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2 治安の確保
CHAPTER VII. 海賊対策
全世界の海賊及び船舶に対する海上武装強盗(以下「海賊等」という。)事案は、世界各国や海事関係者の懸命な取り組みにより近年減少傾向にあるものの、依然として、ソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等において発生しています。
主要な貿易のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、航行船舶の安全を確保することは、社会経済や国民生活の安定にとって必要不可欠であり、極めて重要な課題です。
海上保安庁では、海賊対処のために派遣されている海上自衛隊の護衛艦への海上保安官の同乗、ソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援等により、海賊対策を実施しています。
平成29年の現況
ソマリア沖・アデン湾の海賊について
ソマリア沖・アデン湾における海賊等発生件数は、国際海事局(IMB:International Maritime Bureau)の年次報告書によると、平成29年は9件であり、低い水準で推移しています。これは、アデン湾における自衛隊を含む各国部隊による海賊対処活動、船舶の自衛措置、民間武装警備員による乗船警備等、国際社会による海賊対策の成果の現れといえます。しかしながら、ソマリア国内の不安定な治安や貧困といった海賊を生み出す根本的な要因が未だ解決していない状況に鑑みれば、海賊等の脅威は存続しているといえます。海上保安庁では、海賊対処のために派遣された海上自衛隊の護衛艦に、海上保安官8名を同乗させ、海賊の逮捕、取調べ、証拠収集等の司法警察活動に備えつつ、自衛官とともに海賊行為の監視、情報収集等を行っており、平成21年に第1次隊を派遣して以降、平成30年3月までに合計30隊240名を派遣しています。また、平成30年2月には、海上保安監を団長として職員をジブチ共和国へ派遣し、関係機関と連携して海賊護送訓練等を実施しました。
また、平成25年11月に施行された「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」に基づき、小銃を所持して警備を行う民間武装警備員の技能確認や対象船舶の我が国入港時の立ち入り確認等、同法の的確な運用に努めています。
海上保安庁では、これらの取り組みのほか、同海域の沿岸国海上保安機関が自立的に海賊対処等の法執行活動が行えるよう、同機関職員に対する能力向上支援等を行っています。
※ソマリア沖・アデン湾の沿岸国海上保安機関への能力向上支援については、4 ソマリア沖・アデン湾で詳しく説明していますのでご覧ください。
東南アジア海域の海賊について
平成29年の東南アジア海域における海賊等発生件数は76件です。発生件数は、平成28年には7年ぶりに減少に転じましたが、平成29年には再び増加しました。
従来、海賊等事案は、現金、乗組員の所持品、船舶予備品等の窃盗といった海上武装強盗事案が多数を占めていましたが、近年、フィリピン沖のスールー海・セレベス海では、身代金目的の船員誘拐といった重大な事案も発生しています。
このような状況下、海上保安庁では、平成12年から東南アジア海域等に巡視船・航空機を派遣し、寄港国海上保安機関と海賊対処連携訓練や意見・情報交換を行うなど連携・協力関係の推進に取組んでいます。平成29年度においては、航空機を5月にフィリピンへ、巡視船を5月から6月にかけてフィリピン及びベトナムへ、12月から平成30年2月にかけてインド及びマレーシアへ派遣しました。フィリピンでの海賊対処連携訓練には、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)に基づきシンガポールに設置された情報共有センターからも訓練に参加、海上保安機関のみならず国際機関とも連携した他機関による訓練を実施しています。
そのほか、東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関職員に対し研修等を行うなど、法執行能力向上のための支援に積極的に取り組んでいます。
※東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関への能力向上支援については、2 東南アジア諸国への支援で詳しく説明していますのでご覧ください。
フィリピンに巡視船や航空機を派遣、海賊対処の訓練実施
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訓練の様子(当庁航空機内) |
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海賊対処連携訓練 |
平成29年1月に、安倍内閣総理大臣立ち会いの下で締結したフィリピン沿岸警備隊(PCG)との協力覚書に基づき、5月12日から14日までの間、那覇航空基地所属ジェット機ファルコン900をフィリピンへ派遣(団長:岩並海上保安監)し、海賊対処連携訓練を実施しました。同訓練は日本からPCGに供与した40m級新鋭巡視船と海上保安庁航空機が行う初めての訓練となり、同国周辺海域で発生している海賊等事案の拠点となっているスールー諸島上空を含むスールー海上空を飛行しました。
また、6月1日から4日までの間、新潟海上保安部巡視船えちご(ヘリコプター1機搭載型)を同国へ派遣し、戒厳令の中、ダバオ沖において日本から供与した40m級新鋭巡視船2隻を含むPCGとの海賊対処等の連携訓練等を実施しました。また、PCG職員に対し、JICA専門家によるゴムボート操船訓練等を実施し、連携訓練においてPCG職員による成果の展示が行われました。
訓練実施2日後の6月5日、同国ミンダナオ島南部海域でタグボートに対する海賊等事案が発生し、訓練に参加した日本供与の40m級巡視船も現場に急行し、被疑者2名を逮捕しています。
現場の声
ソマリア沖・アデン湾における海上保安官の活動
第29次ソマリア周辺海域派遣捜査隊 遠田 隊長
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海上自衛官(左側)と海上保安官(右側) |
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海賊護送訓練の状況 |
ソマリア沖・アデン湾に派遣される海上自衛隊の護衛艦には、派遣当初から、海賊事案が発生した場合の司法警察活動を行うため、海上保安官がソマリア周辺海域派遣捜査隊として同乗しています。
私たち第29次派遣捜査隊の8名は、平成29年11月30日に青森県むつ市大湊にて護衛艦「せとぎり」に乗り組み、海上自衛官とともに研修や訓練を重ねながら、ソマリア沖・アデン湾へ向かい任務に就いています。
出港に先立ち、関係者の皆様から激励をいただき、国民の期待を改めて実感するとともに、我が国及び国際社会にとって極めて重要な海上交通路の安全確保のため、日本国を代表し業務に従事していることを大変光栄に思っています。
本邦から遠く離れた海域での長期派遣になりますが、護衛艦乗員の方々と緊密に連携しながら、ソマリア沖・アデン湾を航行する船舶の安全・安心を確保するため、任務を遂行していきます。
今後の取組み
海上保安庁では、今後とも、海賊対処のために派遣される海上自衛隊の護衛艦に海上保安官を同乗させるほか、ソマリア沖・アデン湾及び東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援にも引き続き取り組み、関係国、関係機関と連携しながら、海賊対策を的確に実施していきます。
漂流漂着船にかかる対応
平成29年は、朝鮮半島からのものと思料される漂流・漂着木造船等が日本海沿岸で104件(平成28年は66件)確認されました。
長大な海岸線を有する我が国において、沿岸警備の徹底は重要な課題であり、
海上保安庁では、
- ●日本海沿岸区域を重点とした巡視警戒の強化
- ●地元の自治体や関係機関との情報共有及び迅速な連絡体制の確保の徹底
をするとともに、漁船や地元住民からの不審事象の通報に関する働きかけを推進し、漂流・漂着木造船等の早期発見に努めているところです。漂流・漂着船の情報を入手した場合には、船体や船内の状況を詳しく調査するとともに、生存者がいる場合には徹底した事情聴取を行い、漂流漂着に至った経緯などを調査しております。
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漂着木造船(石川県) |
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漂着木造船の船内捜索の様子 |
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漂着船に係る啓発ポスター |
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北海道松前小島における木造船漂着事案
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木造船の外観 |
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平成29年11月28日、北海道警察から海上保安庁に対して、北海道松前郡松前町松前小島に着岸している不審な木造船に関する通報があり、巡視船艇及び航空機を出動させたところ、松前小島西防波堤基部に着岸している木造船及び人影を確認しました。
その後、松前小島付近の海上に移動した木造船に対して巡視船による警戒監視を行うとともに、呼びかけを行ったところ、「北朝鮮から来た・乗組員は10名・荒天避泊のため松前小島に来た」旨応答がありました。
現場海域の気象・海象の更なる悪化に伴い、木造船に転覆等の危険性が高まったことから、巡視船艇により、函館港外まで曳航した上、関係機関と連携して立入検査及び乗組員からの事情聴取を実施していたところ、12月9日に船長を含む3名が、松前小島の物品を窃盗したことが判明し、同容疑で北海道警察により逮捕され、他の乗組員については、入管当局に収容されました。
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