海上保安レポート 2015

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 離島周辺や遠方海域における海上保安庁の活躍


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海をつなぐ > CHAPTER II 諸外国への能力向上支援
7 海をつなぐ
CHAPTER II 諸外国への能力向上支援

主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、海上輸送の安全確保は不可欠です。しかしながら、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡やソマリア沖・アデン湾では、航行の安全を脅かす海賊事案が発生しています。

海上保安庁では、これらの海域の関係沿岸国の海上保安機関等に対様々な能力向上支援を行うことを通じて、海上輸送の安全確保に貢献しています。

平成26年の現状
1 東南アジア諸国への支援

海上保安庁では、東南アジア諸国の海上保安機関に対する海上保安能力向上支援のため、独立行政法人国際協力機構(JICA)の枠組みにより、海上犯罪取締り、救難・環境防災等の海上保安分野に関して、東南アジア諸国等の海上保安機関の職員を日本に招へいし、研修を実施しているほか、海上交通等様々な分野の専門的な知識を有する海上保安官をJICA専門家として各国に派遣しています。また、東南アジア諸国へ巡視船を派遣し、派遣先国で乗船研修や連携訓練を実施しています。


A フィリピンに対する支援
JICA技術協力プロジェクト
JICA技術協力プロジェクト

フィリピンでは、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対して支援を実施しています。平成12年から、海上保安行政全般に関するアドバイザーとして、同隊に専門家を派遣しているほか、平成14年から平成24年までの10年間、専門家を追加派遣し、海難救助、海洋環境保全・油防除、航行安全、海上法執行、教育訓練の分野における人材育成支援のためのJICA技術協力プロジェクトを実施しました。平成25年からは、海上法執行実務の能力強化支援のための技術プロジェクトを実施しています。


B インドネシアに対する支援
VTSセンターでの指導の様子(1)
VTSセンターでの指導の様子(1)
VTSセンターでの指導の様子(2)
VTSセンターでの指導の様子(2)

インドネシアでは、平成18年、海軍や海上警察、海運総局等の海上保安行政を実施している様々な機関の業務を調整する「海事保安調整会議」(BAKORKAMLA)が設立されました。海上保安庁では、同調整会議の設立以後、平成23年5月まで、海上救難防災対策や同調整会議の体制強化等に関する支援を行ったほか、平成24年1月からは、マラッカ・シンガポール海峡の海上交通安全のために我が国が供与した船舶通航サービス(VTS)センターの運用能力向上のため、運輸省海運総局にJICA専門家として海上保安官を派遣しています。

また、同国のVTS運用における実務的素養を育成するため、平成26年1月及び6月には、海上保安庁海上交通センターの運用管制官等を派遣し、実技指導やVTS運用についてのワークショップを実施しました。


C 複数国に対する支援
VTSワークショップの様子
VTSワークショップの様子

今後更なる航行船舶の増大が見込まれるASEAN諸国の海上交通安全を目的として、平成26年10月、VTS要員の人材育成に係る日ASEAN地域会合を日本で開催しました。ASEAN諸国において船舶の航行安全対策を所管する関係当局職員を東京に招き、IALAセミナーとワークショップを実施したもので、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスの10か国VTS当局及びIALAワールドワイドアカデミーから計15名の専門家が参加しました。当該会合において、ASEAN地域におけるVTS要員の地域訓練センター設立を目指す内容を明記した「VTS要員の人材育成に係るASEAN-日本戦略計画暫定案」を作成しました。今後は、当該戦略計画暫定案をもとに、同諸国関係当局等と実現に向けた具体的協議を進めていくこととしています。


2 ソマリア沖・アデン湾の沿岸国海上保安機関への法執行能力等向上支援

海上保安庁では、ソマリア沖・アデン湾の沿岸国に対しても、東南アジア諸国への支援の経験をふまえた様々な支援を行っています。

平成26年5月から6月にかけて、JICAの枠組みによる「海上犯罪取締り研修」にソマリア沖・アデン湾の沿岸国海上保安機関職員を招へいし、海賊対策に関する講義や捜査資器材取扱い研修等を実施しました。本研修には、これまで参加経験のあるジブチやイエメン等の海上保安機関職員に加え、初めてソマリアから海上保安機関職員が参加しました。

また、平成26年8月及び平成27年2月には、JICAの枠組みによる「ジブチ沿岸警備隊の能力強化に係る技術拡充プロジェクト」に海上保安官を短期専門家として、犯罪捜査分野に長けた海上保安官をジブチに派遣し、ジブチ沿岸警備隊職員に対して、鑑識研修、制圧研修等を実施しました。


3 各国水路機関への支援

海上保安庁では、昭和46年から40年以上にわたり、独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力し、アジアやアフリカ等の開発途上国において水路測量業務に従事する水路技術者を対象とした集団研修を毎年実施しています。これまでに40か国から約400名の水路技術者が参加し、各国の水路業務分野で活躍する人材を輩出しています。

平成26年4月に東京で、第37回水路測量技術者の国際認定審査会議(IBSC37)が開催され、JICAと協力して実施している水路測量研修に対して、国際B級認定が更新されました。平成26年度は7か国8名が参加し、測量実習や測量船による乗船実習等、約半年間にわたる研修を実施しました。

今後の取組み

海上保安庁は、各国の海上保安機関設立時の支援や、長官級による会合を主導するなど、地域の海上保安能力向上にも貢献するとともに、これまで東南アジアの海上保安機関を中心に、世界79か国3地域から延べ1700名以上の研修員を本邦へ招聘し、24か国へ約600名の職員を派遣しております。これまでの活動に加え、海洋の安全確保に向けたアジア諸国との連携協力、認識共有を図るため、海上保安大学校に海上保安政策に関する修士レベルの教育を行う「海上保安政策課程」を新設し、アジア諸国の海上保安機関職員を受け入れて、能力向上に関する更なる支援を行ってまいります。

世界の重要航路の安全を守る〜マラッカ・シンガポール海峡水路再測量プロジェクト〜
測量船「昭洋」視察
測量船「昭洋」視察

近年のマラッカ・シンガポール海峡における通航量の増大及び通行船舶の大型化に対応するため、最新技術による同海峡の精密水路測量と電子海図の高度化について、沿岸3か国(マレーシア・シンガポール・インドネシア)の要請に基づき、共同プロジェクトとして実施することとなりました。

平成26年12月には、本プロジェクト推進に係る調印式が行われ、その一環として最新調査機器が搭載された測量船「昭洋」の視察及び関係団体を集めて航行安全対策ワークショップが開催されました。ワークショップでは、マラッカ・シンガポール海峡の重要性について共通認識を共有するとともに、各国の要望等について意見交換が行われました。