海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

8 海をつなぐ > CHAPTER II. 諸外国への能力向上支援
8 海をつなぐ
CHAPTER II. 諸外国への能力向上支援

主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、海上輸送の安全確保は、安定した経済活動を支える上でも極めて重要です。

しかしながら、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡やソマリア沖・アデン湾では、航行の安全を脅かす海賊事案が発生するなど、航行の安全を脅かす海賊事案が発生しています。

海上保安庁では、東南アジアをはじめとした周辺国に対し、海上保安庁が有する知識技能を伝え、各国の海上保安能力の向上を目指した支援を通じて、海上輸送の安全確保に貢献しています。

平成29年の現況
1 海上保安庁モバイルコーポレーションチーム発足
モバイルコーポレーションチーム発足式
モバイルコーポレーションチーム発足式
小型高速艇の操船訓練
小型高速艇の操船訓練

近年、アジア諸国における海上保安機関の相次ぐ設立に伴い、技術指導等の支援要請が質的・量的に増加していることを受け、海上保安庁では、平成29年10月に海上保安国際協力推進官を責任者とする7名体制の能力向上支援の専従部門(海上保安庁モバイルコーポレーションチーム:MCT)を発足させました。

同年11月には、技術指導のための初派遣としてMCTをフィリピンへ派遣し、同国沿岸警備隊に対して小型高速艇の操船訓練実施し、その後ベトナム、マレーシア、ジブチへも派遣しました。

MCTは支援対象機関職員と共に、必要な支援内容を協議するなど、信頼関係を構築しながら対象機関の要望にきめ細かく対応し、より一貫性・継続性のある能力向上支援を実施することで、支援効果の向上を図ります。

2 東南アジア諸国への支援

海上保安庁では、東南アジア諸国の海上保安機関に対する海上保安能力向上支援のため、国際協力機構(JICA)や日本財団の枠組みにより、海上犯罪取締り、救難・環境防災等の海上保安分野に関して、東南アジア諸国等の海上保安機関の職員を日本に招へいし、研修を実施しているほか、海上交通等様々な分野の専門的な知識を有する海上保安官を専門家として各国に派遣しています。また、東南アジア諸国へ巡視船を派遣し、派遣先国で乗船研修や連携訓練を実施しています。


アジアにおける主要な海上保安機関の設立
アジアにおける主要な海上保安機関の設立
フィリピンに対する支援

海上保安庁は、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対して支援を実施しています。平成12年から、海上保安行政全般に関するアドバイザーとして、同隊に専門家を派遣しているほか、平成14年から平成24年までの10年間、専門家を追加派遣し、海難救助、海洋環境保全・油防除、航行安全、海上法執行、教育訓練の分野における人材育成支援のためのJICA技術協力プロジェクトを実施しました。平成25年からは、海上法執行実務の能力強化支援のための技術プロジェクトを実施しています。海上保安庁のこのような継続的・包括的協力に対し、平成29年10月には、JICA理事長賞が贈られました。

また、平成29年5月、巡視船えちごのフィリピン・ダバオ寄港にあわせ、当庁職員をJICA短期専門家として派遣、PCG職員に対しゴムボート運用に関する講義・訓練を実施し、その訓練成果をPCG等との連携訓練時に展示しました。

インドネシアに対する支援

海上保安庁では、平成24年1月から、マラッカ・シンガポール海峡の海上交通安全のために我が国が供与した船舶通航支援業務(VTS)センターの運用能力向上のため、運輸省海運総局にJICA専門家として海上保安官を派遣しています。また、同国のVTS運用における実務的素養を育成するため、平成29年5月には、同センターの運用に携わる職員を日本に招へいし、VTSの運用及び管制官育成に関する研修を実施しました。

インドネシアでは、平成26年、海軍や海上警察、海運総局等の海上保安行政を実施している様々な機関の業務を調整し、自らも法執行にあたる海上保安機構(BAKAMLA)が設立し、平成29年10月、同国海上保安機関強化のため、協議議事録を締結し、平成30年度から3年間、BAKAMLAを中心とするインドネシアの海上保安関係機関の法執行、救難・環境防災分野等における能力向上支援を実施する予定としています。

マレーシアに対する支援

マレーシアでは、マレーシア海上法令執行庁(MMEA)に対して、その設立準備段階であった平成17年から専門家を派遣し、組織体制作りや人材育成のための技術協力プロジェクトを実施しています。平成23年7月からは、海上法令執行、海難救助、教育・訓練の分野での能力・体制の強化ために専門家を派遣し、組織犯罪等の情報収集・分析・捜査や特殊救難技術に関するセミナーや講義等を通じた支援を実施しています。

平成30年1月には函館海上保安部所属巡視船「つがる」(ヘリコプター1機搭載型)をマレーシア・クアンタンに派遣し、MMEAとの間で連携訓練を実施しました。同訓練にはマレーシア側からは、日本から供与した巡視船である巡視船「パカン」(旧巡視船「えりも」)が参加、日本政府がMMEAに供与した巡視船との初めての訓練となりました。あわせて行われたJICA課題別研修のフォローアップに参加中のインドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカ等5ヶ国14名が同訓練を見学しました。二国間の取組みが域内の連携協力の強化につながることが期待されます。

カンボジアに対する支援

カンボジア唯一の外洋に面した国際港湾であるシハヌークビル港において、我が国の協力により港湾整備等の事業が進められています。海上保安庁は、同港における電子海図の作成について、技術移転を目的とした研修への協力のほか、同事業の推進にあたっての技術的な助言等を行っています。平成29年3月には、独立行政法人国際協力機構(JICA)のプロジェクトとして平成25年より実施された電子海図作成支援プロジェクトが終了し、シハヌークビル港周辺の電子海図が完成しました。

複数国に対する支援
ASEAN地域訓練センターにおける訓練状況
ASEAN地域訓練センターにおける訓練状況

航行船舶の増大が見込まれ、海難が多発しているASEAN諸国の海上交通安全の確保を目的として、海上保安庁では平成26年から3年間、VTS管制官育成に関する日AESAN地域会合を開催しました。これら会合の結果を踏まえ、平成29年7月、VTS管制官育成のためのASEAN全体を対象とした地域訓練センターをマレーシアに設立しました。

今後は、国際基準に合致した訓練を当該センターにて実施し、ASEAN諸国のVTS管制官育成を支援していきます。

また、マラッカ・シンガポール海峡における運航量の増大及び通航船舶の大型化に対応するため、最新技術による同海峡の精密水路測量と電子海図の高度化について、沿岸3か国(マレーシア、インドネシア、シンガポール)からの協力要請を受け、海上保安庁は、関係機関と協力しつつ、水路測量に係る技術的な協力を行っており、平成29年から平成32年までの4年計画において、平成28年までに実施した緊急を要する5海域以外のマラッカ・シンガポール海峡の分離通航帯全域を対象とした水路測量を実施し、電子海図の更新を行う予定です。平成30年3月からは実際に水路測量を開始しています。

3 各国水路機関への支援
研修員による測量中の船舶の誘導
研修員による測量中の船舶の誘導

海上保安庁では、昭和46年から、独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力し、アジアやアフリカなどの開発途上国において水路測量業務に従事する水路技術者を対象とした課題別研修を毎年実施し、途上国の海図作成能力を向上させることで、世界における航海の安全に貢献しています。これまでに、44ヶ国から約430名の水路技術者が本研修に参加し、各国の水路業務分野で活躍する人材を輩出してきました。

第47回目となる平成29年は、6月から12月までの約6ヶ月間、JICAと協力し、開発途上国で水路測量に従事する技術者9名(エルサルバトル、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ウクライナ)を対象とした、海図作製能力向上のための研修を開催しました。

本研修は、JICAが実施する本邦研修のうち、国際資格が取得できる唯一の研修です。本研修を修了した研修員には、水路測量国際B級資格が付与され、修了者の多くが各国水路当局の幹部として活躍しています。

*水路測量国際B級資格
各国の教育機関が実施する水路測量技術者養成コースに対し、水路測量等の国際基準を定める国際委員会(IBSC)により認定される資格で、国際A級、B級の2つに分かれる。

4 ソマリア沖・アデン湾
海洋安全保障セミナー
海洋安全保障セミナー
海洋安全保障セミナー
捜査資機材取扱い

海上保安庁では、ソマリア沖・アデン湾の沿岸国に対しても、東南アジア諸国への支援の経験を活かした様々な支援を行っています。

平成29年7月から8月にかけて、国際協力機構(JICA)の協力のもと、「海上犯罪取締り」研修を開催し、アジア・アフリカ等の海上保安機関の現場指揮官クラスを招へいし、海賊対策をはじめとする海上犯罪取締り能力を強化することを目的とした国際犯罪の取締り等に関する講義、捜査活動に関する実技等の研修を行いました。この研修は、「海賊対策国際会議」(平成12年4月・東京)の中で合意された「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づき行われているもので、平成13年度の開始から今年で17回目となり、これまでに計25か国1地域、295名を受け入れています。平成20年度以降は、ソマリア周辺海域における海賊対策強化の必要性が高まったことを受け、アジア諸国のほか、中東、東アフリカ諸国の海上保安機関職員を招へいし、平成29年度の研修では、海賊事案の頻発するギニア湾沿岸国のうち、ナイジェリア海上保安機関職員が参加しました。

また、JICAの協力のもと、ジブチ沿岸警備隊能力拡充プロジェクトの短期専門家として、海上保安官を同沿岸警備隊に派遣し、技術協力を実施しています。平成29年10月は短期専門家3名を派遣し、国際法、海賊対策、密輸・密航に関する海上法執行についての研修を実施、同時期、ジブチ地域訓練センターにおいて、在ジブチ日・仏大使館主催の海洋安全保障セミナーが開催され、短期専門家3名及び第28次ソマリア周辺海域派遣捜査隊長が参加し、我が国の海賊対策の現状等について発表を行いました。また、平成30年2月には短期専門家7名を派遣し、日本から供与した巡視艇の運航要員等を対象に、巡視艇の安全かつ効率的な運航及び維持管理のための技術指導を実施しました。

5 海上保安政策課程
授業風景等
授業風景等

海上保安政策課程は、アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進を通じて、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、そして「力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序」の強化の重要性について認識の共有を図るため、海上保安庁及びアジア各国の海上保安機関の若手幹部職員を対象として、世界で初となる海上保安政策に関する修士号を得るにふさわしいレベルの知識の修得を目的とし、平成27年10月に開講しました。本課程では、その教育を通じ、①高度の実務的・応用的知識、②国際法・国際関係についての知識・事例研究、③分析・提案能力、④国際コミュニケーション能力を有する人材を育成することを目指しています。なお、本課程は、海上保安大学校、政策研究大学院大学、国際協力機構(JICA)及び日本財団が連携・協働して実施しています。

本課程卒業生には、海上保安分野の国際ネットワーク確立のための主導的役割を発揮することが期待され、現在、第3期生(日本、フィリピン、マレーシア、スリランカ)が、高い知識の習得と共有認識の形成に向け日々研鑽を続けています。


政策課程 構造図
政策課程 構造図
今後の取組み

海上保安庁は、各国の海上保安機関設立時の支援や、長官級による会合を主導するなど、地域の海上保安能力向上にも貢献するとともに、これまで東南アジアの海上保安機関を中心に、世界81か国3地域から延べ1,900名以上の研修員を本邦へ招へいし、24か国へ約750名の職員を派遣しております。今後も、海上保安政策課程をはじめ、各種枠組みを通じた協力・連携を推進し、能力向上支援に関する更なる支援を実施してまいります。