海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 > 生命を救う > 海難救助
海難救助

 海は広大で私たちの生活に多大な恵みを与えてくれます。魚などの水産資源は、食生活になくてはならないものですし、我が国に輸出入される荷物も海上輸送によるものがほとんどです。
 時として、漁業や輸送を行う船舶が海難に遭遇し、乗船者が生命の危険に遭ったり、何らかの理由で海中転落や負傷することがあります。船舶やその積荷を救済し、乗船している人々の命の灯火を消さないために、海上保安庁は海難救助に全力で取り組んでいます。

 目 標

 海上保安庁では、海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者数を、平成13年から平成17年までに年間200人以下に減少させる(平成16年に250人、平成17年は200人以下)という目標値を設定し、死亡・行方不明者をできる限り減少させるよう努めています。200人の内訳としては、一般船舶及び漁船乗船者については160人以下、プレジャーボート等乗船者については40人以下としています。平成16年の目標は、それぞれ「210人以下」「40人以下」としました。

▼航空機による救命胴衣着用状況調査集計表
航空機による救命胴衣着用状況調査集計表

平成16年の状況

 平成16年における海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者数は前年の298人から19人増加して317人*1であり、平成16年の目標値250人を67人オーバーしました。
 内訳を船舶の用途別でみると、一般船舶及び漁船では目標値220人に対し265人と45人上回り、プレジャーボート等では目標値40人に対し52人と12人上回りました。昨年は未曾有の台風被害が相次ぎ、外国籍船舶の海難による死亡・行方不明者が多かったこと及びライフジャケットの着用率が目標である50%には及ばず依然として低い状況にあることが要因の一部であると考えられます。
 しかしながら、プレジャーボート等では事故発生時におけるライフジャケットの着用率は56%であり、通常時よりも着用率は上がっています。
 このことから、荒天時など危険と判断した場合には、積極的にライフジャケットを着用する人が増えていると考えられ、施策の効果がうかがえます。
 海上保安庁では、引き続き船舶の乗船者等の安全意識・自己責任意識の向上を図ること等により、平成17年には目標を達成したいと考えています。

▼海上での遭難者の救助状況(平成16年)
海上での遭難者の救助状況(平成16年)

ライフジャケット着用体験
▲ライフジャケット着用体験

今後の取組み

 海上保安庁では、海難等による遭難者を一人でも多く救助するために、海難等の発生から救助に至る3つの過程(Stage)において、次に述べる活動を行っており、一層迅速かつ的確に業務を実施することにより、目標が達成できるよう取り組んでいます。
(1)1st Stage(海難情報の把握)
 海難等が発生した場合、遭難者を迅速に救助するために最も重要なことは、発生した事故について、いかに早く情報を入手することができるかということです。事故の認知が早ければ救助までの時間が短縮され、救助率の向上につながるからです。
 そこで海上保安庁では、情報を素早く入手するために、GMDSS*2に対応した遭難警報を24時間体制で聴守するとともに、緊急通報用電話番号「118番」を導入しています。
 携帯電話等により118番通報を行うことは、海難発生情報を海上保安庁に通報する最も迅速で手軽な方法です。今後さらに多くの方々に118番を周知し有効活用してもらうために、引き続き、様々な機会で周知していきます。
(2)2nd Stage(海難現場への急行)
 海難等の発生を認知した後に、次に重要なことは、現場に救助勢力をどれだけ早く投入できるかということです。
 海上保安庁は、海難等の発生に備え、24時間の当直を行うなど即応体制に万全を期しています。
 また、海難等の発生に備え、船舶の安全を見守る日本の船位通報制度(JASREP*1) の運用のほか、民間救助組織の効率的な活用等によるレスキューネットワークの構築にも努めています。また、海潮流等によりその位置が刻々と変化する海上の漂流者に対して、救助勢力を最短時間で到着させるために、高精度な漂流予測システムを活用するとともに、夜間でも遭難者の体温を感知して発見することができる赤外線捜索監視システム等の導入を行っています。
 さらに、海中に転落した遭難者が生還するためには、浮いて救助を待つことができるライフジャケットの着用が非常に有効であるため、ライフジャケットの着用率を50%以上に向上させるべく、キャンペーンの実施や関係団体を通じた指導等により、その着用を強力に推進していくとともに、ライフジャケット着用状況の調査を継続して行います。
 特に、海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者のうち約5割が漁船で発生しており、また、その半数以上が一人乗りであることから、漁業関係者に対するライフジャケット着用の推進を重点的に実施していきます。

自己救命策確保の実演
▲自己救命策確保の実演

▼レスキューネットワーク
レスキューネットワーク

(3)3rd Stage(救助能力の向上)
 救助勢力が現場に到着した後は、遭難者を迅速に、しかも安全に救助するための救助能力が必要です。
 海上保安庁では、困難な条件下においても救助する能力を有する特殊救難隊員や潜水士等を養成するとともに、生命に危険のある傷病者に対しては救急救命処置が重要であることから、これを実施することができる救急救命士の養成を継続していきます。
 また、海難及び人身事故の約95%は、沿岸20海里以内(約37km)の海域で発生しているため、海上保安庁では沿岸海難等の対応が重要であると考えています。このため、沿岸海難が多発する海域を管轄する航空基地に機動救難士*2を配置することにより、沿岸海域での人命救助体制の強化を図っています。
 このほか、遭難者の陸上への迅速な搬送や医師の救急往診が必要な際の、巡視船艇・航空機による輸送体制のさらなる充実を目指します。
 以上述べてきた3つのStageにおける様々な方策を実施することで、さらなる死亡・行方不明者の減少が可能であると確信しています。

吊り上げ救助
▲吊り上げ救助


生還に向けて
 不幸にして海中に転落した場合に生還するためには、次の3つの方法が非常に有効です。
(1)ライフジャケットの常時着用
 まず、海に浮いていることです。浮かんでいれば救助の手が差し延べられます。ライフジャケットを着用し、救助を待ちましょう。
(2)連絡手段の確保
 次に、適切な連絡手段を持つことです。耐水タイプ又は防水パックに入れた携帯電話、無線機等を携行しましょう。
(3)「118番」への通報
 最後に、速やかに救助要請をすることです。緊急通報用電話番号「118番」は大変有効です。救助要請を受けた海上保安庁及びその他の救助機関が連携し、直ちに救助に向かいます。以上の3つのStepを実行すれば、生還率が大幅にアップします。海上保安庁では、これら3つのStep(ライフジャケットの常時着用、携帯電話等の連絡手段の確保、緊急通報用電話番号「118番」の有効活用)を基本とする自己救命策確保の推進を図っています。皆さん、ご自身の命を守るために、ご理解とご協力をよろしくお願いします。