海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海の安全を創る > CHAPTER II. ふくそう海域・港内等の安全対策
7 海の安全を創る
CHAPTER II. ふくそう海域・港内等の安全対策

海上保安庁では、海上交通の安全確保を図るため、海上交通ルールを遵守するように指導を行っており、特に、ふくそう海域では、事故発生数を「ゼロ」とすることを目標として、海上交通センターにおいて24時間体制で的確な情報提供や管制を行っています。また、様々な手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速かつ確実に提供し、船舶事故の未然防止に努めています。

平成29年の現況

船舶交通がふくそうする東京湾・伊勢湾・瀬戸内海・関門海峡での船舶事故隻数は732隻と、船舶事故全体の約4割を占めており、過去5年では、若干の減少傾向にあります。これらの海域で事故が発生した場合には、尊い人命や財産が失われるとともに、航路の閉塞や交通の制限による物資輸送が滞ることで、国際貨物輸送の99.7%(重量ベース)を海上輸送に頼る我が国の経済活動に大きな影響を及ぼすこととなることから、海上保安庁では、ふくそう海域での海上交通の安全を確保するため、次の取組みを実施しています。

1 海域毎の交通ルール及び安全対策

海上交通ルールには、基本的なルールを定めた「海上衝突予防法」のほか、特別なルールとして東京湾・伊勢湾・瀬戸内海に適用される「海上交通安全法」、法令で定める港に適用される「港則法」があります。海上保安庁では、これらの法令を適切に運用することで海上交通の安全確保を図っています。

ふくそう海域における安全対策

海上交通の要所となっている東京湾・伊勢湾・瀬戸内海・関門海峡には、海上交通センターを設置して、航行船舶の動静を把握し、船舶の安全な航行に必要な情報の提供や、大型船舶の航路入航間隔の調整を行うとともに、巡視船艇との連携により、不適切な航行をする船舶や、航路を塞いでしまう船舶への指導等を実施しています。


ふくそう海域における安全対策
ふくそう海域における安全対策
準ふくそう海域における安全対策

準ふくそう海域の一つである静岡県・伊豆半島と東京都・伊豆大島の間における安全対策として、国際海事機関(IMO)指定の「推薦航路」を設定し、平成30年1月1日から運用を開始しました。これは海上保安庁が提案していたバーチャルAIS航路標識を利用した全長約15kmの航路案が、平成29年6月のIMO海上安全委員会で採択されたもので、バーチャルAIS航路標識を利用した推薦航路は世界でも初めてとなります。


バーチャルAIS航路標識を用いた推薦航路(平成30年1月1日運用開始)
バーチャルAIS航路標識を用いた推薦航路(平成30年1月1日運用開始)
港内における安全対策

港則法に基づき、平成29年10月1日に相馬港を新たに特定港として指定するなど、全国の87港を特定港に指定し、船舶の入出港状況の把握、危険物荷役の許可、停泊場所等の指定を行い、港内の安全確保に努めています。

沿岸における安全対策

AISを活用した航行安全システムを運用し、日本沿岸において乗揚げや走錨のおそれのあるAIS搭載船に対して注意喚起や各種航行安全情報を提供しています。

海上交通センターからの注意喚起により船舶の乗揚げを回避!
海上交通センター運用管制官からの情報提供による乗揚回避
海上交通センター運用管制官からの情報提供による乗揚回避

平成29年11月、来島海峡海上交通センターの運用管制官が、レーダー運用卓を監視中、来島海峡航路において、陸岸に接近する貨物船(外国船)を確認しました。

運用管制官は、貨物船に対し、国際VHF無線電話で陸岸に接近している旨の注意喚起をした結果、貨物船の乗揚げを回避することができました。

2 海上保安学校管制課程の設置

海上交通センターで勤務する運用管制官は、国際航路標識協会(IALA)が定める国際標準に則った高い技能が求められるとともに、近年のAIS搭載船舶の増加等に伴う情報提供業務の拡大や非常災害時における船舶に対する移動命令の権限の付与等、その役割は複雑化・高度化しています。

このような状況に対し、運用管制官の育成体制の強化を図るため、高い管制技能・英会話能力を持つ運用管制官を継続的に養成する「管制課程」を、平成30年4月に海上保安学校に新設し、第1期生20名が入学しました。


管制課程開設式
管制課程開設式
管制課程開設式にて訓示を行う交通部長
管制課程開設式にて訓示を行う交通部長
運用管制官
運用管制官
3 一元的な海上交通管制の構築

近年、船舶の大型化や危険物取扱量の増加が進んでおり、船舶交通が著しくふくそうすることが予想される海域においては、津波等による非常災害が発生した場合に危険を防止するため、船舶を迅速かつ円滑に、安全な海域に避難させる必要があります。

また、平時においては信号待ちや渋滞による船舶交通の混雑を緩和し、安全かつ効率的な船舶の運航を実現することが求められています。

このため、東京湾において、湾内の船舶交通を一体的に把握すべく、東京湾海上交通センター(神奈川県)と千葉・東京・横浜海上保安部及び川崎海上保安署の各港内交通管制室を統合したほか、高性能カメラ等の必要な設備を整備した上で、船舶に対し必要な情報提供、法律に基づく命令・管制を実現するシステムを構築しました。

平成30年1月31日からは、これらの運用を開始し、平時においては、海上交通安全法及び港則法に基づく事前通報手続きを一本化し、物流の一層の効率化を図ることとしています。また、非常災害時においては、東京湾内に大津波警報が発表された際、直ちに非常災害発生周知措置を発令の上、船舶に対する東京湾への入湾制限や安全な海域への移動命令等の必要な措置をとるとともに、津波警報が発表されたり大規模海難等が発生した際には、湾内の混乱による船舶交通の危険な状況等に応じて、同様の措置をとることとしています。

また、平成30年2月9日、神奈川県横浜市内で東京湾海上交通センター開所記念式典及び祝賀会を行い、石井国土交通大臣、あきもと国土交通副大臣が出席しました。


開所記念祝賀会で挨拶をする石井国土交通大臣
開所記念祝賀会で挨拶をする石井国土交通大臣
(1)東京湾における一元的な海上交通管制の運用
(2)施設整備
排出ガス規制に伴うLNG船の普及や新エネルギー利用拡大に関する安全面での対応

船舶からの排出ガスの国際的な規制の強化(全海域を対象に、SOx排出規制を現行の「3.5%以下」から「0.5%以下」に変更)が2020年に開始されることに伴い、排出ガスが重油燃料と比較してクリーンなLNG(液化天然ガス)燃料船の普及が世界的に見込まれています。

また、将来的に水素をエネルギーとして利用する“水素社会”の実現に向けた検討も進められています。

海上保安庁では、このような新エネルギーの利用拡大に向けた検討に積極的に参画し、安全の観点から必要な助言等を行うなど、海上輸送や荷役事業の安全対策ガイドラインの策定等に携わっています。

クルーズ船への「Ship to Ship」バンカリングイメージ図
クルーズ船への「Ship to Ship」バンカリングイメージ図
液化水素運搬船イメージ図
液化水素運搬船イメージ図
今後の取組み
海上交通管制の一元化

東京湾(平成30年1月31日運用開始)に引き続き、伊勢湾、大阪湾においても海上交通管制の一元化を推進していきます。

大型クルーズ船の安全対策
大型クルーズ船
大型クルーズ船

大型クルーズ船が初めて入港する際の安全対策の検討期間を短縮させるべく、海上保安庁において簡易な入出港シミュレーションを行い、関係者の適切な判断に資することとします。

巨大船通航間隔の見直し

船舶交通の安全を確保した上、船舶がふくそうする海域である東京湾の航路における巨大船等の通航間隔について現行の15分を短縮するための検討を行います。


見直し例