海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

2 治安の確保 > CHAPTER I. テロ対策
2 治安の確保
CHAPTER I. テロ対策

平成13年に発生した米国同時多発テロ以降、各国が協調してテロ対策を進めているものの、平成29年5月には、イギリス・マンチェスターのコンサート会場における自爆テロ、平成29年8月には、スペイン・バルセロナでの車両突入によるテロ事件が発生するなど、世界各地で、ソフトターゲットを狙ったテロを含むテロ事件が、引き続き発生しています。また、平成28年7月には、バングラデシュ・ダッカにおいて邦人が犠牲となる事案が引き続き発生し、国際テロ組織が日本を含む各国をテロの標的として名指しするなど、現下のテロ情勢は非常に厳しい状況にあります。このため、我が国においても、テロは現実の脅威と捉え、緊張感を持って未然防止や対処能力の向上に取り組む必要があります。

海上保安庁では、巡視船艇・航空機による臨海部における原子力発電所等警戒対象施設の警戒監視、関連情報の収集、関係機関との緊密な連携による水際対策等の従来からのテロ対策に加え、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、官民一体となったテロ対策を推進し、よりいっそうテロ対策に万全を期すこととしています。

平成29年の現況

海上保安庁では、原子力発電所や石油コンビナート等の警戒対象施設に対して、巡視船艇・航空機による警戒監視を行っているほか、多くの人が集まる旅客ターミナル、フェリー等のいわゆるソフトターゲットに重点を置いた警戒監視を実施しています。また、事業者等に対する自主警備の徹底、乗客等に対するテロ意識の向上や不審事象の早期通報の呼びかけ、合同テロ対策訓練の実施等、関係機関や地域との緊密な連携のもと、官民一体となってテロ対策に取り組んでいます。このほか、平成29年は、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際船舶・港湾保安法)」に基づき、外国からの入港船舶2,730隻に対して立入検査を行いましたが、テロとの関連が疑われる船舶は認められませんでした。

また、平成28年12月の「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」で決定した「海上保安体制強化に関する方針」の下、原発等テロ対処・重要事案対応体制の強化を段階的に進めていきます。

立入検査の様子
立入検査の様子
テロ対策合同訓練の様子
テロ対策合同訓練の様子

官民一体となったテロ対策の検討
海上・臨海部テロ対策協議会の様子
海上・臨海部テロ対策協議会の様子

近年、人が自由に出入りし、警備が比較的手薄な施設等のいわゆる「ソフトターゲット」に対するテロ事案が発生しています。さらに、ソフトターゲットを対象としたテロは「いつでも、どこでも」発生する可能性があり、フェリー・クルーズ船やターミナル等、海上や臨海部においても、テロの発生を念頭においてテロ対策に取り組む必要があります。一方、海上保安庁の勢力だけでこれら全てをカバーすることは困難であるため、これらの施設の運営者等の民間事業者と連携し、情報収集、水際対策から警戒警備に至るまでのテロ未然防止策を推進することが不可欠です。

海上保安庁では、平成28年に、海上・臨海部のテロ対策に関し官民一体となって検討するため、業界団体が参画する「海上・臨海部テロ対策に関するスタディ・グループ」を設置し、国際テロ情勢やテロ対策の現状等の知見を共有しつつ、官民連携のあり方について検討してきました。

平成29年度には、新たに構成員を拡大し、同スタディ・グループを「海上・臨海部テロ対策協議会」に発展改組させました。本協議会では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を念頭に、具体的な危険を想定した官民の対応について議論を深めることとしており、今後もこのような取組みを通じ、テロの未然防止対策に万全を期していきます。

今後の取組

現下の国際テロ情勢をめぐっては、イスラム過激派組織によるテロが続いているほか、テロ組織の過激思想に影響を受けた、いわゆる「ホームグロウン・テロリスト」によって引き起こされたとみられるテロ等が多数発生するなど、世界各地にテロの脅威が拡散し、極めて深刻な状況となっています。こうした中、我が国では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会及びラグビーワールドカップ2019の開催を目前に控えており、これらの機会を狙ったテロの脅威は重大な懸念となっています。これら大会等を見据えたテロ対策に万全を期すため、平成29年12月11日、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会等を見据えたテロ対策推進要綱」が策定されるなど、国を挙げてテロ対策に取り組んでいます。

海上保安庁においては、これらの決定等をふまえ、テロが現実の脅威であるとの認識の下、テロの未然防止やテロ発生時の対処にかかる体制を確実に整備していくとともに、関係機関や地域とより緊密に連携することで、官民一体となってテロ対策に取り組んでいきます。

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて

2020年には、いよいよ東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。平成27年11月には、「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」が閣議決定されました。今回の大会では、選手村や競技会場等の多くが臨海部に設置される予定であり、また、世界中から要人や観客等が集まることから、海上保安庁ではテロ対策をはじめとする海上における警備が極めて重要であると認識しています。加えて、東京湾における航行安全の確保や災害発生時の対応等、海上保安庁の果たす役割は非常に大きなものがあります。このため、海上保安庁では本庁及び第三管区海上保安本部に大会準備本部を設置するなど、準備を進めています。

今後も、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の成功に向け、万全を期していきます。