海上保安レポート 2007

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


特集 海洋国家「日本」と海上保安庁
〜海洋権益保全への取組み〜

はじめに

1.これが現場第一線

2.海洋調査に迫る


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


海上保安官を目指す


語句説明・索引


図表索引


資料編


特集 > 2.海洋調査に迫る > 2 海洋調査と海洋権益
2 海洋調査と海洋権益

 海洋調査によって得られた情報は海洋権益の保全のための基礎となるものであることから、国連海洋法条約においては、他国の排他的経済水域を調査するためにはその国の同意を得ることが必要とされています。また、海洋権益を保全するためにはその海域の海洋調査は欠かせないこととなります。このようなことから、海洋調査の実施を巡って、各国と意見が異なることがあります。
 ここでは、平成18年の竹島周辺海域を巡る海洋調査及び大陸棚の限界画定のための調査について紹介します。

(1)平成18年の竹島周辺海域を巡る海洋調査

(1) 日本海南西部海洋調査(4月)
 我が国と韓国の間には、竹島をめぐる領有権問題が存在し、また、両国の排他的経済水域の境界線が画定しておらず、竹島周辺海域は、日韓双方の排他的経済水域の主張が重複しています。韓国は、少なくとも過去4年間、我が国の抗議にもかかわらず同海域における海洋調査を行ってきております。その度に、我が国は、外交ルートを通じた中止要求及び厳重な抗議を行うなど国際法に従って冷静かつ的確に対応してきたところです。
 海上保安庁は、平成17年12月、韓国が当該海域の海底地形に韓国名の名称を付ける動きがあることを認知しました。これは既に国際的に登録されている「対馬海盆」を「ウルルン海盆」へ、「俊鷹堆(しゅんようたい)」を「イサブ海山」へ名称変更するほか、いくつかの海底地形に新たに名称を付けようとするものでした。
 このような事態を受け、海上保安庁は、我が国としても対案を提出することを念頭に置き、それに必要なデータを収集し、併せて海図の基礎資料とするため海洋調査を実施することとしました。
測量船「明洋」
▲測量船「明洋」
測量船「海洋」
▲測量船「海洋」
  我が国は、竹島周辺海域で測量船「明洋」及び「海洋」の2隻体制による調査を計画し、4月14日、周辺を航行する船舶に対して注意を促すための情報提供(水路通報)を行いました。同日、外交ルートを通じて韓国側から調査の中止要求がありました。しかも、韓国政府は我が国が海洋調査を実施する場合は、臨検、だ捕等のあらゆる手段を講じ阻止するとの報道がなされました。このような行動は、我が国の当該海域の立場と相容れないものであるのみならず、国際法に反するものです。
 我が国による海洋調査は、国際法上問題はありませんが、不測の事態を避けるため4月21日及び22日に外交交渉が行われました。交渉の結果、韓国が、予定していた海底地形名称に関する国際会議「海底地形名小委員会」への名称の提案を行なわないこととなったことから、我が国は今回計画していた調査を中止しました。

■調査区域概念図
調査区域概念図

GEBCO(General Bathymetric Chart of the Oceans)大洋水深総図
〜世界の海底地形と地名のプロジェクト〜


GEBCO第5版
▲GEBCO第5版
 GEBCOはモナコ大公アルバート1世により始められた、世界各地の海底地形を明らかにすることを目的とするプロジェクトで、明治36年(1903年)に海底地形図の初版が刊行されて以来、100年以上の歴史があり、最も権威あるものとされています。
 海洋調査の結果、明らかになった海底地形には、社会的、学術的混乱を防ぐため単一の名称がGEBCOに登録されます。目に見えない海底の場合、調査によって地形が初めて明らかになり、それに伴い地名が付くことが一般的ですが、古くから知られている顕著な地形には歴史的に長く使用されている名称が使われます。
 海底地形名はあくまで技術的・科学的に検討されるべきもので、これにより国際社会に不要な混乱と対峙を生じさせるべきではないと、我が国は考えています。

(2) 韓国による竹島周辺海流調査(7月)
 4月の外交交渉から、我が国は当該海域においては、海洋調査を円滑に実施するための何らかの枠組みが必要であるとの考えから、枠組みについて交渉することを韓国に対して提案し、交渉中は日韓双方が調査を自粛することを提案していました。
 しかし、韓国は我が国のこれら提案にもかかわらず、竹島周辺海域における海流調査を計画し、我が国の抗議を受け入れることなく、7月5日に同調査を実施しました。
 この韓国の調査活動に対し、我が国は、外交ルートを通じ、中止要求及びさらなる抗議を行うとともに、海上保安庁では、現場において巡視船から無線等による中止要求を行うなど適切に対応しました。

韓国海洋調査船「Haeyang 2000」
▲韓国海洋調査船「Haeyang 2000」
中止要求を行う海上保安官
▲中止要求を行う海上保安官

(3) 竹島周辺海域における放射能調査の日韓共同実施(10月)
韓国海洋調査船における採水作業
▲韓国海洋調査船における採水作業
  7月に韓国が海流調査を実施した事態をふまえ、我が国は適切な時期に海洋調査を実施することを検討していました。この対象となったのが毎年実施している放射能調査でした。
 海上保安庁は13年以上に渡って、旧ソ連及びロシアが日本海へ投棄した放射性廃棄物の海洋環境へ与える影響を調査してきました。今までのところ、異常を示すデータはありませんが、放射性廃棄物の形状や耐久性などロシアによる投棄の実態が明らかにされないことから、異常を速やかに発見するためにも、継続した放射能調査が必要です。この調査は、我が国国民のみならず、日本海周辺国の国民の健康確保のためにも非常に重要な調査です。このことは、平成6年及び7年に日露韓共同で放射能調査を実施したことからも明らかです。また、韓国は、これまで我が国が行ってきた調査に対し一度も抗議を行ってきたことはありません。
 我が国は、この例年行ってきた本調査を今年も適当な時期に実施することとしましたが、韓国は調査の実施に反対しました。このため9月に外交交渉及び実務者協議が行われ、日韓共同により調査を実施することで合意され、10月7日から15日の間、海上保安庁の測量船「海洋」と韓国海洋調査船により放射能調査を共同で実施しました。
 調査は以下のように行いました。
  • 我が国が従前から実施してきた竹島周辺海域の3点と更に日本側から3点を加えて、計6点の調査
  • 日韓双方の船舶には他方の国の調査員が乗船する
  • IAEAの職員が日韓双方船舶に乗船する
  • 採取した資料及び調査結果の相互交換
 海上保安庁としては、日本海における必要な放射能調査を、今後とも適切に実施していくこととしています。

■日韓共同による放射能調査の観測点
日韓共同による放射能調査の観測点

(2)大陸棚の限界画定のための調査

 国連海洋法条約では、沿岸国は領海の基線から200海里までの海底及び海底下を「大陸棚」とするとともに、海底の地形・地質が一定の条件を満たす場合、国連の勧告に基づき、200海里を超えて大陸棚の限界を設定することが可能とされています。具体的な条件は、大陸斜面脚部から60海里の地点、あるいは堆積岩の厚さが大陸斜面脚部からの距離の1%となる地点まで大陸棚として延長することができることとされています。ただし、この条件を満たしていれば、どこまでも限りなく延長できるわけではなく、その限界は領海の基線から350海里又は2,500m等深線から100海里までとされています。

■国連海洋法条約における大陸棚の定義
国連海洋法条約における大陸棚の定義

 大陸棚においては、沿岸国が、その天然資源を開発するための主権的権利を行使することができ、沿岸国以外の国や機関は、沿岸国の大陸棚において、沿岸国の同意のない探査や天然資源の開発を行うことはできません。このように、現在実施している大陸棚の限界画定のための調査は、まさに我が国の海洋権益を保全するための大変重要な施策です。200海里を超えて大陸棚の限界を設定するためには、国連「大陸棚の限界に関する委員会」へ、大陸棚の地形・地質に関するデータなど、大陸棚の限界に関する情報を提出し、審査を受ける必要があり、我が国の場合は、平成21年5月までに提出しなければなりません。
 このため、海上保安庁では昭和58年から大陸棚の調査を進めてきましたが、平成16年度からは、内閣官房の総合調整の下、文部科学省、経済産業省と連携し、調査を実施しています。現在の調査については、平成16年8月に策定された「大陸棚画定に向けた基本方針」に基づき、精密海底地形調査及び地殻構造探査(詳しくは特集 - 2.海洋調査に迫る - 4 様々な海洋の科学的調査をご覧下さい。)を測量船「昭洋」及び「拓洋」で実施しています。また、地殻構造探査は、民間の調査船も使用して実施しています。これらの調査は、日本から遠く離れた海域での時間を要する大変な作業ですが、富士山より大きな海山が新たにいくつも発見されるなど科学的な成果も得られています。

■精密海底地形調査によって発見された海山(春の七草海山)
精密海底地形調査によって発見された海山(春の七草海山)