特集1 進化する海上保安庁〜新たな課題と装備の強化〜 > 1.新たな課題への対応
特集1 進化する海上保安庁〜新たな課題と装備の強化〜
世界第6位の広さを誇る我が国の領海及び排他的経済水域には、豊富な漁業資源や今後の利用が期待される様々なエネルギー・鉱物資源が眠っています。また、我が国はエネルギー、食料等の多くを海上輸送による輸入に頼っており、「海」は、我が国の経済を支える重要な交通路としても機能しています。
海上保安庁は、海上犯罪の取締り、領海警備、テロ・不審船への対応、海難救助等の業務はもとより、北朝鮮に対する制裁措置、海賊、海洋権益の保全といった新たな課題にも対応しています。
今後は、さらにプルサーマル計画の一環である国内MOX燃料輸送の海上警備なども実施していきます。
ここでは、こうした海上保安庁が直面する新たな課題とそれに対応するための体制整備の現状を紹介します。
(1)尖閣諸島等における海洋権益の保全
我が国の領土である尖閣諸島については、中国・台湾が領有権を主張しています。このため、尖閣諸島周辺海域では、巡視船・航空機による継続的な監視を行うとともに、不当な領有権主張活動を行う外国人活動家が乗船した船舶が領海内に不法侵入した際にも、迅速かつ適切に体制を整えて対応しています。
また、我が国の海域に広く点在している離島の中には、沖ノ鳥島、南鳥島等のように広大な排他的経済水域を設定する根拠となり、海洋資源の開発及び利用等に重要な役割を果たす可能性を秘めたものがあります。
海上保安庁では我が国の海洋権益の保全という任務を遂行するため、巡視船・航空機を活用したしょう戒等を強化していくこととしています。
(2)国内MOX燃料輸送警備
我が国のエネルギー政策であるプルサーマル計画の一環として、平成27年から、MOX燃料加工施設(青森県六ヶ所村)から国内対象施設へのMOX燃料輸送が開始される見込みです。そのMOX燃料の輸送は、国際条約等において、厳格な防護措置が求められています。
海上輸送が実施される場合、現在の海上保安庁の態勢では必要とされる警備体制を恒常的に確保・維持することが困難なことから、関係省庁と連携し必要とされる防護レベルで長期間継続した警備が行える態勢や制度を構築する必要があります。
平成4年の「プルトニウム海上輸送の護衛」
巡視船「しきしま」は、平成4年の「プルトニウム海上輸送の護衛」のために建造されました。
平成4年、我が国のエネルギー政策の一環として、プルトニウムの返還が海上輸送により行われました。フランスから日本までの海上輸送は、プルトニウム輸送船「あかつき丸」により行われ、海上保安庁の巡視船「しきしま」が護衛にあたりました。海上輸送の護衛は、総日数60日、総航程約2万海里という、長期間に及び、国際テロリスト集団からのプルトニウム奪取の脅威、反核・環境保護を唱える団体の妨害活動等様々な課題に直面することになりましたが、海上保安庁はこれを克服し、無事に護衛の任務を全うしました。
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巡視船「しきしま」 |
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プルトニウム海上輸送の護衛 |
(3)大陸棚延伸に伴う管轄海域の拡大
平成20年11月、我が国は、日本の国土面積の2倍に匹敵する200海里を超えた大陸棚の延伸を国連に申請しました。国連の審査は数年を要する見込みで、延伸が認められれば海底資源などの管轄海域が広がることになります。
このため今後、我が国が権益を主張する海域において、一層の監視警戒体制の強化が必要となってきています。
一方、中国と韓国は、平成21年5月、日本との地理的中間線を大きく超えて自国の大陸棚が続いているとして、国連に大陸棚限界に関する仮申請(暫定情報)を提出しています。
(4)遠方事案への対応
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海上保安官が同乗しソマリア周辺海域へ派遣される護衛艦 |
世界各国と我が国を結ぶ海上交通路の安全を確保することは、我が国の経済を支えるために不可欠なものです。
現在、ソマリア周辺海域における海賊対処のため、海上保安官8名が乗船した自衛隊の艦船がアデン湾に派遣されています。海上保安庁は海賊対処を担う第一義的機関として、今後、日本関係船舶が航行する主要航路で、同様の事態が発生した場合にどのように対応していくかについても想定し、自らの体制を整えていく必要があります。
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