海上保安レポート 2010

はじめに


TOPICS 海上保安の一年

特集


海上保安庁の任務・体制


治安の確保

領海等を守る

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

交通の安全を守る

海を繋ぐ


目指せ!海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


01 治安の確保 > CHAPTER5 海賊対策
01 治安の確保
CHAPTER5 海賊対策

世界の海上交通路の要衝であるマラッカ・シンガポール海峡を含む東南アジア周辺海域やソマリア周辺海域において、海賊海上武装強盗(以下、「海賊」という。)による被害が続いています。特に、ソマリア周辺海域で発生する海賊事案は重火器を所持した海賊が乗組員を人質に取り身代金を要求するといった凶悪なものが大部分を占めており、近年社会的にも注目を集めています。

海賊事案への対応は、海上における人命・財産の保護、治安の維持等を任務とする海上保安庁が一義的な責務を有するものです。海上保安庁ではそれぞれの海域における周辺諸国の状況等をよく把握した上で、適切に海賊対策を行っています。

平成21年の現況
1 ソマリア周辺海域の海賊対策

ソマリア周辺海域における海賊被害は平成21年には217件と前年に比べ倍増しており、犯罪の態様も重火器を用いての船舶のハイジャック、身代金目的の船員の略取等と凶悪化しています。国連では、ソマリア周辺海域の海賊及び武装強盗行為抑止のために国連安保理決議を採択し、各国にソマリア周辺海域において必要なあらゆる措置を執るよう要請しています。

これを受けて、各国では軍艦等を派遣し、民間船の護衛等安全な航行を確保するための取組みを行っています。

我が国は、平成21年3月に自衛隊法に基づく海上警備行動を発令し、当該海域に護衛艦を派遣しましたが、その護衛艦には、海賊行為があった場合の逮捕・取調べといった司法警察活動を行うため、8名の海上保安官が「ソマリア周辺海域派遣捜査隊」として同乗しました。さらに、7月には「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」(以下、「海賊対処法」という。)の施行を受け、護衛艦は同法に基づく海賊対処行動を開始しました。当該護衛艦には、引き続き海上保安官が同乗しています。

これまで海上保安官が司法警察活動を行った例は平成22年3月現在、ありませんが、2回の護衛活動中、海賊船と疑われる不審な船舶複数隻が確認されています。

なお、平成21年11月には、上記のソマリア周辺海域派遣捜査隊(1次隊)が、護衛艦乗組員とともに、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)から「IMO勇敢賞(特別賞)」を受賞しています。

一方、海上保安庁では、ソマリア周辺海域沿岸国の海上法執行能力の向上が重要であるとの認識の下、平成21年9月には、「ソマリア周辺海域沿岸国の海上法執行能力向上のための専門家会議」を開催、10月にはソマリア周辺海域沿岸国の海上保安機関の職員を招へいして「海上犯罪取締り研修」を実施するなど、当該沿岸国の海上保安機関に対し、実務者レベルでの人材育成支援を行っています。

2 東南アジア周辺海域の海賊対策
巡視船「みずほ」と日本関係船舶の実働訓練
巡視船「みずほ」と日本関係船舶の実働訓練

これまで海上保安庁は海賊対策として、東南アジア周辺海域の沿岸国に対し海上保安機関の法執行能力の向上等、様々な支援策を実施してきました。この結果、同海域での海賊発生件数は、ピーク時(平成12年)には242件であったものが、平成21年には、ピーク時の5分の1にあたる45件となるなど、一定の効果を上げています。

平成21年7月には、フィリピンに巡視船「みずほ」を、11月には、インドネシアに巡視船「はやと」を派遣し、海賊事案に関する情報交換のほか、事案発生時における情報伝達、被害船の捜索、海賊の制圧訓練等を内容とする連携訓練及び当該海上保安機関の職員を対象とした乗船研修を行いました。

また、「みずほ」と「はやと」は、こうした派遣の復路にあたる公海上において、日本関係船舶が海賊に追跡・接近等を受けた場合を想定し、情報の伝達、巡視船による安全確認等、官民の関係機関・団体と連携した実働訓練を実施しました。

今後の取組み
巡視船「はやと」とインドネシア海上保安機関との海賊対策連携訓練
巡視船「はやと」とインドネシア海上保安機関との海賊対策連携訓練

海上保安庁では、今後も巡視船の派遣等による沿岸国海上保安機関の人材育成支援等、東南アジア周辺海域における海賊対策を推進していきます。

また、ソマリア周辺海域の海賊対策についても護衛艦への海上保安官の同乗のほか、東南アジアでの経験で得た人材育成支援のノウハウを生かし、積極的に取り組んでいきます。