、このための指標となる灯台等の航路標識を運用しています。

また、地域のシンボルとなっている灯台を活用した地域連携や、全国に64基現存している明治期に建設された灯台の保全を行っています。


航路標識の設置例
航路標識の設置例
2 灯台観光振興支援

海上保安庁保有の灯台は、歴史的・文化的価値を有するものがあることから、地方公共団体等による観光資源としての活用等を促すことにより、海上安全思想の普及や地方公共団体等との連携強化を図っています。

具体的には、青森県八戸市による鮫角灯台の一般公開、島根県松江市による美保関灯台の旧官舎を活用したレストラン運営、(公社)燈光会による参観事業(のぼれる灯台15箇所)の実施、当庁における一般公開、その他の地域でも夜間ライトアップや各種イベントが実施されています。


旧官舎でレストラン経営(島根県・美保関灯台)
旧官舎でレストラン経営(島根県・美保関灯台)
地方公共団体等による一般公開(青森県・鮫角灯台)
地方公共団体等による一般公開(青森県・鮫角灯台)
交通分野における技術開発、新技術の活用

海上保安試験研究センターでは、海上交通業務に新たな技術を活用すべく、長寿命高輝度LED(COB)光源の実用化、水銀槽式に代わるレンズ回転装置の導入等の取組みを行っています。

COB(Chip On Board)とは、多数のLEDチップを直接基板に実装したもので、光度制御を電流により行うことができ、現在、中・大型灯台で使用しているハロゲン電球・メタルハライドランプと比較すると、寿命は10〜60倍、消費電力も1/10〜1/30となり、電源の太陽電池化、長距離配電線の解消などが期待されています。

また、明治以来、レンズの回転装置として使用している水銀槽式回転装置については、水銀の国内各法での取扱い、保管等に厳しい規制があることから、特殊車輪回転装置の導入を進めており、現在、剱埼灯台及び城ケ島灯台において本運用に向けた実装試験を実施しています。


COB光源の実用化
COB光源の実用化

水銀槽式に代わるレンズ回転装置の導入
水銀槽式に代わるレンズ回転装置の導入

また、現在、国際海事機関(IMO)において、e-navigationを実現するための主要通信手段として、VHFデータ通信システム(VDES)の利用について検討が進められています。海上保安庁では、海上交通の安全性及び効率性の向上並びに我が国の国際競争力強化のため、VDESの運用に必要な要件の国際標準化を目指して「VDESの海上交通利用に関する調査研究委員会」を立上げました。委員会には産学官からなる29名の有識者が参画し、国内におけるVDESの利用や運用体制などについて議論を行いました。

平成30年度以降は、委員会での議論を踏まえ、VDESの運用に係る海上実証試験等を行い、その成果をIMO国際航路標識協会(IALA)に報告することにより、国際標準化を図っていきます。


VDESの海上交通利用に関する調査研究委員会
VDESの海上交通利用に関する調査研究委員会
3 水路図誌、水路通報、航行警報
水路図誌

海上保安庁では、水深や浅瀬、航路の状況といった航海の安全に不可欠な情報を、海図等の水路図誌として提供しています。(詳しくは1 海上の安全確保のために


水路通報

航路標識の変更、地形及び水深の変化等、水路図誌を最新に維持するための情報や、船舶交通の安全のために必要な情報を水路通報としてインターネット等で提供しています。平成29年は約25,500件を提供しました。


航行警報

航路障害物の存在等船舶の安全な航海のために緊急に周知が必要な情報を衛星通信、無線放送、インターネット等により航行船舶に対し提供しています。

また、利用者が視覚的に容易に把握することができるよう、警報区域等を地図上に表示したビジュアル情報をインターネットで提供しています。


水路通報・航行警報の概念図
水路通報・航行警報の概念図

航行安全情報の種類と提供範囲
航行安全情報の種類と提供範囲
今後の取組み
地域を活かす海上安全行政の推進(灯台観光振興支援)

地方公共団体等による灯台の観光資源としての活用等を積極的に促すことにより、海上安全思想の普及を図り、これを通じて地域活性化にも一定の貢献を果たしていきます。