海上保安レポート 2007

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


特集 海洋国家「日本」と海上保安庁
〜海洋権益保全への取組み〜

はじめに

1.これが現場第一線

2.海洋調査に迫る


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


海上保安官を目指す


語句説明・索引


図表索引


資料編


特集 > 2.海洋調査に迫る > 4 様々な海洋の科学的調査
4 様々な海洋の科学的調査

 海上保安庁が行っている海洋の科学的調査を本章で紹介します。海洋の科学的調査により得られた情報は、海の情報に関する多様なニーズに応えるため、海図以外の媒体でも提供しています。

(1)大陸棚の限界画定のために行われている調査

(1) 精密海底地形調査
調査海域へ向かう測量船「拓洋」
▲調査海域へ向かう測量船「拓洋」
 海面は平坦に見えますが、海水を除いた海底は、陸上と同じく山や谷、山脈や崖など起伏に富んでいます。
 この起伏を直接目で見ることはできませんが、測量船に装備されたマルチビーム音響測深機を用いれば、明らかにすることができます。この測深機は測量船の船底から鋭い音波ビームを扇状に多数発射し、海底に当たってから船底に戻るまでの時間を計測することによって、海底の地形を一度に幅広く、精密に測定する装置です。
 このように精密な海底地形調査を行うことで国連海洋法条約に基づく大陸棚の限界画定のために欠かすことのできない、大陸斜面脚部の位置を決定することができます。

■マルチビーム音響測深
マルチビーム音響測深

■マルチビーム音響測深による海底地形図
マルチビーム音響測深による海底地形図

(2)地殻構造探査
 地球は、卵のように核(黄身)とマントル(白身)があり、それらを包み込むように表面に薄い地殻(殻)が存在しています。この地殻の性質や海底の堆積岩(地殻の上に陸地からの土砂などが固結して形成される岩石)の厚さなど海底の地下構造が大陸棚の限界画定を判断するために必要となります。
屈折波受信機の回収作業
▲屈折波受信機の回収作業
  海上保安庁では、エアガンと呼ばれる装置を使用し海面付近で音を発生させ海底や海底下の地層の境目で反射した音をセンサーで受信する「反射法音波探査」と、海底に入った音波が地震波として地殻の中を遠くまで伝わる様子を屈折波受信機で受信する「屈折法音波探査」の2種類の音波探査を組み合わせて、地殻構造を精密に調査しています。
 これらの調査を実施することによって、精密海底地形調査では明らかにできない海底の地下構造を詳細に解明することができ、大陸棚の限界画定に必要な情報を得ることができます。

■反射法音波探査と屈折法音波探査
反射法音波探査と屈折法音波探査

「おもり」から「音波」へ…水深測量の歴史
〜海の深さはどうやって測るのでしょう?〜


錘鉛(おもり)による測深作業
▲錘鉛(おもり)による測深作業
 明治、大正時代は、ロープに錘鉛(おもり)をつけて深さを測っていました。深い海を測る時などは、おもりが流され海底に届かないことも多く、とても苦労しましたが、 大正13年に、野島崎南東沖で9,950mの測深に成功した記録が残っています。
 昭和に入り、音波によって深さを測る研究が始まり、昭和10年には初めて音波を使用して測った水深が海図へ採用されました。
 その後さらに開発が進み、それまで船の真下の水深しか測れなかった音波(シングルビーム)による測深が、昭和50年代後半からは、海底を広範囲に測量できる音波(マルチビーム)による測深が可能となりました。現在はこの測量方法が主流となっています。

■錘鉛(おもり)による測深   ■音波(シングルビーム)に
よる測深
  ■音波(マルチビーム)に
よる測深
錘鉛(おもり)による測深 音波(シングルビーム)による測深 音波(マルチビーム)による測深
明治、大正(点の測量)   昭和初期(線の測量)   昭和後期、平成
(面の測量)

(2)航行安全のための調査

(1) 水路測量
 船舶が安全で効率的に航行するためには、水深等の海底の様子が記載された海図が必要であり、この海図を最新のものに維持するためには、港湾や航路などの水路測量が必要です。
 最近では、測量船に搭載したマルチビーム音響測深機や航空機に搭載した航空レーザー測深機により、広範囲な水深データを収集する水路測量が可能となり、海底地形などを立体的に把握できるようになりました。

■航空レーザー測深とマルチビーム測深
航空レーザー測深とマルチビーム測深

■航空レーザー測深による立体画像(石垣島)
航空レーザー測深による立体画像(石垣島)

(2) 海洋測地観測
下里水路観測所のレーザー設備
▲下里水路観測所のレーザー設備
 島しょ等の正確な位置(経緯度)は、海図作製等の基本となる情報であり、船舶の安全な航行に必要なものです。また、領海排他的経済水域等の管轄海域の画定など、海洋権益の保全においても重要な情報です。そのため、地球の上で日本列島を含めた島しょ等の位置を正確に求めるために必要となる我が国を代表する基準点が、和歌山県の下里水路観測所に置かれています。
 同観測所では、高さ1,500〜6,000kmの上空を通過する測地衛星までの距離をレーザー光線を用いて測定するレーザー測距観測が行われ、得られたデータは、世界中の他の観測データと合わせて解析されることにより正確な位置が求められています。
 このような観測業務を通じて、下里水路観測所は、我が国の海図の作製等において重要な役割を担っています。

■レーザー測距観測概念図
レーザー測距観測概念図

(3) 海流観測
 海上保安庁では、船舶の安全かつ効率的な運航を支えるほか、海難発生時の迅速な人命救助や油流出などによる海洋汚染の防止に役立てるために、日本周辺海域において海流観測を行っています。
 この観測では、測量船や巡視船艇を使用して、定期的に海水の流れや水温・塩分などを調査しています。また、人工衛星による海面水温画像や漂流ブイの追跡調査によって、表層の流れも解析しています。さらに、マリンレジャーが盛んな相模湾や伊豆諸島においては、重点的に海水の流れを海洋短波レーダーで常時監視しています。
 これらの観測結果は、海難発生時や油流出時の漂流予測に活用するほか、リアルタイムな情報への関心が船舶運航者などの中で高まっていることから、常時インターネットでも公開しています。

ホームページアドレス
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/tumiugoki.html

■海洋短波レーダーによって観測された表層の流れ
海洋短波レーダーによって観測された表層の流れ

■人工衛星によって観測された日本近海の表面海水温
人工衛星によって観測された日本近海の表面海水温

(3)防災のための調査

(1) 海底地殻変動観測
 我が国は、4つのプレートが複雑に接する場所に位置しています。このプレートが隣接するプレートの下に沈み込み、地殻に歪みが発生し、歪みが限界を超えることにより海溝付近で巨大地震が発生すると考えられています。

■日本周辺のプレート分布
日本周辺のプレート分布

 海上保安庁では、地震発生の予測に必要な地殻の歪み等を把握するために海底地殻変動観測を行っています。この観測で得られた情報は、政府の地震調査研究推進本部等へ報告するなど地震の発生予測に役立てています。
 これまでの観測結果により、宮城県沖(日本海溝陸側)の海底地殻が、日本側(西北西)に年間約7cmの速さで移動していることが検出されています。

■海底地殻変動観測概念図
海底地殻変動観測概念図

■宮城県沖の観測結果
宮城県沖の観測結果

(2) 海域火山調査
福徳岡ノ場の変色水(平成18年)後方は南硫黄島
▲福徳岡ノ場の変色水(平成18年)
後方は南硫黄島
福徳岡ノ場の噴火(昭和61年)
▲福徳岡ノ場の噴火(昭和61年)
 日本周辺には、西之島などの火山島や福徳岡ノ場などの海底火山が多く存在しています。海上保安庁では、その中で、現在も活動している31か所の火山について定期的に活動状況の調査を行っています。
 航空機による目視観測や温度測定、また、測量船による海底地形や地質構造の調査を実施し、火山付近の地質構造やマグマの位置の把握に努めています。しかし、活動が活発で噴火の恐れのある海底火山の調査は、昭和27年に火山調査に向かった第五海洋丸が海底火山の爆発により遭難し31名の尊い命が失われたことからも分かるように大変危険なものであるため、無人で調査を行うことができる測量船「じんべい」や特殊搭載艇「マンボウU」による調査を行っています。
 これらの収集したデータは、航行船舶に提供されるほか、防災対策の基礎資料として活用されています。

西之島(南方諸島)の空中写真と表面温度
▲西之島(南方諸島)の空中写真と表面温度

(4)環境保全のための調査

(1) 海洋汚染調査
採泥作業
▲採泥作業
 海上保安庁では、海洋環境の改善に役立てるため、閉鎖性の高い主要港湾域をはじめ日本周辺海域において、定期的に海水や海底堆積物を採取し、油分、PCB、重金属などを調査しています。
 なお、東京湾においては、内分泌かく乱物質とされる有機スズ化合物の調査のほか、千葉灯標(千葉県)にモニタリングポストを設置し、溶存酸素などの水質を常時監視しています。
 これらの調査結果は、インターネットで公表しています。

ホームページアドレス
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/thozen.html

■東京湾モニタリングポストの位置
東京湾モニタリングポストの位置

(2) 放射能調査
海上保安庁では、海洋環境保全のため、日本周辺海域や深海域において、海水や海底土を採取し、核廃棄物の海洋投棄や核実験などで生ずる自然界に存在しない人工放射性物質の分布状況を定期的に調査し、経年変化を追跡するとともに、これらの放射性物質の拡散状況を把握するため、深海の海流調査を行っています。
 また、原子力艦寄港地においても、環境に及ぼす影響を把握するための調査を定期的に行っています。
 これらの調査結果は、インターネットで公表しています。

ホームページアドレス
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/OSEN/gaiyo/hou.html

採水作業
▲採水作業
分析作業
▲分析作業