海上保安レポート 2015

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 離島周辺や遠方海域における海上保安庁の活躍


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

4 災害に備える > CHAPTER I 事故災害対策
4 災害に備える
CHAPTER I 事故災害対策

ひとたび船舶の火災、衝突や沈没等の事故が発生すると、人命・財産が脅かされるだけでなく、事故に伴って油や有害液体物質が海に排出されることにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響を及ぼします。海上保安庁では、事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した場合には関係機関とも連携して、被害を最小限にするよう取り組んでいます。

平成26年の現況
1 事故災害への対応

船舶火災

平成26年に発生した船舶火災隻数は83隻で、前年と比べ1隻増加しました。船舶火災隻数を船種別で見ると、漁船の火災隻数が最も多い傾向が続いており、平成26年においても、漁船の火災隻数は39隻と、全体の約47%を占めています。

このような船舶火災に対して海上保安庁は、消防機能を有する巡視船艇による放水等の消火活動を実施しています。平成26年5月に兵庫県姫路沖で発生したタンカーの爆発炎上事案においては、人命救助及び行方不明者の捜索を行なうとともに、巡視艇等による消火活動及び油防除活動を行いました。


油排出事故

平成26年に海上保安庁が確認した油による海洋汚染発生件数は235件で、前年と比べ22件減少しました。海上における油等の排出事故では原因者による防除が原則となっているため、海上保安庁では、原因者が適切な防除を行うための指導・助言を行っています。

一方、油等の流出が大規模である場合や、原因者の対応が不十分な場合には、関係機関とも協力の上、海上防災の専門集団である機動防除隊等により海上保安庁自らが防除を行っています。平成26年においては、3月に神奈川県三浦半島沖で発生したパナマ籍貨物船の衝突沈没事案による油排出事故を始め、125件の油排出事故に対応しました。


船舶火災隻数
船舶火災隻数
海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故件数
海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故件数
 
姫路沖タンカー爆発炎上事案
姫路沖タンカー爆発炎上事案
神奈川県三浦半島沖の外国船衝突沈没海難への対応

平成26年3月、神奈川県三浦半島沖において、韓国籍貨物船とパナマ籍貨物船が衝突し、パナマ籍貨物船が沈没する事故が発生しました。この衝突沈没事案により流出した大量の油は、パナマ籍貨物船が沈没した付近の海域だけでなく、神奈川県及び千葉県の一部沿岸にも流れ着きました。この油の流出に対して、海上保安庁では、地方公共団体、漁業共同組合等の関係機関と連携し、浮流油の調査や巡視船による防除作業を実施しました。


漂着した油の様子
漂着した油の様子
防除作業の様子
防除作業の様子
2 事故災害対処のための体制強化

海上保安庁では、事故災害に対して、迅速かつ的確な対処を行うための体制の整備を進めています。平成26年度は災害対応能力を強化した巡視船を全国に4隻配備したほか、現場で対応にあたる海上保安官に対して、海上火災や油排出事故等への対処等に関する研修・訓練を実施しました。

また、海上に排出された油等の防除を的確に行なうためには、排出された油等がどのように流れるかを予測することが重要です。海上保安庁では、油排出事故等に備えるため測量船等で観測した海象(海流、水温等)の情報を基に油等が漂流する方向、速度等を予測する漂流予測に取り組んでいます。特に、相模湾や伊豆諸島周辺の海域においては、海洋短波レーダーにより海流の情報等をリアルタイムに収集することで、漂流予測の精度向上に努めています。

このほか、全国の沿岸域の地理・社会・自然・防災情報等を沿岸海域環境保全情報としてとりまとめ、インターネット上で公開しています。これらの情報は、CeisNet(http://www4.kaiho.mlit.go.jp/CeisNetWebGIS/)として、パソコンやスマートフォンから閲覧できます。


3 国内連携

事故災害による被害を防止するためには、事業者を始めとする関係者の皆様に事故災害に対する意識を高めていただくことや地方公共団体等の関係機関との連携が重要です。海上保安庁では、タンカー等の危険物積載船舶の乗組員や危険物荷役事業者等を対象とした訪船指導、運航管理者等に対する事故対応訓練、タンカーバースの点検等を実施しています。また、地方公共団体、漁業協同組合、港湾関係者等で構成する協議会等を全国各地に設置し、災害発生時に迅速かつ的確な対応ができるよう油防除訓練や講習等を実施しています。


CeisNet
CeisNet
排出油等防除協議会講習会における機動防除隊による講習
排出油等防除協議会講習会における機動防除隊による講習

4 国際連携

油や有害液体物質等による海洋環境汚染は、我が国だけでなく周辺の沿岸国にも影響を及ぼすことから、各国と連携した対応が重要です。海上保安庁では、各国関係機関との合同訓練や国際海事機関(IMO)の関係委員会への参加等、国際的な取組みに貢献しています。平成26年10月には、「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」の枠組みの下で実施された「第5回合同油防除訓練」に代表団と巡視船等を派遣し、各国関係機関との連携・協力の強化に努めました。

また、海上保安庁では、研修等を通じてこれまで培ってきた海上災害への対応に関するノウハウを各国関係機関に伝えることで、海上防災体制の構築を支援しています。平成26年においても、独立行政法人国際協力機構(JICA)の協力の下、アジア諸国や東アフリカのジブチ等の11か国から関係機関の現場指揮官クラスの職員を我が国に招へいし、油流出事故に起因する海洋環境汚染対策等の集団研修を実施しました。


第5回合同油防除訓練の様子(1)
第5回合同油防除訓練の様子(1)
第5回合同油防除訓練の様子(2)
第5回合同油防除訓練の様子(2)
横浜機動防除基地が人事院総裁賞を受賞
火災船に接近してのガス検知と温度測定
火災船に接近してのガス検知と温度測定

横浜機動防除基地は、基地長以下18名の組織であり、このうち4隊16名(1隊4名:隊長、副隊長、隊員2名)で「機動防除隊」を編成しています。

機動防除隊は、海上に排出された油・有害物質等の防除措置、海上火災発生時における消火・延焼防止措置やこれらの措置に関する指導・助言等を行う海上災害の防止に関するスペシャリストで、平成7年4月の発足以降、平成9年1月に日本海で発生したロシア籍タンカー「ナホトカ」号重油流出事故や同年7月に東京湾で発生した「ダイヤモンドグレース」号原油流出事故等、数々の海上防災事案等への対応を重ね、平成26年4月1日現在の通算出動件数は322件となっています。

人事院総裁賞授賞式
人事院総裁賞授賞式

平成26年12月、機動防除隊が所属する横浜機動防除基地は、人事院総裁賞を受賞しました。これは、海上に油・有害液体物質等が流出した場合や海上火災が発生した場合に、引火・爆発等の危険がある現場において、迅速・的確に防除措置、延焼の防止措置等を行ってきた実績が認められたことによるものです。

今後の取組み

海上保安庁では、今後とも、巡視船艇・航空機や防災資機材の整備、現場職員の訓練・研修等を通じ、事故災害への対処能力強化を推進するとともに、関係者への適切な指導・助言、国内外の関係機関との連携強化を通じて、事故災害の予防や事故災害発生時の迅速・的確な対処に努めます。